第21話 大公巡行 最悪の事態!

 大公巡行での戦いは終盤戦を向かえていた。前後の戦いは、中央騎士団と、西方騎士団の奮闘で押し返すとあっさり、ウルバリアとティメールの騎士団は撤退していった。すると、中央騎士団長と、西方騎士団長は精鋭をまとめて、中央部の戦いに参戦していった。





 中央部の戦いも佳境へ。大公達を安全な場所に避難させた。レオポルドとポルビッチは、本陣にいったん戻った。そして、アランに周囲警戒させるために、見廻りを頼のむ。勘のままに動いたアランは、リグルドとパナのピンチに遭遇して、ダークネスとの戦いに突入した。アランとダークネスの戦いは、激しいが均衡を保っている。




 その頃、右側を突破した。3人が本陣に達しようとしていた。



「よっと!」


 バレンドルが勢い良くパウロスの槍を投げる。


「グワッ!」


「命中」



 槍が突き刺さり、ポルビッチの体に大きな穴を開けると、直線上にいた敵、味方構わず負傷させて飛んでいく。



「何者だ!」



 レオポルドが振り返る。



「俺はバレンドル。こっちはメッセンさんと、オウゼンさん」


「メッセン? シュヴァリエ家のか?」


「ええ、そうです」


「なぜ、シュヴァリエ家の人間が、このような横暴を!」


「ホルス大公家のせいで、我が家が使える王家が潰されたからですかね?」


「それは、昔の話ではないか!」


「そうですね。まあ理由なんて、どうでも良いじゃありませんか?」


「くっ。ハインリヒ。サポートを頼む。ランドールやるぞ」


「はい。レオポルドさん。俺にメッセンと戦わせてください」


「ランドール、大丈夫なのか?」


「はい」


「わかった。では、わたしはお前だな」


「俺の相手おっさんか~」


「おっさんではない!」




 ランドールは、魔導鎧、魔導剣を持って完全武装。そして、メッセンに向かって突進する。



 高速で移動しながら、剣を振るうと、地面が弾け飛び、穴が開く。俊敏性で上回る。メッセンは、最低限の動きでかわしつつ後退する。メッセンの顔に焦りの表情が浮かぶ。どうやら、メッセンは、圧倒的パワーで、力押しされる戦いが苦手なようだ。ランドールが優勢に戦う。





 一方、レオポルド対、バレンドルは。互角だった。アランや、天才ビルによってズタズタにされたプライドを、努力で挽回。トリッキーな動きで翻弄するバレンドルを、力技で押し込んでいく。奥義を連続で放ち、攻撃のすきを与えない。



 レオポルドが 、八相に構える。そして、



「剣王流奥義剣王斬!」


「おっと。おっさんの体力どうなってんの?」


「うるさい! 行くぞ。剣王流奥義剣王斬!」



 さらに攻撃が、繰り返される。すると、その時


「メッセン様、バレンドルさん、撤退命令です」


「そうか」


「了解!」



 3人は、オウゼンの放つスモークの中、あっさりと撤退していった。



「待て!」


「ランドール、深追いするな! それよりは、負傷者の手当てだ。ハインリヒ頼む」


「はい!」







 そして、アランとダークネスの戦いも



「残念ながら、依頼主が亡くなったようです。残念ですが、これで去らせて頂きます」


「依頼主?」


「ええ、依頼主です。守秘義務がありますので、話せませんがね。では、アズアリンさん、お願いします!」


「わかったわ」



 激しい煙が沸き上がり、撤退していった。










 時間は少し遡り帝都では。



「皆さんこっちっす」



 ジローとビルの誘導のもと、ローズ、リリア、そして、ローズの仲間の女騎士1名、そして、魔術師1名が走る。





 崖から侵入して、庭を突っ切ると、マックスの執務室の扉を開け、中に入る。そして、廊下の扉を開け、廊下に出る。今度は廊下を斜めに通って大広間に入る。さらに、中庭に出る。7人の人影は先を急ぐ。ん?7人? ビルは気付いたようで、ローズに問いかける。



「あの、ローズさん、その方は?」


「えっ、ああ、えーと、情報提供者なんだ」


「そうなんですか。大丈夫なんですね?」


「ああ、大丈夫だ」





 中庭を抜けて、本宮殿の扉を開け、中に入る。廊下に出るが警備をしている兵士の姿は見えない。素早く移動して、玉座の間の扉を開けて、中に入る。



 遠く玉座の上には、シルキリア皇帝の姿が、脇には近衛騎士団長が立っている。段の下には、数名の近衛騎士が、一応警備していますという感じで立っていた。素早く玉座に近づく7人。そして、



「はじめまして陛下。わたくし、ローズ=フォン=アルフォルスです」



「リリア=フォン=ローデンブルクです」



 2人のみ挨拶をして、全員が片膝をつき、頭を下げる。



「うん、話は聞いている。余がシルキリア皇帝ルシタニア8世である。ローズよ、大儀である。余を守るために、わざわざ駆けつけてくれたと」


「はっはい」


「で、その刺客とやらはどこに?」


 近衛騎士団長がたずねる。ローズは後ろにいた情報提供者の方を振り返る。



「それに関しては、この者の話を…ってあれ?」



 いつの間にか、情報提供者は立ち上がって、玉座の近くにいた。ローズに同行していた魔術師も一緒だ。身体能力強化の魔法をかけている。そして、情報提供者が、ローブを脱ぎ捨てながら口を開く。



「襲撃者。それはわたしです」



 一瞬のことだった、剣が振られ。その直線上にいた。近衛騎士達の体の一部が弾け飛び、そして、近衛騎士団長の上半身が、ずれて落ちる。最後、シルキリア皇帝の体が玉座に座ったまま、前に傾き。頭が落ちると、頭を失った首からは、勢い良く血が吹き出した。



「えっ、あれ? えーと。えっ?」


「お姉ちゃん、しっかりして!」


「申し訳ありません。ローズさん。騙すような真似を、子供を人質にとられまして」


「ビルさん、あれクレストさんっすよね? 剣聖の」


「ああ、ヴァルド王国も卑怯なことをするものだ」


「ヴァルド王国は関係ない! わたしの独断だ」


「とりあえず、軍事法廷で言ってもらいましょう。せめて、そのくらいはしないと、マックスに申し訳ないしな」


「それも、申し訳ありません。子供たちの安全が確認されるまでは、捕まるわけにはいかないのですよ」





 そう言うと、クレストは素早く動き、呆然としていた、ローズに近づくと、剣の柄で腹部をおもいっきり殴った。ローズは、口から、血液と吐瀉物を撒き散らしながら、壁まで吹っ飛び勢い良く壁に当たる。周囲の壁はひび割れ、穴が開いた壁に、ローズは腰かけるようにめりこんだ。どうやら意識を失ったようだ。





「アレリア。結界をお願いします!」


「はい」





 クレストと共に立ち上がった、魔術師は剣聖クレスト付きの魔術師アレリアだったようだ。アレリアは、部屋全体に結界を張った。これで、結界を壊さない限り出入り出来ない。





「えっ三剣、あっさり負けっすか?」


「だな。とりあえずリリアさん、逃がすために盾になりますか」


「ビルさん了解っす!」



 そう言うと、ジローは魔力弾を放ち始める。無数の光の弾が浮かび。そして、 クレストに向かい飛んでいく。すると、クレストの前に魔法障壁が出来、魔力弾をはじく。





 ビルは、緑色の神剣を抜くと、静かにクレストに近づき剣を構えた。クレストは、凄まじいスピードで、ビルに近づき剣を振るうが、ビルは、何事もなかったかのように、剣を受け止めると、剣の威力を流し、返しの剣を振るう。激しい攻防戦が始まった。





 ジローの魔力弾は、途切れることなくクレストを襲い、ビルは魔力弾の方向を計算に入れながらクレストを誘導しつつ戦い。魔力弾を防ぐ障壁を、張り続けているアレリアの顔は、青ざめていく。



「そろそろ、限界っすか? 俺は、まだまだっすよ! ペースあげちゃいますよ!」



「アレリア、無理しないで、いったん障壁を解除してください」


「ですが」


「大丈夫です」



 クレストは、そう言うと、スピードをあげた。アレリアは、障壁を解除すると、真っ青な顔でへたりこむ。



 クレストは、ジローの魔力弾をかい潜りながら、ビルを攻撃する。ビルは、必死になりながらも、華麗に攻撃を捌く。ジローとビルの華麗な連携攻撃だが、クレストの激しい斬撃に、徐々にビルは追い詰められていく。





「ビルさん、大丈夫っすか?」


「大丈夫じゃない!」


「わたしも戦いますよ」


「リリアさんは、脱出方法見つけて欲しいっす。」



 リリアは、壁にめりこんでいた、ローズを床に寝かせ、応急処置をして、ビル達のそばに来ていた。



「リリアさんを怪我させたら、マックスに怒られるしね」


「そうっすね、ビルさん」


「わかりました」



 そう言うと、リリアは扉の方に向かい。剣で、結界を叩いた。すると、結界にひび割れが出来ていく。そして、結界は砕け散った。



「えっ、嘘? そんな簡単に割れるわけは」


 アレリアが真っ青だった顔をさらに青くして、呟く。



「内部から、破壊されたわけではないようですよ。来てしまったようですよ。最悪が」



 そう言うと。扉が勢い良く開く。そして、マックス、ガイ、ソムチャイの3人が入ってくる。



「マックスさん!」


「来てくれたんっすか。助かったす」


「何とかなった」



 そう言うと、ビルは倒れた。マクシミリアン=フォン=ローデンブルクが、ゆっくり入ってくる。そして、リリアと向かい合う。



「僕が来たから、もう大丈夫だよ。ローズさんを治療してあげて」


 すると、満面の笑みでリリアは返事を返す。


「はい!」









 僕は、剣聖クレストの元にゆっくり向かった。

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