第一話:購入と豚丼

 FファーストPパーソンSシューティング

 それは長い間ゲーマー達を熱狂させた。

 2000年頃から人気が出始め、2020年頃にはE-Sportseスポーツという競技ゲーム内の1ジャンルとなるまでに発展した。

 そして2100年、全世界のFPSゲーマー達を揺るがせるゲームが発売されたのだった。







「…という話やねん! なあなあ、大翔も僕と一緒にやろや! 新作の《スペシャルフォースオンライン》ってやつ! ネットでめちゃくちゃ盛り上がってるで? 大翔、見てないん?」


 時刻は昼休み、大学にも慣れてきてつるむメンツもだいたい固定されてきた5月の中旬に俺、江間えま大翔ひろとは大学で唯一の友人である癖強い系の関西人、小森こもり理玖りくに大声でまくし立てられていた。


「見たに決まってんだろ! 俺だってやりてえよ! 金がねえんだよ! か、ね、が!」


 そうだ。

 1週間前に発売されたSスペシャルFフォースOオンラインはとにかく、めちゃくちゃ高い。

 ソフトですら3万円、ハードなんて20万円もする高級品だ。

 まあ、家で完全VRゲームを出来るなら安いものだと思うが。


「金ぇ? 20万くらい死ぬ気でバイトしーや。てか金くらい貯めときやバーカ。 20万であの完全VRが出来るんだから大翔も天下のSANYさんに感謝しやなやで!」


「ちゃんと貯金してるっての! でもあと数万足んないんだよ〜どうにかしてくれよ〜。まあでも、完全VRが20万って考えると相当安いもんだよなぁ……」


 完全VR。

 それはついこの間、SFOのハードとしてSFOと同時に発売された。

 SANYが開発した新しいコンシューマーゲーム機だ。正式名称はVirtual Reality 4、通称VR4だ。

 それが完全VRと言われる所以は、その名の通り完全にゲームに入り込むことが出来るところだ。

 現実での感覚そのままゲームの中にもぐり込める。

 ダイブ(Dive)と巷では呼ばれている。

 本当に仮想現実という、言葉がしっくり来るくらいらしいのだ。

 まあ、俺はまだ買えてないから知らないが……


「(そんなのやりたいに決まってるよなぁ……)」


「そんなに落ち込むなって! 僕も練習しながら気長に待っとるから!」


 りくはにやにやしながら俺の肩を叩いた。


「くっそぉぉぉ!! 高校時代短期バイトの鬼と言われた本気の江間大翔ってのを、見せてやるからなぁぁ!!!」


「まあまあ、頑張って下さい(笑) まあ、僕は今日家に帰ったら家にもう届いてると思うのでお先にプレイさせて頂きますね? バイト頑張ってね! 大翔きゅん!」


「お前煽りスキルにステ振りしすぎだろ……さっさと次の講義行くぞ。今日は結構ハードなんだからな」


「おい! ちょっとくらい待ってくれてもいいやん! 悪かったって!」


 一人称は《ぼく》のクセに気が弱い訳でもなくて、普段はなまってるくせに煽る時だけ標準語な腹立つ奴を置いて、先に俺は席を立つのだった。





 ―〇―〇―〇―〇―〇―





 1週間後――


「おい! 理玖! ついに……ついに買ったぞ!!!」


 1週間後の昼休み、俺は理玖に言った。

 俺はこの一週間短期バイトに短期バイトを重ね1週間で7万近く稼いだのだ。

 思い返せば地獄の日々だった……

 ダンボールに水詰めたり、刺身にたんぽぽ乗っける仕事はマジできつい。


「まじで? 僕もだいぶこのゲームのコツ掴んできたで。それにしても大翔遅かったね(笑) 僕がキャリーしてあげようか?(笑)」


 こいつ……

 殺してぇ……!


「3万回死んで一生懸命働く人達に謝れ、話はそれからだ。」


「うわ! 何それ意味わからんやん! いつの間に大翔働く人の代表なってん!」


「この死ぬ気で働いた1週間の間にだよ! お前には分からないやろうな!」


「それはそれは! ご苦労様です。大翔殿。」


「腹立つ……!」


 まじで、こいつなんでこんなに煽る才能あるんだよ!


「まあまあ、それよりさ! もう買ったってことは今日の晩出来るってこと?」


「当たり前だろ! 今頃はもう俺の家に届いてると思う! くぅぅぅぅ! 早く帰りてぇ!!!!」


「まあまあ、そんな焦りなさんなって(笑) ゲームは逃げないからさ? ちゃんとご飯食べて講義受けなきゃダメだよ?」


「やっぱりお前うぜぇ! 《趣味に理解はあるけど真面目な彼女風》に諭してくるのムカつく! うざい!」


 理久は左目を閉じると、左手をピースして、


「てへぺろっ☆」


「死ねっっっっっっ!」


 あー、うざいわこいつまじで、人煽る為に生まれてきた人造ロボット疑うレベルでうざいわ。


「しゃーないな。今晩は僕が吉〇家でチーズ豚丼奢ったるから許してや! 祝砲をはなてー!って感じで!」


「祝砲しょぼ! 牛丼屋じゃん! しかもなんで牛丼屋来たのにチーズ豚丼奢られるの! ちょっと複雑!」


「まあまあ、落ち着いて? ツッコミが渋滞してるよ? そんなんだからお金無くてゲーム買えないんだよ?(笑)」


 半笑いで理玖は言う。


「関係無いわ! もうツッコミ過ぎて頭おかしくなりそう!」


 もう本当に頭おかしくなりそう……


「良かったやん! これでツッコミマスター大翔になるから晴れて関西人を名乗れるやん!」


「ツッコミマスターになったら関西人なのか!? ツッコミマスターって何なんだよ!!」


「まあまあ、落ち着いて? もう時間だからちゃんと講義受けに行こ? 講義は真面目に受けなきゃダメだよ?」


「そのツッコミはさっきした!!!」


 こんな調子で昼休みはあっという間に過ぎ……





「と、言うわけで! 吉〇家行くぞーー! 大翔も楽しみにしといてな! チーズ豚丼!」


「俺は一刻も早く家に帰りたいけどな!」


「まあ、善は急げやし、はよ行くで!」


「(こいつ全く人の話聞いてないぞ……)」


 こうして家に帰る前に牛丼に付き合わされ家に帰ったのは21時過ぎだった……






 ・吉〇家にて――


 大翔「おい、理玖、お前ほんとに俺にチーズ豚丼食わせる気なのか……?」


 理玖「当たり前やん! なんだかんだそれが1番美味いで! あ、すいません、注文いいですか?」


 大翔「まあ、確かに美味いのは認めるけど……」


 店員「はい!」


 理玖「大盛りネギたまギョクとチーズ豚丼で」


 店員「はい? もう一度よろしいですか?」


 理玖「すいません……ネギたま牛丼の大とチーズ豚丼でお願いします」



 店員「かしこまりました! (厨房に向かって)ネギたまとチーズ豚でぇす!」



 大翔「おい理玖ぅ、ちょっとツラ貸して貰おかぁ?」


 理玖「ん、ん?? 急にどしたんよ、人も変わってもうてるで? それにツラ貸すも何も僕隣におるやん」


 大翔「まあ、言いたい事が死ぬほどあるんやぁ。まずリアルで吉〇家コピペを使うなぁ! そして、何だかんだいちばん美味いとか言うからお前もチーズ豚丼食べるのかなとか思わせといての」


 理玖&大翔「「ネギたま牛丼」」


 大翔「ハモってくるなぁぁ!!!」


 理玖「まあまあ、落ち着きーや? ゆっくり飯食おうや?」


 大翔「覚えとけよ……」


 この後大翔は理玖にス〇バまで期間限定フラペチーノを飲みに連れられたという……


 大翔「いい加減にせえよ!」


 理玖「僕と絡みすぎてエセ関西人がでてもうてるで」

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