第18話 大公巡行開始

 クリスマス休暇で、大公屋敷にいると、突然ガイが訪ねてきた。ガイって、マスターゴーランと、修行の旅じゃなかったっけ?



「ガイどうした?」


「マスターゴーランが殺されました」


「えっ! 誰が殺されたって?」


「マスターゴーランです」



 マスターゴーランが殺された? あの豪快でどこか憎めない、しかし強さをみせた、マスターゴーランが?



「まさか、本当なのか? いったい誰に?」


「ダークネスって男です。最後に、ダーレンバッハって名乗っていましたけど。そして、兄によって家名がどうとかと」


「なっ! ダニエル=フォン=ダーレンバッハだったか?」


「はい、それです」



 ダニエル=フォン=ダーレンバッハは、ビクターの弟だ。僕の責任だ。ビクター=フォン=ダーレンバッハは、僕の剣術の先生だった。しかし、剣をはじめて、殺戮衝動にとらわれた僕は、ビクターに襲いかかった。そして、ビクターはなんとか一命はとりとめたが、左腕を失い、右目も損傷するような、大怪我であった。





 一命はとりとめた、ビクターだったが、ダーレンバッハ家は、ビクターを死んだ事とした。子供に負けた男が、ダーレンバッハを名乗るのは許されないと。



 そして、新たにダーレンバッハ家の後継ぎに、弟のダニエルが選ばれたのだが、ビクター曰く本当の狂人。父親や、弟子たちを殺害して消えた。こうして、ダーレンバッハ家の名は地に落ちた。





 ダークネス、何を考えているのか? いや、ビクターの話だと、ただ楽しんでいるだけなのか?



「で、ガイ、これからどうする?」


「マックス先輩雇ってください」


「えっ良いけど」


「今の僕じゃ、ダークネスにも勝てないですし、強くなりたいんです」


「敵討ちするのか?」


「いえ、その気はありません。マスターゴーランは、戦って敗れて死んだんですから。それより、強くなった僕をマスターゴーランに見てもらいたいんです」


「わかったよ。ガイは熱血だな。じゃあ、頑張って」



 こうして、ガイが加わった。









 クリスマス休暇中のある日のこと。



「そう言えば、来年は大公巡行の年だ、マックスも頼むぞ。新年早々、準備だな」



 夕食で、皆が集まっている時に、叔父様が話をふってきた。そうか、4年に1回だから来年か。面倒くさい。いい加減やめれば良いのに。



「わかりました。えーと、自分の騎士を連れて行けば良いんですよね?」


「そうだ。今年は西方だから、ヤコブに西方方面軍で周囲を警戒はさせるが、警護は基本騎士のみで行う。マックスも自分の騎士団出してくれ。強い騎士を増やしているようだしな」


「強い騎士はたまたま、集まってきただけですけど。わかりました」



 こうして、新年早々準備を開始した。参加者は、お祖父様筆頭にホルス一族と、その血縁者。そして、その随行員合わせて一万人位になるそうだ。





 そして、それを警護する騎士も、叔父様は、中央騎士団長を連れて、さらに200名ほどの中央騎士団員を参加させ、ヤコブも、西方騎士団長を連れて、さらに100名ほどの西方騎士団員を参加させるそうだ。さらに、旧大公騎士団として、レオポルド達含めて、100名ほどが参加する。



 そして、ホルス一族がそれぞれ連れてくる警護騎士や、魔術師。合わせると、1000名近い騎士と、魔術師が集まるそうだ。ほとんど戦争でもするような陣容だ。





 さて、僕の場合だが、ジョスーの騎士団員のうち2小隊10名の騎士と、2名の魔術師を残して、後は連れていくことにした。さらに、レオポルド、アラン、ランドール、ビル先輩、ソムチャイ、ガイ。そして、ビクターに、卒業式終わったら、リグルドもか。これだけの騎士と、ハインリヒ、パナ、ジローの魔術師。計47名。以上。





 後は、叔父様達と話し合いながら、警護計画をたてていくことになるだろう。










 陛下への新年の挨拶を終え、宮内卿、近衛騎士団長と話していると、ローズ先輩の話が出てきた。



「そう言えば、トゥルク神聖国の三剣ローズ=フォン=アルフォルス殿から申し出があってな」


「えっ、ローズ先輩が?」


「うむ、大公巡行によって手薄になった皇宮に、何者かが侵入し、陛下を襲う可能性があるので、手助けしたいと、そして、成功したら、トゥルク神聖国の復活を皇帝陛下の直令として、出して欲しいとのことだ」


「何ですか、それ?」


「ハハハ、良いではありませんか。陛下も頼られて嬉しそうでしたよ」


「はあ?」





 ローズ先輩らしいというのか? 意味不明な計画だ。まず、後半の陛下の命を守ったことに対する感謝で、陛下が直令として、トゥルク神聖国の復活を提言するのは良いけど。



 前半部分の、大公巡行中で、手薄になっているとはいえ、誰が皇宮を襲うと言うのだろうか? そして、なぜ、ローズ先輩がその情報を知りえたのだろうか?



 まあ、良いか。陛下や、周囲の人は、わかっていて、微笑ましい考えだと思っているようだし。後は、僕が計画をやり易くするだけだな。









「ここが、僕の執務室です」


「知ってるよ。いつも来てるし」


「で、ここが庭に出れる扉で、庭の向こうは崖です」


「そうなんすね」



 僕は、ビル先輩とジローと共に皇宮を歩く。そして、今は、城壁の上に立ち崖下を覗いている。



「ここを登って、素早く僕の執務室に向かう」


「ああ」



 僕達は、庭を突っ切って、僕の執務室に入り、今度は廊下に出る。そして、斜め前方にある、十公会議等で使われる大広間に入る。



「で、この大広間を通って反対側の扉から出ると。また、庭に出ます」



「へー。中庭っすね」


「会議の休憩で、外に出られるようになっているんだ」


「これは、知らなかった」


「で、中庭を通って、この扉を入ると、長い廊下を通らずに陛下達の区域、皇宮本宮殿内部に入れます」


「へー。で、これで何するんすか?」


「ビル先輩とジローに、リリアちゃんの護衛及び、ローズ先輩の誘導をお願いいたします」


「は?」



 僕は2人に、ローズ先輩の計画? について話す。



「何それ? まあローズさんぽいっちゃぽいか」


「いいかげんっすね」


「まあ、そんなわけで、臨機応変に対応できるビル先輩と、ジローにお願いしたいと言うわけで。まあ、とんでもない刺客が出てきても、なんとか出来るっていう、意味もこめて」


「わかったよ、マックス。任せてくれ」


「了解っす」


「そして、はいビル先輩」


「ん? なんだ?」



 僕は、ビル先輩に緑色の神剣を渡す。レイフォード卿が、正式に騎士を引退して、託されたのだ。ガイも強くなったが、まだまだ。まあ、ビル先輩が使っていた、聖剣は渡す予定だけど。



「えっ、今度は神剣か?」


「ええ、これでビル先輩は、天剣9振りの一人ってことで」


「なんか凄い勢いで出世しているっすね、ビルさん」


「何言ってんの、ジローも、はいこれ」


「なんすか?」



 ジローには、 銀色の杖を型どったネックレストップを渡す。レイフォード卿の引退と共に、奥さんも、魔術師を引退するとのことで、一緒に託されたのだ。最初パナに渡そうとしたが、あっさりと断られた。実力的にも、知識的にもジローって事らしい。



「ジローも、これで十二賢者の一人だね」


「十二賢者か。大賢者に次ぐ、高位の魔術師だな。ジローも凄いな」


「ビルさん。ありがとうございますって。俺がっすか!」


「頑張ってね。ジロー」






 さて、これでだいたいの準備は整った。ローズ先輩とリリアちゃんの護衛には、ジローとビル先輩。僕は、大公巡行の列に加わらないといけないから、リグルドも一緒。ソムチャイとガイは連絡係。指揮はレオポルドがとって、そばにランドールと、ハインリヒ。周囲警戒に、アラン、ビクター、パナ。



 後は、お祖父様の側には、エピジュメル、パウロス、Dr.メックス女史に、ポルビッチもいる。

 うん、完璧だろう。








 そして、帝国歴351年6月15日、大公巡行は始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る