第8話 怪物達の楽園

 第一試験開始から三十分後、俺達は地面に座り、一休みしていた。


「ふぅー、流石にここまでノンストップで走ってくると疲れるなー」


 俺は先程まで頑張って動いてくれた脚をゆっくりと揉む。

 俺達が居る場所は森の中で、十歩程先には川が流れている。


「ところで葵、何でこんな所に誘導したんだ?」


 葵は手元にあった地図を俺と千夜に向ける。


「このフィールドにはエリアが五種類あります。左上の海エリア、右上の砂漠エリア、右下の氷河エリア、左下の山エリア中央の市街エリアです。市街エリアに門が設置されていて、そこから扇状に広がっています。私達がいるのは山エリアです」


 葵は地図をポケットの中にしまい、もう一度口を開く。


「市街エリアには家がありましたが、食糧は一切ありませんでした。なので、食糧が多く簡単に捕れる山エリアを選んだのです」


「確かに未来さんが言っていた事は本当だった様だね。でも、山エリアと市街エリアは直接繋がってる。というか、他のエリアが市街エリアだけに繋がってる!」


「そう、このフィールドは市街エリアを中心として作られています。まあ、それが何を意味するのかは分かりませんが」


「じゃあ、山エリアがすぐ側にある、市街エリアの端っこら辺に居たら良かったんじゃねぇのか?」


「いえ、山エリアの中にある川ですが、ある程度奥に流れています。食糧としては魚が優秀です。なら、その近くの方が効率が良いでしょう。食糧調達の為に体力を削るのは好ましくないですからね」


 葵はそう言い終えた後、少し間を空けてボソリと呟いた。


「余程の番狂わせが無ければですが……」


「え? 何て言ったんだ? 悪ぃ、よく聞こえなかった」


「いえ、何でもありません」


「あのさぁ、ここに案内されてる時に未来さんにツッコんだのって、もしかして葵?」


「はい、そうです。でも、何か重要な秘密があった感じでは無かったですよ」


「あのさぁ……」


「もしかして……いつもああいう事やってるのか?」


 葵は俺の言葉に不思議そうに首を傾ける。


「何でそんな事聞くんですか?」


「いや……その……俺って、そういう探られるのとか苦手だから、やられたらやべぇなぁとか思ったりして……」


 俺の発言を聞くや否や、葵の顔がニッコリと笑う。


「そんな事考えてたんですね、ププッ、そんなのする訳ないじゃないですか」


「笑うなよ、てか、今から仲間なんだから敬語はやめようぜ、俺はカミリで良いよ」


「えっ、いや、この口調は家族でもそうなので。普通に嫌ですけど」


 かなり普通のテンションで断られた俺を見て、千夜が大爆笑する。葵もこのくだりでヒートアップし、俺は二人に大いに笑われた。

 葵がやっと笑わなくなると、ところで、と真面目な話に変える。


「皆さんの神剣の詳細を聞かせて貰えませんか? まずは私から言いますね」


 葵はやっとこの時間にやらなければいけないことを思い出したようだ。もうバトルの合図まで十五分しかない。


「私の神剣は"アルテミス"が宿っています。。司る力は保護です。回復系ですね」


「僕のは"ガイア"。司る力は宇宙」


「俺の神剣は"アモン"。司る力は炎だ」


「では、それをどのくらい操作出来ますか?」


 操作? 何だそれは?

 俺は全く知らない語呂に首を傾げる。


「そうだね、僕はワープホールみたいなものは出せるよ」


 えっ! 千夜はそんなものを出せるのか?! 俺は幼なじみだが、そんなのを出してるところなんて見たことがない。


「私は一つや二つくらいは技が使えます。では、カミリさんはどうですか?」


「え、何言ってんの、お前ら? 操作って何?」


 俺の真顔を見て冗談では無いと気づいた途端、二人の顔がどんどん青ざめていく。


「「ぎゃああああ!!」」


 二人は揃って叫び声を上げる。


「おいおい、二人共落ち着けよ。大丈夫、神剣術は使えるから」


 俺が笑って二人を止めようとすると、目を光らせてこちらに近づいてくる。


「もしかして……神剣術って二つ種類あるの、知ってます?」


「知らねえ」


 バタン!


 余りにもダメージの大きい言霊を食らったのか、二人はその場で倒れた。

 二人はゆっくりと体を持ち上げ四つん這いになり、そのまま俺の方へ突進してきた。

 葵は顔を近づけると、俺を睨んで話しかけてくる。


「いいですか? 今から貴方に神剣術というものを解説して差し上げます。名付けて、葵の解説講座!!」


「お、おう……」


 俺は葵の気迫に負けて、声が小さくなる。


「まず、神剣術には二つの種類があります。普通の神剣術と特殊神剣術です。普通の神剣術は神剣を持つ者であれば誰でも使えます。

 しかし、発動する効果は人それぞれ、十人十色です。では、その効果が何故人によって違うのか。それは、神剣に宿した神の力が皆それぞれ違うからです。では、何故神剣術は効果を発動するのか、千夜君!」


 はい、と千夜が元気良く声を出す。千夜はともかく、一見冷静沈着な女の子である葵がこんな茶番劇を繰り広げるなんて、きっとテンションが上がっているのだろう。


「神剣に宿る神の力が強大過ぎて、効果が発動してしまうのであります!」


 どこの兵隊だよお前は、というツッコミは置いといて、俺は話を聞く。


「その通り! そして、自分の神剣が司る力を使い、自分しか発動出来ない神剣術を作ったとき、その神剣術のことを"特殊型神剣術"と呼ぶのです! そして、その神剣術を作るときの絶対条件が、自分の神剣の能力を操作出来る、という事なのです!」


「なるほどなぁ」


 つまり、梨亜さんの使っていた技も特殊型だろう。司る力忘却って言ってたし。

 考え事をしているとお腹が減ってきた。


「まあとりあえず、魚捕って飯食おうぜ」


 じゃあ僕が捕りに行ってくるよ、千夜が駆け出してから三十秒後、千夜が向かっていった方から悲鳴が聞こえる。


「どうしたんだ、千夜!」


 俺と葵は急いで千夜の方へ向かう。


「カミリ、これ……」


 千夜が指差す方向には、変な獣が眠っていた。

 腕は六本あり、全身毛むくじゃらの巨体だった。それはゴリラに似ている。担任に似ている訳ではないが。

 すると突然放送が流れ、未来さんの声が聞こえる。


「あと一分で一時間後です。一つ言い忘れていましたが、市街エリア以外の四エリアには眠った怪物達が潜んでいます。一時間後の合図で彼らが目覚めるゴングを鳴らします!」


「何だと!」


 こんな化け物を起こすなんて考えられない。


「そうか、真の目的はこれ、クリスタルはいつでも外せるところに付けておく方が良いようですね。市街エリア以外の四エリアはこいつらが潜んでいる。正にここは"怪物達パラダイスオブ楽園モンスターズ"!」


「それでは、クリスタル強奪戦、スタートです!」


 ゴンゴンゴン!


 全フィールド内に、ゴングの音が響き渡った。

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