浅
"ピロンッ"
食卓の端に置かれた僕のスマートフォンが着信音を鳴らした。
「誠くん、食事中は、携帯いじるのやめてね」
注意しつつも、母はどこか嬉しそうにしている。
父はテレビに映されたクイズ番組の問題に頭を捻っている。
母は僕のスマートフォンが鳴ることなんて滅多にないから、僕に人間の友達がいないということを薄々感じていたのだろう。
しかし、何故このタイミングでスマートフォンが鳴ったのか自分にも分からなかった。
クラスLINEというのは、1週間もすれば必要最低限のやりとりのみになるが、できて1週間経つまでの間は何故かグループLINEで他愛もない会話を始めて、僕みたいな関係ない人間にまで通知を送りつける馬鹿がいるので、必ず通知は切るようにしている。
よく分からなかったが、まぁ公式アカウントからの通知を切り忘れたのかな、なんて考えてスマホは放置して、豚の生姜焼きにマヨネーズを付けて白い炊き立てのご飯と一緒に口に放り込んだ。
飲み込んだ後でクイズの答えが頭に浮かんだが、父は宙に向かって何かブツブツ言いながらまだ答えを考えているようだったので口に出すのはやめた。
その後風呂に入って、いよいよ寝るだけかと思いつつもまだ眠くないので、またもやベッドでスマホを開くと忘れかけていたさっきの通知が残っていた。
"青葉くん、勝手に追加してごめんね。
隣の席の、高波です。"
僕は文字通りギョッとした。
例の隣のヤツだ。
僕の脳内で色々なネガティブな熟語が駆け回る。混乱。焦燥。困惑。嫌悪。
"友だちではないユーザーからのメッセージです。追加しますか?"
の文言と一緒に、"追加" と "ブロック"のボタンが上から垂れている。
何故か手に汗が湧く。
ブロック..してもいいのか。
いやしかし、新学期早々隣の席のヤツをブロックするなんて、こんな物騒なことはない。
しかし、ここで追加してしまうとすごく面倒なことに巻き込まれる予感がする。
しかし、コイツが僕にブロックされたということを、クラス中にばら撒いたりしたら?
孤独は平気だが、クラスメイト全員に"嫌われる"ということになると、段々日常生活に支障をきたすようになる。
しかし、しかし、しかし............
すると、
考えれば考えるほど絡まる思考と裏腹に、
僕の親指がポンっと"追加"に触れた。
これが無意識のうちに入るのかわからなかったが、いつの間にかコイツを"友だち"にしてしまった。
安堵と後悔が1:1の割合で僕を襲う。
僕は何をやってるんだ...........。
安堵の方はすぐに溶けて無くなり、
後悔ばかりが舌の根本にこびり付いて、
何度も唾を飲んだ。
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