第二話:Dive before 執事

「やっと家に帰れた……」




 あのクソ野郎(理玖)に連れ回され(牛丼とス〇バ)家に帰って来た時には21時を回っていた。




「一人暮らしにも慣れたけど、まだちょっとの寂しさはあるな」




 俺は大学に入ると同時に一人暮らしを始めた。


 郊外のボロアパートだ。


 まあ、1人で住めるならどこでも良かったからな。


 なぜならってそんなの理由は1つしかない。




「誰にも邪魔されずにゲームが好きなだけ出来る!」




 そう叫び、軽い足取りで宅配ボックスの中に置いてあったSFO一式だと思われる物を取り出す。




「重たい……」




 何これ??


 重すぎない??


 俺の運動不足か??




「仕方ない、これも夢のゲームライフの為だ!」




肩をグルグルと回して気合いを入れる




 気合いを入れたは良いが、SFO一式はかなり重い。


 推定20kgオーバー。




「これもSFOのためだ! やるか!」




 大翔は何とか運び終えた。


 翌朝の筋肉痛と引き換えに……










 ―〇―〇―〇―〇―〇―










 やっとだ。


 やっと……




「運び終わったぁぁぁぁあぁあ!!!!!」




 ドンドンドン!


 どこからか俺を祝福するかのように音が鳴っている。


 ドンドンドン!


 あ、隣の部屋からだ。


 大声出しすぎた……




「まあともかく、セッティングだな!」




 携帯を見るともう既に22時近い。


 理玖から怒涛のチャットが送られてきていたがとりあえずスルーする(うまい)。




「ここをこうして……」


 


 とりあえずダンボールから出して説明書とにらめっこしながら配線を引く。




 10分後――




「これが……VR4……!」


 


 ゲーミングPCのような黒い箱であるVR4本体と、バイクのヘルメットのような頭全てが覆われるDive装置。


 SFOのソフトはライセンスキーをDive前にVR4に入力すれば遊べるというものでもう入力は済ませてある。


 SFOのソフトの全てを占めていたと言っても過言ではない分厚い説明書はめんどくさいから読んでない。




「とりあえず理玖に電話するか」




 携帯を開けると、最後に理玖から送られてきたメッセが




 デンワ、デロ、コロス




 不安になりながらも恐る恐る電話をかける




「もしもし? 理玖?」




「遅すぎやろ! 何やっててん! 右手と友達になってましたってか? ふざけんな! クソ野郎!」




 あっ、これ結構キレてる……




「もしかして理玖さんキレていらっしゃいます?」




「当たり前や! あんなに、はよ帰りたい、はよ帰って一緒にSFOやろな、とか言ってたヤツが、なんで家帰ってから1ミリも連絡ないねん! アホか!」




「それに関しては申し訳ねえ」




「めっちゃ素直やんお前! 気持ち悪!」




「ネギたま牛丼奢ってやるから許してくれ〜」




「しゃーなし、許したるわ。今僕SFOの中にいるからはよおいで」




「え、連絡はどうやってとるんだ?」




「Diveした時にSNS連携出来るからそこでまた電話かけ直してや! じゃあまた後でー!」




 ツー、ツー、ツー、




 俺の返事は聞かずに電話は切られた。


 まあでも、ついに来た。


 やっとこれでDive出来る!


 Dive装置を頭にはめると何も見えなくなる。


 これでついにあの言葉を言うわけだ。


 VR4の説明書に書いてあったあの言葉を。




「Dive Startダイブスタート」










 ―〇―〇―〇―〇―〇―










 意識が覚醒する感覚と同時に、眼下には、広大な大地が広がる。




「プレイヤーネームを登録してください」




 俺と同じように、宙に浮いた少女が言った。




「ヒロで頼む」




「了解しました。ヒロ様、ようこそスペシャルフォースオンラインへ!」




「えっと、これってどういう状況?」




「説明しますね。」




 コホン


 少女は軽く咳払いをして話し始める。




「本ゲーム、スペシャルフォースオンラインは特殊部隊やテロリストをモチーフとされたVRMMOゲームです。ゲーム内には大きくわけて2つのゲームモードが存在します。《レイド》と《ランク》です。詳細についてはゲーム内NPCにお尋ね下さい。なおゲーム内では体感時間が2倍になります。その点ご注意ください。」




「体感時間2倍ってどゆこと?」




「例えばですが、このゲームで一日24時間過ごしたとすると、現実世界では12時間しか経っていないというような事がありますがそれはそういう仕様ですよ、ってことです。」




「何それ、超便利」




「はい! そこが本ゲームの売りのひとつでもあります。まあでもとりあえず、キャラメイクを行いましょう。」




「キャラメイクか……面倒くさそうだな……」




 目の前にのっぺらぼうのマネキンが浮かぶ。


 MMORPGで髪の色しかキャラメイクをいじらない身からすると、全身のキャラメイクを1からするとなると少し面倒だ。




「このゲームの世界での容姿を決めるキャラメイクがそこまで面倒くさい様でしたら、ある程度自分に似たキャラメイクを私がオートでさせていただくこと出来ますがどうしますか?」




「おぉ……結構どぎつい言葉使うんだな。まあ、とりあえずキャラメイク任せていい?」




「かしこまりました…………」




 そう少女が言った途端、今まではのっぺらぼうだった目の前に浮かぶアバターが途端に俺そっくりに作り変わっていく。


 ボサっとした髪、貧相な身体、悪くは無いけど良くもない顔。


 寝起きの俺にそっくりじゃん……




「おおよそのキャラメイクが終了しました。この状態からどこか変更を加えますか?」




「じゃあ、もう少しイケメンにしてくれ」




「これだから男は(小声)」




「なんか言ったか?」




「いえ、なんにも」




 そう言ってる間にもアバターは作り変わっていく。


 顔のパーツの位置が変わり、一重は二重に、鼻は細く高く、筋肉も程よく付き、




「イケメンになったから嬉しいと同時に自分の顔面を否定されたみたいでちょっと複雑……」




「何か言いました?」




「いや、何も?」




「了解しました。このアバターで大丈夫ですか?」




「ああ。ちなみにSNS連携はどうやってするんだ?」




「この世界でも現実リアルでいう《携帯》のようなものがありまして、この世界では《ツール》と呼ばれています。《ツール》、と名前を呼ぶだけで起動し目の前にホログラムウィンドウが表示されます」




「《ツール》」




 目の前にホログラムウィンドウが表示される。




「その感じです。大手SNSサービスはデフォルトでインストールされてあるので、そこから自分の使っているSNSにログインするだけです。ホログラムウィンドウは指で触れて横にスワイプすることで閉じることができます。また、意思のない呼び掛けには反応出来ないのでご了承ください」




「意思のない呼び掛け?」




 慣れない手つきでSNSにログインしながら聞き返す。




「例えを上げるなら、会話の途中に出てきた《ツール》というワードには反応しないですよってことです」




「そゆことか」




「そゆことです。ではチュートリアル作業が終わったので私はこれで失礼します。AINPC-0003の《アユ》が対応致しました。心ゆくまで本ゲームをお楽しみください。」


 










 目の前が暗くなる。












 その直後、目の前に広がるのは、




「すげぇ、マジでリアルだ。これが……SFO……」




 銃と食べ物の見たことも無いような露天が並ぶ広場。


 その中で一際目立つ高層ビルが左右に2棟。




「よし、とりあえず理玖に連絡だな!」




 周りを見回しても何もわからなかったのでとりあえず理玖に電話をかけることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る