第19話 大公巡行 悪夢襲来

 大行列は、大公領を出発すると、西に向かった。僕も馬に揺られながら、帝都に向かったリリアちゃんに思いをはせる。







「マックスさん。お姉ちゃんの計画ですけど」


「うん、僕も宮内卿さん達から聞いたよ」


「そうですか~。わたし、よく分からないですけど、大丈夫なんでしょうか?」


「ビル先輩と、ジローを一緒に行かせるから。中は案内してもらって。近衛騎士団長さんも、知っているから、本宮殿の警備も手薄になっていると、思うよ」


「ありがとうございます。でも、マックスさんの手まで、煩わせてしまって。まったくお姉ちゃんは!」


「まあまあ、ある意味ローズ先輩っぽくて良いんじゃない」


「そう言ってもらうと、有り難いんですが。ああ、そう言えば、その、襲ってくるのって、ヴァルド王国の手の者って事らしいですよ」


「へー。ローズ先輩、どこからそんな情報を」


「そこは、教えてくれませんでした」


「だけど、ヴァルド王国の手の者が、陛下襲って、何の得があるんだ?」


「無いんですか?」


「無いね。申し訳ないけど、今、陛下が殺されても影響はないよ。ただ、誰かが責任とって罷免されて、喪に服して。その後、落とし前戦争が、起こるくらいかな」


「充分大変な感じがしますけど?」


「大丈夫だよ。リリアちゃんは、とりあえず頑張って」


「はい!」





 こうして、リリアちゃんと、ビル先輩、ジローは、帝都に出発していった。ローズ先輩達と僕の屋敷に潜伏するそうだ。なんだそれ?









 大公屋敷自体が西方にあるので、そこから行列に対する歓迎は始まった。大きな街に、行列が来ると、民衆が集まり、紙吹雪が舞い、歓声が響く。そして、領主や、郡守は歓迎の宴を催す。小さな村でも、行列を歓待して、飲み物等を提供してくれた。





 もちろん、宴席に参加できるのはほんの一部。残りは、郊外にテントを張って寝泊まりして、食事も自分たちで、用意する。そのための随行員だ。そうまでして、同行したいんだろうか?





 もちろん僕達は、歓待を受けている方なので、上から目線で何を、と言われてしまったら、反論も出来ないのだが。






 特に襲撃等もなく、進む。たまに、民衆が直訴って感じで突っ込んできたが、立場上僕が受け取って、処理をしていった。本来直訴で、行列に突っ込んできたら、殺されるだけだが、早めに対処して、未然に防ぐことができた。大怪我をおった人はいたが、死者は0。



 ソムチャイも、僕も探索スキルを全開にして、警戒しているので、対応が早かった。







 そして、僕達は、従属国の一国に入る。同じように歓声を受けるが、どことなくやらされている感がある。そして、




「ホルス大公様、此度の大公巡行も、順調なご様子、おめでとうございます」


「ああ、レンジョウ国王ドンシャン殿。お褒めに預り光栄です。しかし、わしも歳ですな。今回で、巡行も最後でしょう」


「何を言っておられるのか、髪も黒々して、まだ、お若く見える。これからも、ご活躍ください」


「そうですよ。まだまだ、大公の威厳を示して頂かないと」


「何を言っている、ヴィシュタリア。もうすでに、お前達の時代。こんな行事早く終わらせれば、良かったのだ」


「お父様が、ここまで帝国を強大にしたのです。その威光、まだまだ偉大なのです」


「はい、我々も大公様が居られると、民族的にも、宗教的にも近しい、ウルバリア側で、戦う意志がなくなるというものです」


「そうか」



 お祖父様いなくなったら、ウルバリア側で戦うのかよ。と思いつつ口を挟まない。この国もそうだが、大公巡行中に問題が起きて、トゥルク神聖国のようになったら、困ると考えているようで、街中も城内もピリピリとしている。かなり落ち着かない。









 そんなある日、ソムチャイが僕宛の手紙を持ってきた。僕宛と言うか、マキシ宛の手紙。誰だ?



 裏面を見ると、封蝋には、獅子をあしらった紋章が押されていた。獅子はヴァルド王国だ。僕は、封を切ると手紙を取り出す。



「マキシ殿、頼めた義理はないのだが、助けて欲しい。実は、我が国の筆頭騎士クレストが、シルキリア帝都に向かっているのだ。わしの失態で、子供を人質にとられたクレストは、ダークネスから、何かしらの依頼を受けたようだ。わしには、止めることは出来なかった。頼む。クレストを止めて欲しい。クレストと戦えるのは、マキシ、あなただけだと思う。厚かましい願いだが、どうか聞いて欲しい。クレストを助けてくれ、頼む。 ヴァルド国王デルタ11世」





 えっ! 剣聖クレストが帝都に? って、ローズ先輩のヴァルド王国の手の者って剣聖クレスト? まずい、リリアちゃんが危ない。ビル先輩や、ローズ先輩がいるけど、勝負になるか? だけど、どうしよう? とりあえず、お父様に話そう。僕は、慌ててお父様の元に向かった。





「お父様! リリアちゃんが、クレストに!」


「どうした? 珍しいな、そんな取り乱したマックス初めて見るぞ」





 僕は、さっきの手紙をお父様に渡す。お父様は、手紙を読み始める。そして、読み進めるごとに、目つきが険しくなっていく。そして、最後の名前で、目を見開く。



「ヴァルド国王デルタ11世か。あの人は、罠をはったり、嘘をついたりする御仁ではない。で、この手紙はどういう意味だ?」


「はい」



 僕は、ローズ先輩の計画と、今回の手紙による、剣聖クレストの件を組み合わせて話す。



「と言うことは、陛下の命を狙っているのは、剣聖クレストで、ローズさん達が、その魔の手から守るために、陛下の元に向かっていると」


「はい」


「で、ローズさん達は、防げるのか?」


「あの人の強さは別格です。時間稼ぎは出来ると思いますけど」


「う~ん、だったら、マックス帝都に向かえ」


「いえ、そういう訳にも、いかなくて」


「まだ、何かあるのか?」


「おそらく、こっちはダークネスが襲撃してくる可能性が。クレストを囮にして」


「う~ん。ダークネスに対抗できるのは?」


「 アランや、レオポルド、ランドールがいるし、中央騎士団長もいますけど…。」


「だったら、帝都に向かえ。とにかく、リリアちゃんを助けろ」


「はい!」







 お父様は、お祖父様、叔父様に話に向かった。僕は、レオポルドとアランを呼び出して、ダークネスの件を伝えると。ガイ、ソムチャイと共に帝都に向かった。





「若、気をつけて」


「レオポルド、後はよろしく。アランも、たぶんダークネスと互角に戦えるのは、アランだけだから、よろしくね」


「はっ、畏まりました」


「後は、2対1で戦って、撃退して…」


「若、わかりました。大丈夫です。こちらは、任せて、帝都にお急ぎください」


「わかった。すまない。後はよろしく!」








「ソムチャイ、最短距離で誘導頼む」


「はい、畏まりました」


「ガイ、遅れるなよ」


「はい!」



 僕達は、帝都に向け、駆けに駆けた。馬が疲れてくると、ソムチャイの手の者が現れ、新しい馬に変わる。本当に優秀だなソムチャイ。ありがとう。こうして、僕達はわずか4日で帝都に到着した。そして、皇宮に向かい、門を抜け、内部に入った。内部はがらんとしていて、静まり返っている。



「みんな無事でいてくれよ」



 僕達は、奥に向かい廊下を走った。











 僕達のいなくなった。大公巡行の一向はその後も旅を続けた。そして、僕達が、帝都に到着して、皇宮に向かう頃、事件は起こった。周囲には高い草がはえ、人通りのない草原。道幅も狭くなり、行列が前後に延びきっていた。



 前方部、そして後方部、に約100名ずつの騎士が突撃を敢行してきた。指揮をとるのは



「行け~!。突撃だ!」


 赤の王子ことリンドルファン=ウルバリア。そして、付き従うのは、変わった民族衣装風の赤の軍服を着る騎士。



「我々は、相手を混乱させるだけでよい。」


 青の王子こと、エルダーフィン=ティメール。そして、付き従うのは、青い法衣風の軍服をきた騎士。





 前後で、混乱が起きたその時、大公のいる中央部に、紫色の軍服を着た一団が、左右から斬り込んできた。



「さて、わたくしも、お仕事をしませんと」

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