第6話 十五代目神剣術士長選抜試験

「「これより、十五代目神剣術士長選抜試験を開始する!!!」」


 二人の言葉に、周囲の人達がざわめく。

 隣の千夜も驚き、こっちを見た。


「カミリ、どういう事だよ」


「悪ぃ、俺もよく分かんねえ」


 梨亜さんが言っていた事と同じなのは分かるが、千夜も周りの人達も知らない様子だ。俺だけに嘘をついている訳では無かったとすれば、一体何の為にこんな事をしたのだろう。


「色々と混乱している様だから説明しましょう。この事は、徳川家の十五歳から二十歳、ここに居る君達にだけ秘密にしていました」


「勿論、それ以外の人達には口封じを頼んでいますので、責めないでやって下さいね」


 女の人と男の人が交代に話を進めていく。

 男の人の話を聞くと、じじいとハクビの件も合点がいく。


 あれ? では何故梨亜さんは俺に話してくれたのだろうか。まあ、あの人は優しいからこっそりと話してくれたのだろう。では、この事は人には教えないでおこう。


 俺は心に約束して、今の事へと頭を切り替える。


「さあ、何を君達に秘密にしていたかというと……十五代目神剣術士長を、今回から実力で選ぶことになったんですよ」


 俺の周りが全員驚いた顔をしたので、俺も一足遅れて驚いた顔をする。


「という事で、今から次の長である十五代目神剣術士長を選抜する試験の一次試験を始めます」


「ルールは簡単! 今からこの先にあるフィールドへ三日間、君達はあるゲームをして貰います。 三人一組のチームになって、クリスタルと称したこれを集めて下さい」


 男の人は、緑色の石に金色のチャームが付いた物を右手に掲げる。


「最初は一人一つずつこのクリスタルを配り、このフィールドへ入ってから、チーム同士で奪い合って貰います! もし、クリスタルを持っていないまま三十秒経つと、我々の神剣術でこちらへ強制送還させて頂きます」


「殺したり、後遺症が残る程の攻撃はしてはいけません。しかし、それ以外なら何でもアリです。わざとクリスタルを離すのも1一つの手です。覚えておくように!」


 女の人は極悪非道の塊のような顔をする。赤ん坊が見たら完全に泣き出すだろう。


「まあまあ、そんな怖い顔をするな、折角の美人が勿体ないよ。さて、君達! チーム分けはもう済んでいる。山奥の戦場へ着く手前に表があるから、頑張りなさい」


「あ、ちなみにクリスタルの保持数が上から四組だけが二次試験に受けられるから、では!」


 ボン!!


 光の球とさっきの二人組が共に消えると、今度は可愛い女性が目の前に現れた。


「皆さんこんにちは! 十五代目神剣術士長選抜試験の一次試験、進行役を務めさせて頂きます、徳川 未来みらいです!」


 早速こちらへ、と試験会場? に案内されていると、隣の千夜から話しかけられた。


「おい、どういう事だよ、カミリ! お前が神剣術士長じゃねえって、そんな大事な事を本人に隠してるなんて、有り得ねえぞ!」


「でも実際起こってんのは本当だ! これらは歴とした神剣術!」


「でも……」


「何故、」


 俺達の話を遮ったのは、進行役の未来さんだった。


「何故、あなた達に教えなかったのか。もし教えれば、あなた達は必死に剣術の練習をしていたでしょう。それも大事な事ですが、私達は今の貴女達の実力を見たいのです」


「それは本当ですか?」


 俺達が未来さんの話に納得しかけていたとき、女の人の高い声がそれを止める。俺が声の主を探そうとするも、百人程度いるこの集団から探すのは不可能に近かった。


「人間はやるなと言われるとやりたくなるという気持ちが働きます。あるアメリカのテストで、十人の人達が約束を守ると誓ってからその一人が約束を破るまで十日だったそうです。

 十人でも十日、増してや千人規模の徳川家ともなると、秘密が何ヶ月も守られるのは有り得ない、あっても五日でしょう。五日以内に約束を決めたとして、何故こんなに早く試験を開始したのか、ゴールデンウィークを狙ったというのも一つの考えですが、少し浅いですね。

 その五日以内に何かどうしても私達に隠したい事があった、と考えると……」


 その人が未来さんをまくし立てる。と、未来さんも黙っていられず、遂に口を開いた。


「そ、そそそんな事はないから! あ、あああ貴女達に秘密なんてないから、一つもね!」


 あ、完全に嘘だこの人、こんなに分かりやすい人いるんだ。隠れ馬鹿ってやつだね。美人なのに、世界ってこういう物なのかな。

 俺がほんの少しだけ引いていると、女の人が更に追い討ちをかける。


「声が震えてるのは何かがバレるのが怖いときに起こる現象です。アメリカのテストによると……」



「も、もう違うから! アメリカのテストはもういいからぁーーー!!」


 未来さんは大声で叫び、女の人の追い討ちを止める。

 少し言い過ぎました、と女の人が引き下がる。

 この言い合いから一分後、未来さんが立ち止まった。


「さあ、着いたわよ! ここが一次試験会場! この広大なフィールドには自然を見事に再現していて、川には魚が、山にはトカゲが潜んでいるわ。三日間の内に食糧何て送られてこない。

 自分で捕って、自分で食べなさい! チーム分けはそこの板に貼ってあるから、各自クリスタルを一つずつ貰って、チームで並ぶように!」


 各自解散! の声が聞こえると、俺達はバラバラに動き始める。

 一体あの女の人は何だったのだろうか。結局、何を秘密にしていたのかよく分からなかった。


「カミリ、つまりはお前が神剣術士長ではなくなって、今から選抜試験とやらをして決めるという事か?」


「ああ、そうだろうな」


「お前はそれで良いのか?」


 千夜が真剣な顔をしてこちらを見つめる。俺も俺の本心に答えを聞く。

 少し時間が経ってから、俺は口を開く。


「大丈夫だ! だって俺はこの中で一番強いんだからよ!」


 千夜は少しほっとしたようで、笑顔で負けないよ、と言葉を俺にぶつける。

 それはこちらもだ。幼なじみだからこそ全力でぶつかり合う。これは俺達が一番分かっている。


 俺達はお互い顔を見合わせてから少し笑い、前を向いてチーム表へと向かう。

 こうして、十五代目神剣術士長選抜試験が始まった。

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