　グアムは怪物の出現により地獄絵図と化した。ミルコが召喚したとは誰も思っていない。

　2021年7月中旬

　✈　成田市

　凶悪ギャングの獅子丸聡率いるギャング団は、列車を襲撃し乗務員を殺して現金を強奪した。そして同じ日に遠隔地であった事件の犯人として自首・収監され、アリバイを得るという知能策で強盗殺人の重罪を逃れる。

　母親で犯罪の師でもある獅子丸弓子に溺愛されて育った聡はマザコンのサディストに成長した。その妻の杏は獅子丸に愛想を尽かし、獅子丸の右腕である梶原勇太と内通するようになっていた。

　列車強盗を獅子丸一味の仕業と見る捜査当局は、潜入捜査官・工藤雅也を囚人に偽装させて刑務所に送り、獅子丸と同房に置いて真相を探り出そうとする。梶原は刑務所内の手下を使って、事故を装い獅子丸を殺そうとしたが、工藤の機転で阻止される。獅子丸は工藤の正体を知らぬまま強く信頼するようになる。

　そこに思わぬ知らせが届く。留守にギャング団を束ねていた弓子が、梶原の裏切りで殺されたのだ。梶原は獅子丸を裏切り母殺しに荷担した杏と共に、ギャング団の頭目となっていた。逆上して暴れ回った獅子丸は復讐を誓い、仲間を集めて人質を取り刑務所から集団脱走。工藤も同行する羽目になる。

　獅子丸は梶原を殺し、杏を脅して自分の元に戻らせると、新たな仲間たちと共に人里離れたアジトで強奪計画の準備に取りかかる。　

「ボス、それにしても暑いっすね？」

　アロハシャツを着た部下の1人がコンビニで買ってきたカキ氷を食べてる。知覚過敏症らしく、頭を押さえてる。

　部下がクーラーをつけようとしたので獅子丸は頭を引っ叩いた。

「メーター回ってること知れたらサツに嗅ぎつけられんだろ、アホ！」

　アジトの近くは川が流れていて、蝉がけたたましく鳴いている。

　母親を失った獅子丸は自らの精神の均衡をも失いつつある中、「親友」である工藤に全幅の信頼を置くようになる。

　2021年7月下旬

　化学工場からの現金強奪を計画した獅子丸一味は、タンクローリー車を改造して中に隠れる作戦で工場構内へ潜入。首尾よく工場事務所に侵入した獅子丸たちだったが、そこで落ち合った仲間が工藤の正体を見破ってしまう。もっとも信頼していた人物が潜入捜査官だったというあまりに大きな裏切りに獅子丸は錯乱状態になる。折しも捜査当局が急行してギャング一味を包囲、手下たちは警官隊の銃弾に次々と倒れた。

　追いつめられた獅子丸は完全に正気を失い、駆け上った大きなガスタンクの頂で哄笑しながらタンクに発砲した。どこかで花火の音がしてる。去年はコロナのせいで花火大会も開催されなかった。

「やったぜママー！世界一だ！」――次の瞬間、タンクは獅子丸もろとも大爆発した。

　グアム市警察本部捜査課のスネーク警部補は、マチルダ上院議員から裁判の重要証言者の保護を命じられる。その証言者とは、ルイージというマフィア組員。ルイージは組の金を横領し、組のヒットマンから狙われていた。

　スネークは、部下のカロット部長刑事やクイーン刑事と交代でホテルの一室にてルイージを保護する。ところが、ルイージはクイーン刑事が目を離した隙に部屋のドアを開け、それと同時に部屋に入ってきたヒットマンに射殺されてしまい、クイーン刑事も重傷を負う。

　クイーン刑事の証言により、ルイージがヒットマンと示し合わせたかのようにドアを開けたことを知ったスネークは、事件の裏になにかがあることを感じ取り、ルイージが死んだことを報告せず、カロット部長刑事と捜査を開始する。

　2021年8月上旬

　隅島聡と竹梨潤は成田警察署の刑事だが、犯人逮捕のためには手段を選ばない捜査をするはみ出しコンビ。先日も犯人を捕まえるために富豪の邸宅で大暴れをして、署長からおかんむりを食らう。そんなときに無差別殺人が発生した。竹梨と隅島は成田からメキシコへ飛び、裏に潜む犯罪集団を追いつめ、激しい戦いに巻き込まれていく。

　さいたま市

　私は警視庁捜査一課に所属してる。警視庁は東京にあるが、難事件の場合は全国に足を伸ばす。去年より暑さが酷く、蚊がやたら多い。

　医者のマリアがモルヒネ中毒で死亡する原因となったサンドウィッチを作ったエリノアは殺人容疑で起訴される。彼女の婚約者ロディーがマリアに心変わりし婚約を破棄した点が強力な動機と判断され、陪審におけるあらゆる状況が彼女に不利な中、海外からやってきたウィルソンが真相究明に動き出す。

　ウィルソンはマリアの殺害現場に『狂う』というダイイングメッセージが残されていたことを埼玉県警のある刑事から知らされる。

　アメリカ人のマリアが死ぬ直前に漢字なんか使うだろうか？別の人間、おそらく日本人がマリアの遺体を見つけて、犯人に気づいて『狂う』と書いたんじゃ？

　マリアは精神科医で様々な患者を診ていた。

　ネコタ・ヘイゾウ　スピード狂

　メグロ・エイスケ　ギャンブル依存症

　レンジョウ・エイタロウ　コロナのせいで結婚の予定狂う

　オオスギ・コウミ　認知症

　ソガ・トシコ　子供を事故で失う

　川崎市

　勤務歴12年のベテラン航空機整備士の猫田平蔵は、機体の修理箇所をすぐに発見するため他の整備士から尊敬されていた。翌朝、家では出勤前の平蔵がテストを控える妻の紀子を励まし、2人は職場へと向かう。

「ワッショイ！ワッショイ！」

　子どもたちの活気に満ちた声がした。

「お神輿だ」と、紀子。

「ガキの頃を思い出すな〜、ラジオ体操とか朝顔の観察とかめんどくさくなかった？」

「平蔵ってガサツだもんね？」

　東京オリンピックもいよいよ佳境だ。

　その夜ある港では、タレコミ情報を得た川崎警察署の栄螺幸太郎と鱒川浩正の2人の警官が麻薬の取引現場に突入しようとしていた。

　突入した栄螺らは手早く容疑者たちを拘束した後で応援を呼ぶ。今まで数多くの取引現場を押さえてきた2人は一見すると優秀だが、彼らは密かに現場から麻薬の一部を持ち去り自分たちのものにするなどの行為をしている悪徳刑事だった。帰宅した平蔵は、テストが上手くいった紀子の用意した豪華な夕食を楽しみ彼女を旅行に誘う。　

「ハワイにでも行かない？」

「マジで！？超ウレシー！」　

　平蔵は麦茶を飲んだ。キッチンでニュースを見ていた。

　翌日、栄螺らはタレコミ屋から取引現場の住所を聞き、夜その取引現場に行く。しかし彼らが乗り込んだのは平蔵の家で、シャワーの後髪を乾かしていた彼が物音を聞いて様子を見に行ったとき、持っていたドライヤーを銃と勘違いした栄螺に撃たれ気を失う。そして栄螺らは家中を調べるが麻薬は見つからず、確認すると栄螺が鱒川に伝えた住所がタレコミ屋の情報とは違っていたことが判明する。一般市民の家に誤って突入した上に住人を撃ったことがばれて経歴に傷がつくことを恐れた2人は、港の取引現場から盗んだ麻薬を使い証拠を偽って平蔵が先に発砲したように工作する。

　意識を取り戻し自分が逮捕されたことを知った平蔵は、栄螺らの陰謀で職を失うのはおかしいと検察から提示された取引を拒否し裁判での徹底抗戦を決意する。だが2人は周りから優秀な警官と見なされているため、平蔵が無実を主張するが陪審員には届かず懲役6年の有罪判決が下される。紀子と引き離されることになった彼は、彼女に愛していると伝え連行されて行く。収監されることになった平蔵は、刑務所に向かうバスの中で自分と同室の鮠川将太に話しかけられる。しかし後日、鮠川は、他の囚人からタバコを盗んだためその囚人に殺される。

　平蔵は囚人の鱧崎翼に喧嘩を売られるが無視し、その後、平蔵と同じく栄螺らに逮捕されたという海老島涼介と知り合う。一方、紀子は平蔵の無実を証明するため奔走していた。

　私はウィルソンという頼もしいアメリカ人を仲間にした。

　ウィルソンは川崎で起きた事件の関係者をメモに起こした。

　ネコタ・ヘイゾウ、ネコタ・ノリコ、サザエ・コウタロウ、マスカワ・ヒロマサ、ハヤカワ・ショウタ、ハモザキ・ツバサ、エビシマ・リョウスケ……サザエさん。

　ダイイングメッセージの『狂う』はシシマル・アンを意味してるんじゃ？『狂』って漢字をよく見てみると、百獣の王・ライオンになる。

　2021年8月中旬

　ウィルソンはグアムに戻って来た。

　歯科医の前では、アメリカ最大の銀行の頭取、元女優、謎のギリシャ人、そしてウィルソンであっても等しく自尊心を傷つけられる。その歯科医はコロナで周囲の人間から心ない言葉を浴びせられ、冷たい人間に豹変した。ようやく治療を終えて帰宅した俺を待っていたのは、先程の歯科医の拳銃自殺を知らせる警察からの電話だった。殺害現場で他殺の可能性を指摘して捜査を開始する俺だったが、その後、彼と同じ日に歯科を訪れた患者の2人が殺害される。

　アダム・アークエットという銀行の頭取、それとアン・アークエットという女優で、2人は親子だった。アダムが父親で、アンが娘だ。

　両人ともカプセル入り鎮痛剤に仕込まれた青酸で死に至った。

　俺はグアム郊外のバーでジントニックを味わいながら、ビートルズの『レット・イット・ビー』に酔いしれていた。

　翌朝、俺は親友のスネークから仕事を依頼したいと誘われ、意気揚々とマンションにやって来た。スネークを訪ねる俺だが、管理人はスネークが前日、自動車事故で死亡したと彼に告げる。スネークの葬儀に出席する俺は、そこで彼の部下のクイーンと知り合う。クイーンはスネークが街で最悪の密売人だと告げるが、信じられない俺はスネークへの友情から事件の真相究明を決意する。

　事件の関係者を調査すると、スネークの恋人であったカロット部長刑事と出会う。

「スネークってゲイだったのか……」

　意外な真実に俺は打ちのめされていた。

　俺とカロットは二人で事件の目撃者である管理人に話を聞き、現場に未知の“第三の男”がいたことをつきとめる。しかし貴重な証言を残した管理人は何者かに殺害され、俺がその下手人だと疑われて逃走。さらにスネークの知人であるロシア人からも追われ、クイーンに助けを求める。そこで初めてクイーンからスネークが粗悪新型コロナ抗ウイルス剤の売り捌きで多数の人々を害した実態の詳細やその証拠の数々を見せられる。

　友情・愛情と正義感の間で行き詰まった俺は酒で気を紛らわせる中、ニューヨークに戻ることを決意。酩酊状態のまま、別れを告げるために寄ったカロットの下宿の近くで、“第三の男”スネークと邂逅するが、まるで幻かのごとくスネークは消え去ってしまう。俺はスネークを目撃したことをクイーンに報告。クイーンは疑っていたが、念のためにスネークの墓を掘り返すと、別人の遺体だったことが判明し、スネークの生存を確信する。一方、国籍を偽っていたカロットがパスポート偽造の罪でロシアのKGBに連行されてしまう。

スネークのことを信じたい俺は、彼とルナパークの観覧車の上で話し合うが、改めて彼の非情ぶりを悟る。その後、クイーンからスネーク逮捕の助力を促された俺は、親友を売るもやむを得ずと決意し、カロットの保釈を条件に承諾。

　俺とクイーンの計らいで釈放されたカロットはスネークを烈しく罵る。

「この卑劣感！おとといきやがれ！こっちはどれだけ泣いたと思ってるの！？ワタシの愛が分からないの！？」

　カロットのスネークに対する愛を知った俺はクイーンへの協力を一時断念するが、病院を視察してスネークの流した害毒を目のあたりにしてスネーク狩りに参加することを再度決意し、囮となって彼をカフェに待つ。店の裏口から現れたスネークは警戒を知るや下水道に飛び込み、ここに地下の追撃戦が開始される。

　クイーンの銃弾で重傷を負ったスネークはその後、銃を手にした俺に追いつめられる。　

「安らかに眠れ」

　俺はトリガーを絞った。

　下水道内に一発の銃声が響き渡る。

　その後、場面は、“第三の男”であったスネーク本人の埋葬に。葬儀の後、俺は空港へ送ってくれるクイーンの車を降りて、墓地の路傍でカロットを待つ。しかし、彼は表情をかたくしたまま一瞥もせず彼の前を歩み去って行く。

　2021年8月下旬

　アメリカのドナルド・スペード政権の管理下に置かれた韓国の都市ソウル。北朝鮮の侵略による戦災を逃れた人の多くは、日本への亡命を図ろうとしていた。

　目黒英介は、韓国が陥落する前に理由を告げずに去った恋人、キム・ジウと、彼が経営する新大久保にある酒場『九龍』で偶然の再会を果たす。ジウの好きな曲、BoAの『No.1』が流れる。

「元気だった？ギャンブルはやめた方がいいよ？」

「もうやめた」

　真っ赤な嘘だ。パチンコ、競馬、競輪、宝くじ……最近は麻雀もはじめた。コロナで緊急事態宣言が出ても『海物語』で遊んでた。

　ジウが店を去って再び過去の痛みに苦しむ目黒。

　ジウの夫で、現在は中国に併合された台湾人のワン・グァンジョン（⭐イングリッシュネームがウィルソン）は現地のオルグと接触、脱出のチャンスをうかがっていた。台湾植民地警察のリン署長は計算高い男だが、流れに逆らうように異郷で生きるジウにシンパシーを感じ、「ジウにリンには関わるな」と、ワンは釘を指す。現地司令官である中国空軍のリー・ホンゲ少佐は、ワンを市内に閉じ込める。

　ジウは、夫を助けられるのは闇屋の連城英太郎からスペード政権の発行した通行証を譲り受けた目黒しかいないと、必死に協力をお願いする。そして通行証を渡そうとしない目黒に銃口さえ向ける。しかし引き金を引くことが出来ないジウ。2人はお互いの愛情を確かめ合う。

　目黒は、ワンとジウが通行証を欲しがっている事実をリン署長に打ち明け、現場でワンを逮捕するようにと電話連絡する。手柄を立てるために、約束の閉店後の店にやってきたリンだが、目黒の本心は、2人を亡命させるためにリンを成田空港まで車に同乗させて監視の目を欺く点にあった。リーを射ち殺してでも彼女を守ろうとする目黒は、過去の痛みに耐えていた彼ではなかった。

　愛を失っても大義を守ろうとした目黒を前にして、実はレジスタンスの支援者であったリンは、香港へ逃げるように勧めて、見逃すことにする。