春
爽やかな風が頬を撫でる。
昨日散々弾いていた曲のあるフレーズが繰り返し頭の奥でうっすら響く。
新緑の香りが少し。無性に水が飲みたい。
すると頭皮に微かな違和感を覚えた。
「青葉、起きろ。HR始まってるぞ。」
頭皮を突いていた配布物のプリントを受け取って、丁寧に一枚だけ取って後ろのヤツに渡す。
いつの間にかクラスメートは全員席についていて紙の擦れる音だけが聞こえている。
「配布物を仕舞ったら放送が始まるまで、静かに待つように」
担任の中山が予備の余ったプリントをまとめながら言う。
さっきまで中山についてあんなに騒いだいたヤツらがもうすっかり静かになっている。
ところで"放送"というのは、始業式を模した全校放送のことであった。
こんなご時世に、700人近くいる全校生徒を
すし詰め状態にしてまで伝える価値のある話など我が校長にはできまい。
今年は新型コロナウイルスの世界的な流行のせいで、イレギュラーなことが多い。僕にとっては好都合ともいえたが。
まず、春休みが2ヶ月以上あった。
こんなこと、後にも先にもないだろう。
そして、世間に「外出自粛」を強いられたお陰で、(強いられなくとも僕はめったに外には出ないけれど)僕は常にピアノを弾くことができる環境にあった。昼夜逆転してしまっても仕方がない。
僕はただ旋律を追いかけたり追いかけられたり、そんな春を過ごしたのだ。
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