第16話 マスターゴーラン旅日記 最終章

 わしとガイは、西方従属国を離れ、ティメールへと足を踏み入れた。この国は、正直踏み入れたくなかったのだが、そうも言ってられない。



 いくつかの道場をまわり、首都に入る。ティメール法国の首都はティメール。そして、王の名もティメール。



「仕方ない、会ってくるか」


「マスターゴーラン、どうしたんですか?」


「いや、妖怪に会ってくる」


「妖怪ですか?」


「ああ、この国の王ティメールにな。ガイはここにいろ」


「はい、わかりました。マスターゴーラン、ティメールと、お知り合いなのですか?」


「まあな」





 わしは、ティメール僧院の総本山、ティメール宮殿に向かう、魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿。



 その頂点に君臨するのは、ティメール。魔術師の最高位である大賢者を持つ、魔術師なのだが、それだけではない。




「久しいなマスターゴーラン」


「はい、20年ぶり位になりましょうか」


「そうか、月日の過ぎるのは早いな。まあ、わしと、マスターゴーランが最初に会ってからは、もう50年近くになるか」


「はい、そうなります」




 目の前の男は、40代後半にしか見えない。わしが会った、ティメールは、先代のティメールだ。わしが、14・15の頃、剣の道に進もうと、道場で剣を無心で振るっていたわしを、たまたま見かけたティメールが声をかけたのだ。当時80歳を越えていたティメールは、程なくして亡くなった。



 それから、剣の道に邁進し名が売れてきたわしは、ティメール宮殿から、呼び出しを受けた。わしは、名が売れたことで、何か役職をまかせられるのかと、宮殿に行き、ティメールと面会した。



「久しいな、ゴーラン」


「は?」


「ハハハ、若返ったからわからないか。お前は、14・15であったか?」


「えっとティメール様?」


「そうだ、ティメールは本当に輪廻転生しているのだよ」


「えっ、本当に?」


「まあな。わしは、優れた魔術師だ。自分が死ぬと同時に、生まれたばかりの子に転生する、邪法をかけてあるのだよ。ハハハハハハ!」



 ティメール法国の頂点は、世間の評判と違って本当に妖怪だった。気持ちの悪い。宮殿騎士団や、僧院が国を動かしているのではない。



 わしは、怖くなって、ティメール法国を離れた。





「そう言えば、騎士の息子がいるのだが、話したことあったか?」


「いいえ、知りませんでした」


「今回騎士の能力を持った女と、子を作ったら騎士能力を持った子が生まれてな。だから宮殿騎士団のトップを任せているのだよ。うん、実に役に立つ」



 このなまぐさ坊主。しもじもの僧には厳しい戒律を課しておいて、自分たちはやりたい放題。本当にこいつ嫌い。わしは、そうそうに、去ることにした。



「では、長くなっても申し訳ありませんので、これで失礼いたします」


「そうか、ゆっくりしていけば良いものを。まあ仕方あるまい。これからどちらに向かうのかな?」


「はい、ウルバリアに立ち寄って、その後は、北へ、向かいます」


「そうか、気をつけて向かわれよ」










「おい」


「はっ、ティメール様、何用でしょうか」


「うむ、あの男に手紙を書く、一筆書くから、届けてくれ」


「はっ、畏まりました」


「マスターゴーラン。ただの剣術馬鹿には、そろそろ退場願わないとな」









 わしらは、ウルバリア王国に入った。砂漠を越え、王都に。魔戦士がずいぶんといる。そして、ウルバリアの王子と出会い、一手御指南をという事で、ウルバリア王宮にしばらく滞在した。ねちねちとした、ねくらな妖怪に、会った後でもあったので、さっぱりと気さくな王子との日々は楽しかった。そして、魔戦士とも戦う機会をもらったが、かなり強い。



 ガイは、苦にしなかったが、わしは、あの巨体で、わしと変わらないスピードで、わしを凌駕するパワーに圧倒された。なんとか勝ったが、魔戦士とは、なんとも恐るべきものだ。









 わしらは、西を離れた。がすでに北は冬。少し帝国領内をまわるつもりで、道を進んだ。するとガイが。



「なんか嫌な感じがします。この先に進まない方が良いと思います」


「そうか、急ぐ旅ではない。ゆっくりするか」




 しかし、その夜。わしは、ガイに起こされた。




「マスターゴーラン、起きてください」


「なんだ? ガイ。」


「嫌な感じが迫っています。逃げましょう」


「逃げる?」



 三剣である、わしが逃げる相手? マックスか?

 剣聖クレストか? 面白い戦ってみるか。わしは、戦う準備を整えると、ゆっくりと外に出た。すると、周囲はすっかり囲まれていた。そして、1人の男が、わしの前に立った。



 背が高くやせ形、ひょっろとした風に見えるが、その肉体は極限まで鍛えられているようだ。無駄な肉を極限まで削った体、そして黒い長髪に不気味なほどに白い肌、そして、猛禽類を思わせる目。



「お初にお目にかかります。わたくし、人々からは、ダークネスと呼ばれている男です」


「そのダークネスが、何のようだ?」


「はい、あなたの持つ神剣を、欲しいと思いまして」


「欲しいと言われて、はいって渡すと思っているのか?」


「いいえ、思っておりません。ですから、仕方なく、わたくし自らおもむいたわけです」


「意味がわからん。わしに勝てると思っているのか?」


「ええまあ。ティメール様も、そろそろマスターゴーラン様は、退場なさった方が良いと、おっしゃっていましたし」


「あの妖怪め! ガイ、下がっていなさい」


「ですが!」


「ああ、大丈夫ですよ。お弟子さんには、指一本触れませんので、ご安心ください」


「ふっ、それはありがたい。わしにも触れないともっとありがたいのだがな!」


「ふふふ、面白い方だ。ですが、楽しいおしゃべりの時間も、ここまでにしましょう。行きますよ!」




 ダークネスは、紫色の神剣を抜いて構える。中段の構え。わしも赤銅色の神剣を抜いて構える、中段の構え、やや腰を落とす。そして、全身に力をこめる。全身に力がみなぎった。



「ウオリャアアア!」



 わしは、気合いと共にダークネスに斬り込んだ。ダークネスは、わしの一撃、一撃を受け止めながら、徐々に後退する。しかし、気持ちの悪い剣だ。気水流ではないようだが、打ち込んでも手応えがない。そして、投げ技、当て身等も織り混ぜているが、全然かすりもしない。



 ならば、わしは、少し距離をとって



「錬身流奥義白虎!」



 わしが最も得意な奥義だ。全速力をかけた突き、わしはダークネスめがけて突っ込んだ。



「雷鳴流奥義風神!」



 ダークネスは、奥義をただ避けるためだけに使った。わしの技は、ダークネスにかすることも無く、避けられた。



「マスターゴーラン、さすがに決着を急ぎ過ぎではないですか? もっと楽しみましょうよ。では、次はわたくしがいきますね。まあ、あまり得意な奥義ではないのですが」



「雷鳴流奥義陽炎乱舞!」



 ダークネスは、12体に別れてわしに迫る。何が苦手な攻撃だ。この数の分身攻撃を見るのは、始めてだ。でも、対処法は知っている。と言うか、その対策で、作った技だ。



「錬身流奥義玄武!」



 わしは、全力で土下座する。すると、周囲に衝撃波が広がり、土埃が舞う。そして、わしの下に穴が開く。分身体は、衝撃波に巻き込まれ消えた。



「ふふふ、本当に面白い。いつまでも戦っていたいですね。ですが、息があがってしまわれましたか?」



 確かに、息があがってきた。旅の間に鍛え直した。つもりだったが、若くないと言うことか。



「では、そろそろお互い必殺技で、決着でもつけますか?」


「望むところだ!」



「雷鳴流奥義雷神!」


「錬身流奥義白虎!」



 今度は、真正面から奥義のぶつかり合いだ。わしは残りの力を振り絞って突進する。前方からは空気が切り裂かれる雷鳴のような音が迫る。そして、ぶつかり合った。はずだった………。しかし、何の手応えもなかった。




「ゴフッ!」



 わしは、どこの痛みかわからないが、激しい痛みを覚え倒れた。そして、



「では、神剣頂いていきますね。これで、わたくしも、三剣のダークネス。いや、三剣のダニエル=フォン=ダーレンバッハですか。兄が落とした家名が少しは良くなりますかね? まあ、ダーレンバッハ家など、どうでも良いのですがね。ふふふ」




 そう言うと、どこかに消えていった。





「マスターゴーラン、しっかりして下さい!」


「ふー。負けてしまったか。すまん、ゴフッ」


「すぐに治療所に運びますね!」


「いや、もう助からんよ。わしの体は、わしが一番知っている」


「ですが!」


「ガイ、わしを越えて強くなれ!」


「マスターゴーラン」


「………」


「マスター!」




 帝国歴350年12月13日、マスターゴーラン、ダークネスに敗れ、死去。享年65歳。

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