第12話 ヴァルド王国の侵攻 幕引き
「雪だな」
「はい、陛下」
「うむ、そろそろ撤兵の準備をしておけ、我が国が雪に覆われる前に、帰るぞ」
「はっ。しかし、帝国軍は追撃してきませんでしょうか?」
「我が軍を追撃して、雪で覆われて、帰れなくなりたいと。それに向こうも、ヴァルド王国と互角に戦って、この戦いの落とし所を探していよう」
「互角に戦ってですか? こちらは、本気を出しておりませんが」
「それは向こうもであろう。なあ、クレストよ」
「マキシのことですか?」
「ああ、あの男は面白い」
「わたしは、本当に戦いたくありませんけどね」
「しかし、戦わざるを得ない。ハハハ」
「運命のままに」
「ヴィシュタリア様、雪が降ってまいりました」
「くっ、時間切れか、結局押し返せなかったか。仕方あるまい」
「で、どうされますので?」
「向こうが、停戦の提案をしてきたら。退くぞ。撤兵の準備をしておけ」
「はっ、畏まりました。で、お互いどのような条件で撤兵するのでしょうか?」
「どのような条件? 現状維持しかないだろう」
「しかし、従属国3ヵ国への処分とか?」
「ない。元に戻るなら、こちらとしては、無視する」
「はあ?」
「まあ良い。それよりマックスを呼べ。まあ、あいつの事だ既に終わらせているだろうが」
「はっ、畏まりました」
「で、マックス。いや、ローデンブルク統帥局長。頼みがあるのだが」
「はい、ここに」
僕は、書類2通を取り出す。紙を丸めて封蝋にて封印されている。そして、1つには皇帝の印璽が、1つには宰相の印が押されている。
「用意が良いな。で、何が書かれている」
「はい、停戦交渉は大将軍である、叔父様に一任すると」
「そうか、ありがとう。しかし、今回は、一任するも、しないもないだろう」
「ですね。全て元通り」
「ああ。そう言うわけで、もう1つ仕事だ。和平交渉の席に、立ち会ってもらうぞ」
「はい、畏まりました」
「一、ヴァルド王国、シルキリア帝国の国境線は変わらずこれまでとする」
「一、お互いの捕虜は即時交換とする。人数も、関係無いものとする」
「一、ヴァルド王国側で戦ったモルディニア国、サルディニア王国、ネルソン王国に関しても、何ら処分を行わない事とする」
「こちらの提案はこのようなものだが、いかがですかな? ヴィシュタリア=フォルスト=ホルス殿?」
「最初の2つに関して文句はありません。むしろ、捕虜になった者はこちらの方が多いくらいですから。しかし」
「最後の1つは納得できないか?」
「いえ、ヴァルド王国が今後あの3ヵ国をどうするのか? と」
「なるほど。どうもしねえよ」
「は?」
「だから、そのまま帝国従属国であって、こちらとは関係ない」
「そうですか。わかりました。では、こちらとしては、文句ありません」
こうして、和平交渉は成立した。元々決まっていたように、あっさりしたものだ。僕が立ち会った意味は、向こうにも、剣聖クレストがいたからだろう。
そう言えば、ヴァルドの国王に直接会うのは始めてだ。ざっくばらんとした、豪快な人という感じか?。ヴァルド王国に関しても、バリバリの軍事国家かと思っていたが、どうも考えていたよりも、自由で、さっぱりとした気風に思える。
「アラン、戦場どうだった?」
「はい、いろいろな騎士と戦えて良かったです」
「アランさん、凄いっすね。戦場にずっといたんっすか?」
「ええ、ずっと戦ってました」
「へー」
「ランドールは?」
「わたしは、魔導鎧と魔導剣のテストが出来ました。うん、これで完全に使いこなせます」
「まあ。耐久試験にもなりましたし。良い勉強になりました。帰って最終調整したら、完璧ですよ」
「そうなんだ。ハインリヒもご苦労様」
「ありがとうございます」
「さあ、帰るか」
「はい、で、どうされますので?」
「これから帝都帰っても11月の十公会議も出れないから、大公屋敷に向かうよ。結婚式の準備も任せっぱなしだし」
「はっ、畏まりました」
こうして、僕達は大公屋敷に向かった。クリスマス休暇に大公屋敷で行われる、僕とリリアちゃんの結婚式の準備と、もう1つ理由があったのだが。それは、ドラグとミントちゃんの結婚式に参加する為だ。同じくクリスマス休暇に行われることがわかり、ドラグの結婚式が先、僕達の結婚式がその後という流れになった。
「マックス様、マックスさん、マックス先輩、マックス…。どれが良いですか?」
「う~ん、僕はリリアって呼ぶとまだ気恥ずかしいから、呼び慣れたリリアちゃんで、呼ぶから。そうすると、マックスさんとか?」
「わたしは、リリアでも良いのですが。そうですね。あなた…。やっぱりマックスさん」
「ハハハ、何か改まってこういうことすると恥ずかしいね」
「はい。ちょっと」
「まあ、お互い慣れていこう」
「はい」
「マックス、リリアちゃんようこそ。遠くまで、わざわざ、ありがとうございます」
「ドラグ、結婚おめでとう」
「ドラグ先輩、結婚おめでとうございます」
僕達は、ドラグの結婚式が行われる、ドラグの故郷シャミール王国の王都カルバキルにやってきた。軌道列車で、セイリアに行き、そこから馬車だ。
「ミントちゃんは?」
「女性はいろいろ準備忙しいみたいだよ」
「マックスさん、わたしミントちゃんの所行って来ますね」
「うん、じゃあ後で」
「はい」
リリアちゃんは、そう言うと屋敷の奥に入っていった。さて、僕はと。
「おっ、ピノ久しぶり」
「マックス君も元気だったかな?」
「うん、元気だよ、ピノも元気そうで何より。他の皆は?」
「ジョイ君はまだかな。他って言っても、ナッツ君とか、ヨシュア君は仲良い訳ではないし」
「ああ、まあそうだけど、一応同じ学校だったんだから、挨拶ぐらいは」
「だったら、行くし」
「ナッツ君、ヨシュア君、久しぶり」
「あっマックス君、ピノ君久しぶり」
「久しぶりだし」
「久しぶり」
学校時代の同級生は、この位かな? 後は、ドラグの部活の後輩とかか? 西域に行ったメンバーは見えない。おそらく、ミントちゃんの所にいるんだろう。そして、入り口付近で歓声があがる。
「おっ、ヒーロー登場だね」
「ヒーロー?」
ヨシュア君は誰が来たかわかっているようだ、ピノも、ナッツ君も頷いている。すると、プロレス用のロングタイツを履き、上半身ムキムキのマスクマンが入ってくる。ん? あれはジョイか?
「マックス君、知らないかな。ジョイ君は、西域からの使者、謎のマスクマン「マスク・ド・ジョイ」として、暗黒大帝ブラックカイザーと抗争を繰り広げて、一躍有名人なんだよ」
「へー」
いろいろ突っ込みどころはある。なぜ謎のマスクマンが名前名乗っているんだ? そして、結婚式になぜマスク姿で現れたのか? そして、あのマスクは、ドラゴン? さらに西域からの使者? ジョイは帝国出身だろ。 そして暗黒大帝ブラックカイザー? モチーフは、お祖父様か? まあいいや、深く考えるのよそう。
「ジョイ久しぶり」
「ああ、マックス、ピノ久しぶり。えっと、他は誰だっけ?」
「あっ、ナッツです」
「ヨシュアです」
「ハハハ、ナッツ君、ヨシュア君久しぶり?」
そして、結婚式が始まる。僕達の席は6人がけのテーブルで、僕の右隣がリリアちゃん、左隣がピノ、そして、さらにその隣がジョイ。さすがにプロレスの衣装ではなく、礼服を着ている。そして、リリアちゃんの隣には、ベルちゃん、そして、その隣にフォルちゃんだ。
「ドラグ=ジュニア=アルジュヴァリエ君と、ミンティリアさんの結婚を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「自己紹介?」
「そう、せっかく一緒のテーブルになったから、良いかなと思って」
「そうだね、じゃあ僕から、マクシミリアン=フォン=ローデンブルク公爵です。シルキリア帝国統帥局長しています」
「次はわたしね。リリア=フォン=ローデンブルク公爵夫人です。マックスさんの奥さんやってます」
「じゃあ、このまま反時計回りで、わたしは、ベルガモット=フォン=タリッタニアですわ。リリアちゃんと同じ帝国の東方従属国のタウラス公国の重臣家の令嬢ですわ。今は、花嫁修行中ですわ」
「キャハハハ、ベルちゃん、ですわ多すぎ。わたしは、フォレスティーよ。みんなにはフォルちゃん呼ばれてるの、よろしく。わたしの一族は、ちょっと有名な傭兵団なの。暁の鷹ね。わたしは、今そこで、修行中です」
「じゃあ俺か、俺は帝国プロレス所属のプロレスラージョレンテこと、マスク・ド・ジョイだ。よろしく!」
「最後は僕だし。ピノワール=フォン=クックパルトだし。帝国南部従属国の、煌越国の貴族家の跡取りだし」
こうして、自己紹介をして、テーブルの会話は盛り上がっていった。
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