ホームルーム教室に近付くとやけにうるさかった。

騒がしさに溶け入るようにして静かに席に着く。

阿呆な投稿者のことをまだ頭の隅で少し考えながら、提出物なんかの整理をしていると

いきなり隣のヤツが、


「青葉くん、中山の奥さんがコロナに感染したって、知ってる?」


と話しかけてきた。


「いや」

知らないしどうでもいいので適当に返す。


中山というのはうちのクラスの担任の名前、だと思う。

"まずお前は誰なんだ"と内心思いながら、下敷きを求めてリュックの中に手を突っ込む。


「とにかく本当のことらしい。

怖くない?うつされたりしたら。

しかも中山、今日学校に来てるって噂だし。休校が長引いたあとの始業式だからって、張り切って来ないで欲しいよね。逆に迷惑っていうか」


「まぁ」


目を合わせずに、答える。

僕の目一杯の無視に近い対応だ。



そいつはまん丸のでかい目をこちらに向けて、"え、それだけ?"という顔をしていたが

僕がその話題に全く興味がないことを悟ったのか訳の分からない笑顔を見せた後、体の向きを変えて、

「0.3ミリのシャー芯誰か持ってない〜?」

と騒ぎ始めた。




手についた小さなゴミをそこら辺の壁になすりつけたときのような達成感を感じつつも、朝の4時までピアノを弾いていたため流石に瞼が重い。

きき耳である右耳を下にして、なるべくこの教室に満ち溢れる騒音を鼓膜に触れさせぬようにした。


朝のホームルーム開始まで、あと15分。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る