第7話 その名は葵
「えっと、俺の名前は……」
俺と千夜は同じように見上げて、チーム表の自分の名前を探す。
各チームの数字とその下に名前が三つ書かれていて、そのまとまりが四十程あった。
「おっ、あった!」
チームの数字の下にすぐ俺の名前、その真下に千夜の名前があった。
チーム拾捌
「やったぜ、俺達一緒の組じゃねえか!」
俺と千夜は腕を組み、その場で跳ね上がる。
それにしても全員苗字は徳川なのに、書く必要はあるのかと疑問に思う。
まあそれは置いといて、一緒の組になれた事を祝おうと、一段と高く跳ね上がろうとするが、とびきり大きな罵声が聞こえ、俺は思わず脚を止める。
罵声の聞こえた方を向くと、とても体格が良い男と青髪の少女が言い合いをしていた。
「何だと! もう一回言ってみろ!」
「だから、こんな所でそんな行為をするなんて、善悪の判断がつかなくなったんですか、と言ったんです!」
よく見ると、その少女の後ろには、
「お前、完全に俺様の事をナメてんだろお!!」
男が青髪の少女の胸倉を掴もうと手を伸ばすと、俺と千夜は同時に駆け出す。
千夜は男の腕を掴み、俺は少女達を後ろに身構える。
「何があったか知らないですけど、暴力はいけませんよ」
千夜は鋭く男を睨む。
まあ、俺も千夜も何が起きたのかくらいは状況で分かるが、ここはあえて言わない。。
「お前ら、このお方の邪魔をするとは何事だ!」
「お前……邪魔……死刑……」
男の後ろから金髪と銀髪の男二人が出てきて、何の躊躇も無く剣を抜く。その行動に周囲の人達は驚き、動揺する。
本来、妖怪との戦闘以外に神剣を使うことは違法行為とされており、もし相手に怪我を負わせれば、神剣は奪われ、徳川家から永久に追放される。
俺達はあくまで正当防衛の為、剣を抜かず素手で構える。
睨み合っての臨戦状態。
緊張の空気が漂い、静寂が訪れる。その静寂を切り裂いたのは、少女の胸倉を掴もうとした男だった。
「おい、
「おい、そこの女の隣にいるお前! お前知ってるぞ、元十五代目神剣術士長だろ? 今回は残念だったな、可哀想で仕方ねえぜ」
フヘヘ、と不気味な笑いを浮かべると、クルリと体を半回転させる。
「行くぞ、銀次、それと……金玉」
「金壱ですぅ!」
そう言い残すと、あいつらはスタート地点へと向かって行った。
行ったようだね、と千夜が言うと、俺はため息をつく。良い方のため息だ。
「あの……ありがとうございます!」
震えていた女性が、俺達と青髪の少女に礼を言う。
すると、青髪の少女が口を開く。
「貴女達、カミリさんと千夜さんですが?」
突然名前を呼ばれ、俺と千夜は驚く。
「はい、そうですけど……何故僕達の名前を?」
「私の名前は徳川葵です。これから宜しくお願いします」
ニッコリと笑うその少女の言葉に、俺は思わず驚きを漏らす。
「よ、宜しくお願いします、葵さん」
俺達は震えていた女性と別れ、スタート地点へと向かった。
■
「ここに並べば良いのですね」
俺達はスタート地点にある"チーム拾捌"と書かれたコーンの左側に並ぶ。
確かチームは丁度四十まであるらしく、第一試験に受かるのは六チームだけだ。
「葵、さっきの人達は何だったんだい?」
「金髪の男は金壱、銀髪の男は銀次、そしてその二人を下僕に置くロック、この三人がさっきの人達の名前です」
「彼らはやっぱり……」
「はい、先程の女性に強制的に性的行為をしようとしていました」
やっぱり俺達の予想通りだった。
あいつらは人間として最低だ。千夜が怒りを顔に露わにする。
「あいつら、許せない!」
「まあ……それは第一試験で成敗するとして、試験の分析をしましょう。まず、この試験は長の実力を確かめたいという意見によって出来たものです。
きっとカミリさんを狙ってくる人達も少なくは無いでしょう。そこで、まず二人の神剣の能力を教えて欲しいのですが……」
「今から、クリスタルとこのフィールドの地図を皆さんに渡しますので、渡し終えてから三十秒後に第一試験開始です! 開始すると、このフィールド内に入って貰いますので、それから一時間後にクリスタル争奪戦スタートです!」
未来さんがそう話し終えると、クリスタルと地図が配布される。地図に表記されているものはあまりにも広く、一つの市街に相応するような大きさだった。
「フィールドに入ってから一時間ありますので、そこで情報交換や作戦会議諸々を行いましょう」
俺と千夜は了解の合図を出すと、クリスタルを身につける。
「それでは、第一試験、スタートです!」
未来さんの声と同時に、目の前の門が開く。
皆が雄叫びを上げて門の奥へと走っていく。
「行きましょう、皆さん! 中に入ってすぐに左方面へ走って下さい!」
「「分かった!」」
俺と千夜は了解すると、門の奥へと走り出し、その後ろを葵が追う。
葵の道案内により、俺達はフィールドの中を進んでいく。
「遂に始まりましたね、選抜試験が」
未来さんはポツリと呟く。
この時、まだ俺は知らなかった。これから起こる最悪の出来事を……
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