第15話 マスターゴーラン旅日記
わしの名は、マスターゴーラン錬身流の開祖にして、三剣に列する騎士だ。今はレイリン周辺にある道場と、レイリン騎士学校で、錬身流を教えている。学校で教えるのはとても楽しい。時に急激な成長を見せる。最近だと天才騎士ビルマイス、そして、熱血努力家アドルフ。
そして、こいつは本当の天才だろう。マックスだ。ここ最近何があったかわからないが、努力をし始めた。今までは、錬身流にとって重要な体幹を鍛える為に、素振りは欠かさず行っていたようだが、練習の時は、わしの技を見てさらっとやってみせる。そして、努力しない男だったのだが。
まあ、やる気を出したのはいいことだ。引っ張られて、ヨハンや、ガイまで急激に強くなっていく。ヨハンや、ガイの成長は尋常じゃないはずだが、マックスには、それでも余裕綽々だ。マックスの本気の掛かり稽古についていけるのは、現役だとガイ、ヨハン、リリア、そして、頑張ってクリスくらいだろうか?。
そうそれを見て、わしもわくわくしてきたのだ。もう少ししたら、再度修行の旅に出るのもいいかもしれない。アドルフが、先生になり、学校に残る。そして、教えるのもうまい。任せてもいいかもしれない。門弟達も、独立して、各地に広がりつつある。いろいろな道場を見て回るのもいいな。考えていたら楽しくなってきた。もう少し飲むか。
最近アドルフに指導を任せている。うん、とてもうまい。特に基礎的な部分の指導は、わしよりうまい。さらに、言語化するのも上手だ。技の肝を文章化して、新入生に丁寧に教えているのを見ると。正直羨ましい。こういう所は、ビルマイスにも、マックスにもない。
あの2人に技を解説させると。相手がきたらこうやって、力を流して、こう投げる。って、それでわかるか? しかし、アドルフは違う。という訳で、アドルフの指導は、大丈夫そうだ。
うん、では、そろそろ旅の準備をと思っていたのだが、ガイと、ヨハンが実務実習において、同じチームになるそうだ。これは、チャンスではないか? 徹底的に鍛えられる。正直、あれだけの才能を持った2人が、揃うのは珍しい。わしは、学校長に申し入れてみた。結果は、あっさりと許可された。これで、来年早々から、わしは、2人の指導員だ。
ヨハン、ガイ、魔術師の女の子ウィリアミーナちゃんの担当となって旅立った。最初の任務は、皆と同じ、商人の護衛任務。ガイとわしの探索スキルは皆無。まあ、直感と言う名の能力はあるが。それなので、ヨハンがリーダーとなり、ウィラちゃんが、参謀役と探索担当となって、わしらはその指示の元動く。う~ん、いいのかこれで?
そして、任務の合間等で、直接指導する。うん、やはり直接指導した方が効率が良い。みるみる2人は強くなっていく。そして、チームで教えることによって、連携も良くなっていった。良いぞ。ヨハンのピンチをガイが救い、ガイのピンチをヨハンが救う。そして、ベストタイミングでの、魔術でのサポート。素晴らしいチームになっていく。
しかし、マックスが言っていた事と違って、強敵が襲ってくることも、大変な任務もないぞ? 奴だけの試練だったのであろうか?
実務実習も終盤を迎え、幾度目かの商人護衛任務をこなしている時、ガイが突然。先に進む事を拒否してきた。なぜか聞くが、本人にもわからないようだ。わしの直感にも引っ掛からないし、ヨハン、ウィラちゃんの探索にも何も引っ掛からないようだが、わしは、商人を説得して、1日だけ、滞在を延ばしてもらった。そして、翌日出発。すると、ある程度進んだ時、道の真ん中に大穴が空いていた。何者かが戦った後のようだ。そのまま、出発していたら、戦闘に巻き込まれていたかもしれない。
わしにとっても楽しかった、実務実習が終わってしまった。後は、旅に出る準備かクリス達の卒業式が終わったら旅に出よう。うん。さて、どっちに向かうか?
「久しぶりだな。マックス!」
「ご無沙汰しております。マスターゴーラン」
そして、卒業式マックスがリリアちゃんを迎えにきていた。シルキリア帝国で、統帥局長なる役職について、暴れまわっているらしい。ホルス一族の悪党を退治したり、皇帝に取り入って権力を奪取しようとしたりという噂は、あちこちで聞いた。まあ、噂は噂だ。
「いろいろ、噂は聞いたぞ。帝都での活躍や、ワイランの話もな。マックスは、マックスだな。ガハハハハハハ!」
「マスターゴーラン、どういう意味ですか?」
「ガハハハ、気にするな。それよりも、ヨハンに、ガイ強くなったぞ」
「マスターゴーランが、実務実習にかこつけて、鍛え上げたからですか?」
「まあ、そうだな。ヨハンは、ビルマイスに匹敵する天才騎士だし、ガイは、わしに匹敵する野生の騎士だ。ガイは、卒業したら、わしの旅に同行するって言っておる。将来楽しみだ」
「えっ、マスターゴーラン旅に出るんですか?」
「ああ、言ってなかったか? わしは、しばらく武者修行の旅に出ようと思う。自分の弟子達の道場も廻りつつ、己も鍛え直す。卒業式、終わったら旅立つつもりだ」
「そうですか。お気をつけて」
「うむ、マックスも気をつけろよ」
「はい」
わしは、旅に出た。まずは東に向かう。ああ、そう言えば、ガイは、4年後半になったら、旅に合流したいそうだ。その為に、場所を知らせる手紙か、伝言が欲しいそうだ。まあ、合流はだいぶ先だ。それまでは、気の向くままに旅をしようと思う。
東側は、平和なようだ。トゥルク動乱と呼ばれるもめ事があった時はどうなるかと思ったが、今は、落ち着いている。というか、トゥルク動乱前と逆に、親ホルスになっているような気がする。違うな親マックスだな。ガハハハ!
わしは、錬身流の道場に弟子を訪ねつつ、国々をまわる。シルキリア帝国と、その従属国しかないが、とても穏やかで緊張感がない。それは、道場で学んでいる者もそうであった。わしは、弟子達も含めて気合いを入れ直してやった。ガハハハハ!
半年ほどして、だいぶ寒くなってきた。わしは、暖かさを求めて南に下る。ガイに一応伝言を出す。便利なものだ、伝言所にいき伝言を言うと、魔導具を使って送って、相手に伝えてくれるのだ。やや値がはるが。
南は東側よりさらにのんびりとしている。冬になろうと言うのに暖かければ当然か? 南は、騎士の数も少ないためか、道場も少ない。のんびりと歩きまわっていると、ガイが現れた。
「よく場所がわかったな?」
「南にいるって言ってたので、向かったのですが。後はなんとなく、直感です」
うん、こいつは化け物か?
剣術大会、卒業式までは、少し時間がある。わしは、ガイと共に南の地を歩きまわった。一人旅も良かったが、やはり旅は道ずれ世は情け。楽しいものだ。
剣術大会が近づくと、南は雨が多くなり、蒸し暑くなっていく。わしは南を離れ西に向かうことにした。北上しつつガイと別れ西に向かう。少しずつ温暖になってきて、過ごしやすくなってくる。
西方は、戦いの歴史があり、己を磨くことに熱心だ。騎士の数も多くなり、道場も増えてくる。わしは、弟子達の道場に立ち寄って、教えをとく。弟子達も熱心だ。
西方の従属国をまわって、ティメールに入ろうかとしていると、ガイがやってきた。また、直感だそうだ。そして、マックスの話を聞く。
「マックス先輩が、マキシだったんですよ。強かったです」
「何? マックスがマキシ?」
わしは、全然気付いていなかった。あの穏やかなマックスが、狂剣の人形と呼ばれた男だと? 剣聖ランベルクを殺害するなどの凶行を繰り広げた男だったとは。
「で、わしとどっちが強い?」
「えっ、う~ん、全盛期のマスターゴーランは知らないですけど、ヨハンと2人で戦って、負けたので、たぶんマックス先輩の方が強いと思います。本気だしてる風でしたけど、まだ、かなり余力残していたと思うので」
「そうか」
今のヨハンとガイを2対1で、倒すのは不可能に近い。全盛期だって、どうだか? それだけ2人は強くなった。
「僕は、マスターゴーランとの旅が終わったら、マックス先輩の所に行きます。そして、一緒に戦えるくらい強くなりたいです」
「そうか」
ガイだったら、その領域に達せられるかもしれないな。わしも目指した騎士の頂きとも呼べる領域に。わしは三剣で、強いと思っていたが、剣聖ランベルクには、勝てなかった。だが、剣聖ランベルクを破ったという、剣聖クレスト。そして、剣聖ランベルクを殺したマキシ。そして、ガイ。
わしは、新しい時代にちょっと嫉妬をした。
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