第7話 アンソニー事件 発端編
テイラーの部屋を俺は徹底的に調べた。パソコンにはキョウコを殺したことを反省する文が残されていた。また、マホガニーの机の抽斗からは、スピードスケートのエヴァの写真が出て来た。
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2021年5月中旬
俺はサンフランシスコのサクラメント・バレー駅からシカゴに向かう途中のカリフォルニア・ゼファー内で、ある老婦人と話をする。彼女はこれからリンカーンに、自分が住んでいる街で連続殺人が起きていることと、その犯人を伝えに行く途中だった。
カリフォルニア・ゼファー (California Zephyr) は、シカゴ(イリノイ州)とサンフランシスコ・ベイエリア(カリフォルニア州)を結ぶアムトラックの長距離列車である。3,924km (2,438マイル)の行程を車中2泊3日、50時間以上かけて走るこの列車は、沿線の景色の良さで知られる。
停車駅
シカゴ・ユニオン駅→ネイパービル→プリンストン→ゲイルズバーグ→バーリントン →マウントプレザント→オタンワ→オセオラ→クレストン→オマハ→ネブラスカ→リンカーン→ヘイスティングス→ホルドリージ→マクック→フォートモーガン→デンバー・ユニオン駅→フレーザー→グランビー→グレンウッドスプリングス→グランドジャンクション
→グリーンリバー→ヘルパー→プロボ→ソルトレイクシティ→エルコ→ウィネムッカ→リノ→トラッキー→コルファックス→ローズビル→サクラメント・バレー駅→デービス→マーティネズ→リッチモンド→エメリービル
別れ際彼女は、殺人はとても容易だと言い、人ごみに飲まれていった。翌朝の朝刊で俺は、昨日の老婦人が車にひき逃げをされて死亡したことを知る。彼は事件に興味を持ち、老婦人の住んでいた街に向かう。
2035年・東北共和国。千葉圭は反体制活動家として10年ものあいだ投獄されていたが、2035年に釈放されこの年に首相となった。それまで政府の主要ポストを占めていた官僚たちは、千葉が報復的な人事をするのではないかと恐れ、一部の者達はそれを見越して荷物をまとめ始めていた。それに対し千葉は、初登庁の日に職員たちを集めて「辞めるのは自由だが、東北共和国を作るために協力してほしい。あなたたちの協力が必要だ」と呼びかけた。安堵した職員たちは千葉のもとで働くこととなった。
一方、仙台のラグビーチーム『ファルコンズ』は当時低迷期にあり、選手もわずか1人という状況だった。ラグビーは一時期は流行し、大泉洋の迫真の演技が光った『ノーサイドゲーム』は『スクールウォーズ』以来のラグビードラマだった。しかし千葉はラグビーが日本の和解と団結の象徴になると考え、チーム名とユニフォームの存続を求め周囲を説得し、一方で女性ラガーマンの染谷菜名を茶会に招いて言葉を交わし、励ました。
その後『ファルコンズ』のメンバーたちは、千葉の意向で貧困地区の子どもたちにラグビーの指導に赴く。当初それを不満に感じていたメンバー達も、一連の地道な活動により、国民のあいだでチームの人気が少しずつ高まり、自分たちの存在が国内のみならず世界的に注目されていることを知るに至った。
そして『ファルコンズ』は、自国開催の2035年7月ラグビーワールドカップにおいて予想外の快進撃を見せ、ついに決勝進出を果たす。今や日本の象徴として見られるようになった『ファルコンズ』は、国民が見守る中、強豪ニュージーランド代表『グレートバイソンズ』との決勝戦に臨む…。
2021年5月中旬
老婦人が住んでいたソルトレイクシティに俺は来ていた。ソルトレイクシティ(Salt Lake City)は、アメリカ合衆国のユタ州の州都。同州の最大都市で、市内の人口は190,884人(2014年推計)であるが、周辺地域を含めた都市圏の人口は1,153,340人(2014年推計)におよぶ。末日聖徒イエス・キリスト教会が築いた宗教都市であり、同教の本部が置かれている。ロッキー山脈の西部にあたる州の北部に位置し、西部高原地域の経済・文化の中心地となっている。2002年には冬季オリンピック(ソルトレイクシティオリンピック)が開催された。
俺は密かに私立探偵を開業していた。俺は老婦人と親したかったエイブラムス社長の邸宅を訪れる。屋敷には大富豪の娘として我儘に育った姉のアビゲイルと妹のアレクサンドラが住んでいるが、この美しい姉妹は同時に社長の頭痛の種でもあった。社長は古書店主のアルバートがアレクサンドラに対しバクチの借金の催促の名目で脅迫してきたと俺に打ち明けて解決を依頼する。社長の用心棒でお気に入りのアリソンは、俺とも旧知の仲だが、最近になって賭博師のアルフレッドの妻と一緒に姿を消しており雲行きがおかしい。契約を交わし帰ろうとする俺を姉のアビゲイルが引きとめる。館では用心棒だけでなく運転手も消えていたと知る俺。姉は妹と違い相当なしたたか者らしい。
ソルトレイクシティの図書館で古い本の情報を仕込んだ俺は古書店街に足を運ぶ。正体を隠してアルバートのアジトを訪問するが本人は不在。応対に出たアントニアは客の俺を邪険にして追い払う。暗くなってから帰ってきたアルバートを尾行すると一軒家にたどり着く。雨の中、別の車がやって来るが、運転していたのはアレクサンドラだった。外から窺っていた俺は、銃声と悲鳴を聞くと家の中に走りこむ。裏庭から立ち去る2台の車。家の中にはチャイナドレスで素足を放り出し酩酊状態のアレクサンドラと射殺死体となっているアルバート。胸像に仕込んだ隠しカメラからはフィルムが抜き取られていた。無人の一軒家、淫靡な隠しカメラ、脅迫者の死体、酩酊した大富豪の娘、他には誰もいない。
俺は意識の戻らない娘を彼女の車でエイブラムス邸まで連れ帰ると「何も無かったことにしろ」とアビゲイルに釘をさす。自分の車を取りに雨の中を歩いて戻ってみると現場からはアルバートの死体が消えていた。その夜、事務所にいた俺のもとを学生時代からの知り合いであるエンリケ刑事が訪れ、エイブラムス家のクルマと運転手が波止場で発見されたと知らせてくれた。運転手のバリーの死体を見に行った俺達は、バリーの死は自殺とも他殺とも判断がつかないと話し合う。
翌朝、事務所に出勤した俺を待っていたアビゲイルは、隠しカメラで写したカルメンの写真を5000ドルで買い取るようにとの脅迫状が届いたと相談する。再びアルバートのアジトを訪問すると、応対に出たアントニアの様子から逃走の準備を察知。再び尾行して新たな脅迫者ブラッドのアパートを突き止める。脅迫者との交渉の前に昨夜の惨劇のあった一軒家に足を向けた俺をアレクサンドラが待っていた。二人で事件を検証するため家屋の様子を見て廻る中、家主であるアルフレッドとその子分たちが入ってくる。俺は自分の正体を隠したままアルフレッドの様子を窺うが、互いに尻尾をつかませない…。
脅迫事件に戻ってブラッドのアパートに乗り込むと、今度は別の男がブラッドを殺してしまう。犯人を捕まえて警察に引き渡す俺。最初の脅迫者アルバートは昨日死んで、新たな脅迫者ブラッドが今日死んだ。事件は終わったと小切手を渡すアビゲイルに俺は納得していない。証拠は無いが、2人の脅迫者を殺した黒幕はアルフレッドと睨んでおり、事件を決着させたいエイブラムス家が地方検事にかけた圧力をかわして、アルフレッドとカジノで会う約束を取り付ける。
2021年5月下旬
カジノの先客であるアビゲイルとアルフレッドの悶着から、逆に二人が裏で取引きをしていると感づいた俺は、車の中で彼女を問い詰めるが頑として口を割らない。アビゲイルに惹かれている俺は彼女を車の中で抱きしめる。アビゲイルを送って事務所に戻った俺をアルフレッドの子分たちが襲う。痛めつけた後で手を引けと脅迫して去っていく様子をアルバートの子分デビッドが見ていた。アリソンの居場所を教えるかわりに200ドル交換を持ちかけたデビッドだが、アルフレッドの子分たちは邪魔な存在として「助かりたければ三つかぞえろ」と嘯きつつ無慈悲に殺す。殺し屋に手が出せない俺は惨劇をなすすべもなく物陰から見ているしかなかった。
俺は生き残ったアントニアに200ドルを渡し、アリソンの居場所であるロード・サイドの自動車工場を聞き出すが、そこには敵の罠が仕掛けてあり殺される直前の俺を助けたのはアビゲイルだった。アジトの殺し屋たちを片付けるとアビゲイルと一軒家に赴き、カジノにいたアルフレッドヘ『自分は自動車工場にいるが』話し合いたいと電話をかける。二人が会う場所に指定した一軒家にカジノとロード・サイドから向かった場合は、自分が先に到着するとアルフレッドは気づく筈。そこでウィルソン殺しの罠を張るアルフレッドの裏をかくしか勝ち目はないと考える俺。平気で子分に殺しをさせるアルフレッドの底知れない恐ろしさが身に染みたが、ここで一気に逆襲へ出る。
やはり殺し屋を連れてきたアルフレッドは、子分たちに俺がやって来た際にはそのまま家に入れておき「必ず最初に家から出るはずの」俺を玄関で撃ち殺せと指示しておく。窓の隙間から様子を見ている俺。家の中に入ってきたアルフレッドは先客の姿に驚くが、体勢を立て直すとアリソンは既に死んでおり酩酊状態のアレクサンドラが殺したこと、アレクサンドラ自身は殺した事に気付いていないと真相を語る。真の恐喝者であるアルフレッドへの怒りと、利用される姉妹へのやり切れなさに俺は拳銃を取り出すと「助かりたければ3つかぞえろよ!」と脅し、アルフレッドを玄関から最初に家から飛び出させて子分たちに撃ち殺させる。
アルフレッドは死ぬ前にこう言った。
「テイラーを殺したのはトーマスだ」
🌉
2021年6月
俺は、ゴールデン・ゲート・ブリッジにやって来た。
金門橋とも呼ばれるこの橋は、アメリカ西海岸のサンフランシスコ湾と太平洋が接続するゴールデンゲート海峡に架かる吊り橋だ。
主塔の間の長さ(中央径間、支間)が1,280メートル、全長2,737メートル[1]。主塔の高さは水面から227メートル。
橋の建設は1933年に始まり、1937年に完成した。1964年にニューヨークのヴェラザノ・ナローズ橋が完成するまでスパン世界一の吊り橋であった他、スパン世界一であった期間が記録に残っている中で最も長かった(27年)橋でもある。建設費は2,700万ドル。
サンフランシスコの主要な観光名所ではあるが、同時に自殺の名所にもなっている(2006年に製作された映画「ブリッジ」はこれをテーマにしたもの)。1993年にはファッションブランド・ヴィクトリアズ・シークレット創業者であるロイ・レイモンドも自殺している。2014年時点で、1,653名もの人がこの橋から飛び降りている。この人数は、飛び降りたところを目撃され、遺体が回収されたケースのみの数であり、世界一飛び降り自殺の多い建造物である。
水面から約67mもあるため終末速度は時速130kmにもなり、落水事故972名中 生存者はわずか19名であり、死亡率は実に98%にもなる。その対策のため2005年から防護柵を設ける提案がなされているが、4,000万から5,000万ドルにもなる費用や、景観を損ねるであろうこと、大型の防護柵を設置したことによる暴風の影響などの観点から反対意見も少なくなく、2008年時点で実現には至っていなかった。その時点での対策としては、自殺中止を呼び掛けるホットラインのポスターの掲示や、スタッフによるパトロール、夜間における歩行者の通行禁止などである。2014年になって、飛び降りた人を受け止めるネットをつけるなどの工事(2018年完成予定)が行われていると報じられた。2018年着工、2021年完工予定。
この橋から旧友のアンソニーは飛び降りて死んだ。
アンソニーは幼い頃からオリンピック選手に憧れていた。だが、運動音痴なアンソニーには到底無理な話だと周囲からは馬鹿にされていた。そんなある日、スキージャンプの有力選手とされていたアーサーが練習中に事故を起こして重傷に、そんなことが起きてるとも知らず、アンソニーはスキージャンプの練習場があるカナダの雪山へと向かうのだった。
そこでアンソニーが出会ったのは、過去には天才スキージャンパーと称されていたが、傲慢な態度と素行不良が原因でスキージャンプ界を追放され、今では練習場の整備係にまで身を落としているベンジャミンだった。アンソニーはベンジャミンに自らのコーチになってほしいと頼み込むが当然相手にされるわけはなく、彼は冷たくあしらわれてしまう。だが、スキージャンプに本気で打ち込むアンソニーの姿を見て、かつての情熱を取り戻したベンジャミンは彼のコーチを引き受けるのだった。
「君には素質がある。どうだ?アーサーの代わりにオリンピックに出てみないか?」
あんなに輝いていたアンソニーが何故死を選んだのか?俺は頭が痛くなるほど考えた。
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