第5話 次の長

 俺は十五代目神剣術士長ではない。

 そんな衝撃の事実を知り、俺は悲鳴を上げた。


「どういう事だ! 俺はずっと騙されてきたって事か!?」


 俺が神剣術士長であると知ったのは、昔あのじじいから言われたからだ。俺は徳川家の友達も数人いて、親戚の人とも会った事はあるが、その度に神剣術士長だという事を知らされてきた。


 それが嘘だったなんて、それじゃああの時調子に乗ってた俺が馬鹿みたいじゃないか!

 俺が自問自答を始めると、梨亜さんが不思議な顔をする。


「あれ、まだ聞いてないの? 今まで長は血筋で選ばれてきた訳でしょ。先代の十三代目の長は徳川 刀利とうり様、その孫が十四代目の現長の徳川 刀喜とうき様、そしてその現長を叔父に持つ十五代目の徳川カミリ様だった訳。でもね」


 梨亜さんは一息つくと、また話し出す。


「実力関係なく血筋で選んでたら、俺の方が強いって文句を言い出した人がいたのよ。長はめちゃくちゃ強いけど、それじゃあ統制が取れないって事になって、次の長は十五歳から二十歳の徳川家の人達を集めて、試験を行って長を選抜するって一昨日に発表されたのよ」


 試験? 選抜?

 俺の頭は凄く混乱している。

 でも、俺も実力に関しては自信がある。今から練習すれば多分大丈夫。せめて一ヶ月、いや二週間。二週間は欲しい。


「その試験っていつ行うんだ?」


 ゴクリ


 俺は唾を飲み込む。固唾を飲むとは正にこの事だ。


「第一試験はね、明日!!」


 明日……

 その絶望的な単語に、俺は泡をふいて倒れた。

 結局家に帰ってじじいやハクビにその事に関して聞いても、全く知らない様子だった。


 ■


 チュン チュン


 朝が来た。




 ……どうしよう。

 実はこの俺、一睡もしていない。三日寝たのでそこまで眠くないという理由もあるが、何より考える事が多すぎた。そして、とても緊張した。


 よく遠足の前とかでワクワクして眠れないなどと言っているが、この俺は全くの逆だ。

 俺は人より緊張しやすく、何か大きな物事の前日は必ず眠れない。

 一晩中考えに考え、出た結論とは……


 ……嘘、である。

 まず、有り得ない。あの女(梨亜さん)が俺を騙している可能性は高いし、一昨日決めたばかりで、今日試験だというのは、あまりにも現実味が無い。


 ということで、ひとまず家で動画でも見るとしよう。

 今日は学校は休みなので、一日中遊びに徹する事が出来る。

 ん? そういえば何で今日学校が休みなのだろうか。

 そうだ、ゴールデンウィーク!!


「よし、これから遊び尽くすぞぉーーおお?!」


 俺が叫ぼうとすると、球の形をした光が、俺を包み込み、その光から出られなくなった。すると、光が浮き始め、部屋の壁の方へと進み始める。段々と加速して、目の前に壁が立ち塞がる。


「ぶ、ぶつかるーーー!!」


 だが、俺と俺を囲んでいる光の球は壁を通り抜け、外に出る。光の球は上昇し、加速していく。


「うおっ!!」


 俺は恐る恐るも周りを見る。すると、周りは無限に広がる空と雲、列を成して飛ぶ鳥達、下には街が小さく佇んでいる。

 きれいだ……、と我を忘れて景色に感動していたのも三秒程で、俺は考え事を始める。


 すると、今度は段々と減速していく。

 何処かに止まるのか?

 などと考えていたその時だった。


 パッ!


 俺と俺を囲んでいた光の球は突然跡形も無く消えた。


 バサバサバサッ!!


 光の球があったはずの場所を、鳥達は何事も無かったように通り過ぎ、飛び去っていった。


 ■


「うわあっ!」


 先程俺を囲んでいた光の球と幻想的な光景は共に消え失せ、代わりとして目の前に砂の混ざったコンクリの地面が出現した。


「いてっ!」


 俺は尻もちをつくと、そのせいで汚れてしまった寝間着を手で払い、立ち上がる。


 周りを見ると、着物を着た沢山の人が、剣を持って立っている。俺のすぐ横には、いつの間にか俺の着物と剣が置いてあり、俺は素早くそれに着替えた。


「あ、カミリ!」


 突然、後ろから名前を呼ばれる。しかし、それは知っている声だった。

 俺は後ろを振り返ると、あまりの嬉しさに口角が上がっていく。


「あ、千夜! 久しぶりだな!」


 声の主は徳川 千夜せんや。千夜とは、俺の幼なじみで、いつも一緒に遊んでいた仲だ。ただ、高校は別の所へ行ったので、最近は会えていなかった。


「でも、何でこんなところに?」


「それは俺が知りたいよ、家で寝てたら急にここに連れてこられて……」


 一体ここで何が始まるのだろうか。

 そう二人で考えていたその時だった。


 ピカン!!


 唐突に、空中から無数の光の球が現れる。


「あれだ、あれに連れてこられたんだ!」


「ああ、俺もだ」


 どうやらここに居る人達は、全員勝手に連れてこられたようだ。

 宙に浮かぶ光の球が一点に集まり始めると、もう眩しくて見てられなくなる。俺達が目を閉じて光に耐えていると、徐々に光が収まった。


 目を開けて空を見上げると、そこには宙に浮かんだ大きな光の球に、二人並んで立っているのが見えた。


「何だ、あれ?」


「何で人が宙に浮いてるんだ?」


 周りの人達が混乱し、疑問の言葉を口にしているところに、俺と千夜は少し違う意図の言葉を口にする。


「カミリ、あれって……」


「ああ、あれは歴とした……」


「「だ!!」」


 俺達がその言葉を口にすると、光の球に乗っている人達が口を開く。


「おや? 察しの良い子達もいるようだねぇ。ではそろそろ……レディースアンドジェントルマン!」


「こいつらはまだ子供なんだからそれは違うでしょ。まあいいわ、今ここに居る十五から二十の徳川家の子達!!」


 女の人がそう言うと、先程話していた男の人と同時にこう言った。


「「これより、十五代目神剣術士長選抜試験を開始する!!!」」

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