第11話 ヴァルド王国の侵攻 名も無き兵士の祈り

「帝国軍北方方面軍野戦第1軍第4師団槍兵第13連隊第4大隊第8中隊第2小隊所属ゴンであります。騎士様」


「俺はヴェルド王国赤色騎士団所属ガルヴァリアだ。帝国軍の兵士が、なぜこんな所にいる」


「はっ、隊長の命令で、食糧の配給を取りに行き迷ったであります」


「ハハハ、そうか。なら、早く戻れ、ヴァルド王国の兵士に見つかると、殺されるぞ」


「騎士様は、殺さないでありますか?」


「殺して欲しいのか?」


「いえ、違うであります」


「俺の仕事は敵の騎士を倒すこと。兵士を殺すことではない。まあ、襲いかかられたら、殺すがな。と言うわけだ、ちょうど背後に丘が見えるだろ、あちらを目指せば、陣地に帰れると思う」


「はっ、ありがとうございました。このご恩は、一生忘れません」


「ハハハ、わかったから、早く行け」


「はっ、失礼しました」



 俺は、そう言うと、振り返る。丘が遠くに見える。そして、そちらを目指して、歩き始めた。チラッと振り返ると、ガルヴァリア様は、ポケットから、葉巻を取り出すと、火をつけて、吸い始めた。格好いい~。







 俺の家は農家だ。その三男坊。農家の後継ぎは長男だし。何かあっても次男もいる。俺は、新たに土地を開墾して、農家をやるか、それ以外の仕事をするかしないと、いけなかった。体が大きく喧嘩も強かった俺は、帝国軍の兵士募集に応募してみた。結果は見事合格。



 これで、食いっぱぐれる事のない、安定した仕事を見つけた。ただし、死ななければであるが。俺の所属は帝国軍北方方面軍野戦第1軍第4師団槍兵第13連隊第4大隊第8中隊第2小隊 。とは言え、普段会うのは小隊の仲間30人程だけで、演習の時に集合して大部隊になるのを見る位だった。








「これは、演習ではない。ヴァルド王国が、国境を越え進軍してきた。我々も、戦闘準備を整え、急ぎ戦場に向かう」



 ある日、小隊長が俺たちに命令を下した。俺にとって、始めての戦争、武者震いとも、恐怖からかもしれないが、俺は、興奮に打ち震えた。

 俺たちは、急ぎ準備を整えると進軍を開始した。進軍中に兵士が集結していき。小隊が中隊に、中隊が大隊に、大隊が連隊に、連隊が師団に、師団が軍団になり、そして、北方方面軍

 15万人が集結した。



 見渡す限りの人、人、人。そして、遠くで、北方方面軍指令長官なる人物が、話し始めた。まるっきり、聞こえないし、見えない。翌日小隊長が、伝達してくれた。まあ、ようするに、帝国の為に頑張って戦うように、ってことだった。



 戦場に到着すると、自分達のテントや、騎士団用のテント張り、本陣の準備等、雑用に終われた。疲れて自分たちのテントに戻り、寝袋にくるまって寝る。すると、一緒のテントのベテラン兵士が話し始めた。



「戦場で生き残るこつは、騎士に近づかないことと、余計な事をしないことだ。俺たちは、勇者に慣れるわけでも、英雄を目指すわけでもないんだからな。生き残れよ。」



 話を聞きつつ、俺は眠りについた。






 そして、戦争が始まった。遠く離れた中央では、騎士団同士の激しい戦いが始まっているようだ。土煙と、雷鳴のような激しい音が響き渡る。あの場にいたら、俺たち兵士は、細切れのミンチ肉になってしまうそうだ。怖い、怖い。



 俺たちの戦いも始まった。騎馬隊が突撃して、槍隊が受け止める。弓隊が矢を放ち、剣隊が斬り込む。俺も、槍隊の中で必死に戦う。翌日も、翌々日も。



 そして、戦争は長期化して、兵士同士の戦いは、ほぼなくなって。テントの周辺で、待機することが増えた。まあ、交代で周辺の見回り業務とか、騎士団の世話業務とかが回ってくるが、基本のんびりと過ごしていた。








「ゴン、ヤス、ライル。今日の配給を受け取りに行ってこい」



 そんなある日、小隊長の命令で配給の受け取りを任された。北方方面軍の連隊補給所に行くのだ。その時、ちょっと考え事をしていて、俺は、2人とはぐれてしまった。そして、ここはどこだ?



 俺は、走りまわり味方を探した。そして、人がいた。しかし、それは、ヴァルド王国の騎士のガルヴァリア様だった。俺は、恐怖に震えた。小隊長曰く、騎士1人に対して小隊全員でかかっても勝てないかもしれないと、言われていた存在。俺は、死を覚悟した。しかし、



「帝国軍の兵士か、どこの部隊だ?」


「帝国軍北方方面軍野戦第1軍第4師団槍兵第13連隊第4大隊第8中隊第2小隊 所属ゴンであります。騎士様」



 そして、ガルヴァリア様は、俺の帰る方向を教えてくれた。



 こうして、俺は、無事に小隊に戻った。仲間は心配していて、小隊長には殴られた。しかし、ガルヴァリア様、格好良かったなー。葉巻か。









 俺は、戦場に出来た臨時商店で葉巻を買った。そして、吸い方を教わり、先端を刃物で切り落とし、火をつけた。口に咥え、吸い込む。そして、むせた。肺に入ってしまったようだ。もう一度、吸い込む今度は、口の中でまわす。そして、吐き出すと、スパイスのようなスモーキーな、香りが漂う。



 俺は、ちょっと大人になった気がした。しかし、高いから、たまににしよう。仲間にもすすめてみたが、断られた。





 戦争はまだ終わらない。そんなある日、今度は小隊での、警戒業務が行われた。戦場を見回る。そして、草むらに倒れている人を発見する。1人は、帝国の騎士。1人は、ガルヴァリア様だ。2人とも大怪我をしているようだ。おそらく2人は、戦って怪我をしたのだろう。



 皆は、近づかない、巻き込まれないように様子を見ている。俺は、ガルヴァリア様の方に走った。



「ゴン!何をしている。危ないぞ」



 仲間が俺の身の心配をして、声をかけてくれた。



「ガルヴァリア様、大丈夫ですか?」


「く、コホッ、誰だ?」


「帝国軍北方方面軍野戦第1軍第4師団槍兵第13連隊第4大隊第8中隊第2小隊所属ゴンであります。ガルヴァリア様」


「そうか、あの時の兵士か。ハハハ、俺は大怪我で動けない。俺を討ち取れば、大手柄だ。その槍で、突くといい」


「ガルヴァリア様、俺は、あの時ガルヴァリア様に助けられました。今度は俺の番です」



 俺は、ガルヴァリア様を背負うと、ヴァルド王国軍の陣地の方に走り始めた。振り返ると、口々に何か言っている仲間達と、遠くに丘が見えた。そして、俺は視線を戻すと全力で走った。そして、5分ほど走った時、ヴァルド王国の兵士達が立ちふさがった。



「何者だ!」


「帝国軍北方方面軍野戦第1軍第4師団槍兵第13連隊第4大隊第8中隊第2小隊所属ゴンであります。ヴァルド王国軍赤色騎士団所属ガルヴァリア様が、大怪我を負っているのであります」


「何。わかった少し待て」



 そう言うと、数人の兵士が、走り去り、数人は、俺から、ガルヴァリア様を下ろすと、下に寝かせた。しばらくして、数名の騎士と魔術師がきた。そして、治療が始まる。そして、騎士の1人が、俺に話かけてきた。



「ありがとう。ガルヴァリアの命を助けてもらったようだ。感謝する」


「いえ、前にガルヴァリア様に命を助けられたであります。その恩返しであります」


「そうか。で、これからどうするんだ? 帝国に帰っても処分されるかもしれないぞ」


「いえ、これから帰るであります。処分も覚悟の上であります」


「そうか、わかった。少し待て」



 そう言うと、後ろの騎士に声をかける。騎士は、凄いスピードで走り去ると、またすぐに戻ってきた。そして、目の前の騎士に渡す。紙と筆であった。そして、目の前の騎士は、何かを書き始める。そして、封筒を取り出すと、紙を入れ、封を閉じ、封蝋をすると印をした。



「これを持っていけ、上官に渡せば、処分が軽くなるかもしれん」


「は、ありがとうございます。では、失礼しました」



 そう言うと、俺は再び走り始めた。今度は、帰るために。少し走ると、遠くに丘が見えた。






「申し訳ありません。勝手な行動をしました。処分は、覚悟しております」


「そうか、とりあえずは、謹慎だ。小隊長だけでは処分できないからな」


「はい、わかりました。それで、ヴァルド王国の騎士様より、受け取ったので、一応お渡しします」


「わかった、預かっておく」









「ゴン一等卒、前へ」


「はっ 」


「ゴン一等卒、ヴァルド王国救国勲章及び、シルキリア帝国栄光勲章を授与する。そして、ゴン一等卒は、兵長とする」


「はい、ありがとうございました」

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