第9話 ヴァルド王国の侵攻 剣聖クレストの決断
「何者だ!」
「ああ、僕は帝国軍筆頭騎士マキシ=フォルスト=ホルスと言います」
「なっ! 敵襲、敵襲!」
ヴァルド王国軍の本陣にて、待機していると大きな声が聞こえる。気配を探るが、2人か?。いや、気配は3人だ。1人は、まるっきり魔力探知に引っ掛からない。何者だ?
「エレナ、アレリア、誰か来たようです。1人は、強い騎士ですが、1人は、まるっきり、魔力がありません。誰でしょう?」
「マキシ!」
アレリアが、珍しく怒りを露にする。
「マキシ」
わたし達は、椅子から立ち上がる。そして、外に出る。見ると、白いコート型の軍服を着た3人が立っている。1人は、マックスと顔がそっくりだ。だが、どこかのんきな表情のマックスと違い、その端整な顔は、目付きが鋭く、どこか冷たい印象を受ける。
そばにいる2人も、始めての顔だ。騎士の方は、知的な顔をした男だ。魔術師の方は、白い軍服の上から、黒いローブを着ている。この辺りの人間ではなさそうだ。呑気そうな顔をしているが、動きには隙がない。
「皆さん、下がってください。勝てる相手じゃないですよ。わたしが、対応します」
「はじめまして、マキシ=フォルスト=ホルス様。一応、ヴァルド王国軍筆頭騎士の剣聖クレストです」
マキシは、わたしの方を見ると、漆黒の神剣を抜き放ちながら言った。
「この戦い、あなたを討てば終わりますかね?」
「いや、お互いただの飾り、いなくなったところで、何も変わらないですよ」
「そうかもしれませんね。じゃあ、戦っても無駄でしょうか?」
「いや、一度剣を交えてみるのも、面白いかもしれません。騎士同士剣で語り合った方がわかり会えるでしょう」
わたしは、金色の神剣を抜く。そして、
「アレリアさん、お願いします」
「はい、クレスト様」
わたしの中を魔力の奔流が流れ、身体能力の強化をする。そして、エレナにも、エレナは、マキシの近くにいる騎士を相手と見定めたようだ。
14年前にわたしは、結婚した。剣の道に生きてきたわたしの遅い結婚であった。子供も2人生まれ上の男の子は、クレストジュニア、そして下の女の子には、レオナと名付けた。幸せだった。
モルディニア国は、わたしを筆頭騎士とはしたものの、比較的自由にさせてくれた。剣聖ランドルフが亡くなり、わたしが剣聖を継ぐと、街にわたしの弟子になりたい者、わたしを利用したい者等、が集まり街は栄え、国はその恩恵を喜んでいたようだ。
しかし、ある時悪意あるものが、わたしを利用するために、わたしの妻や、子供たちに危害を加えようとした。もちろん、わたしは、その行為を未然に防いだ。しかし、元々病弱であった妻は、床につくことが多くなった。
すると、ヴァルド王国が、わたしに接触をはかってきた。国力もあり、強い騎士も多い我が国なら、奥さんも、子供も安全に暮らせると。確かに魅力的な、提案だった。しかし、今の環境は、快適だと思っていた、わたしは断った。すると、ヴァルド王国は、わたしを襲ってきた。運良く、ホルス大公家の騎士の手助けもあって、無傷で撃退して、事なきを得た。
妻が亡くなった、結婚10年目のことだった。わたしは、嘆き悲しんだ、お酒に溺れ、女に溺れてみた。子供達を見る余力もなかった。しかし、何の救いにもならなかった。
注意すべき男も訪ねてきた。その男は、ダークネスと名乗った。狂気をはらんだ目、そして、ただならぬ気配を持った、その男は、仲間になるように勧誘してきたが。そんなのお断りであった。この男に関わっては駄目だ。本能もそう告げていた。
「また、お会いしましょう」
そう告げると、男は去っていった。
子供たちは、アレリアが世話をしてくれていたが、大変そうだった。子供も育てたことがない、アレリアに負担をかけてしまった。そして、家に帰ったわたしを見る、子供たちの哀しそうな目が、わたしの心をえぐった。
そんな時、ヴァルド王国国王が訪ねてきた。
「剣聖クレスト、子供を預かろう。ヴァルド王国が、守る。子供を育てた人間も、いっぱいおるからな」
正直信じられない話だった。しかし、さっぱりとして、豪快な性格のヴァルド王を不思議と信じられるような気がした。そして、
「ヴァルド王国に好きに入って子供に会っても、良いし、好きに生きてくれ。ただし、一つだけ願いがある。おい、エレナ入ってこい」
金髪の少女が入ってくる。魔力探知で、探知すると凄まじい魔力量だ。
「この子を育てて欲しい。いや、元々強い騎士なのだが、その程度で終わるとも思えなくてな」
「はい、畏まりました」
エレナは、わたしの弟子になった。そして、放浪の旅に出た。目的はなかった。エレナに剣術を教えたり、お酒に溺れてみたり、女にも。最後に、好きに生きてみた。
エレナは、養魔剣神流に向いていた。みるみる強くなり、奥義を2つも覚えた。
そして、途中ただの骨董品扱いされていた、神剣を回収して、エレナとアランチェスさんを天剣に任命した。エレナは、とても強くなった。
旅を終え、わたしは、子供達の元に戻った。後は、子供達と共に生きる。ヴァルド王国で。
「わたしを、ヴァルド王国の為にお使いください」
「本当に良いのか?」
「はい」
こうして、わたしは、ヴァルド王国の家臣になった。役職は、筆頭騎士。ただのお飾りの役職。
エレナは、黄色騎士団の騎士団長になった。わたし、そして、エレナ、黒色騎士団長、そして、赤色騎士団長のヴェルド王子に国王。とても強い騎士が揃った。
「腑抜けた、帝国に久々に喧嘩を売るか。ホルス大公は良いが、それを笠に着ただけの連中は気にくわない。ちょっと、脅してやるか」
「はい」
こうして、ヴァルド王国は、帝国に侵攻した。わたしがヴァルド王国に加わったことで、モルディニア国はヴァルド王国についた。そして、その関係国も。
「イヤーーーー!」
気合いと共に、エレナがマキシと共にいた騎士に斬りかかる。すると、その勢いのまま、エレナが吹っ飛ぶ。なっ! わたしは、正直驚いた。エレナは、強い。そして、魔力によってアップされた。身体能力は、かなりのものだ。
「ビル、殺さないようにね」
「はい、マキシ様」
エレナの戦っている騎士は、ビルと言うらしい。エレナは、凄まじいスピードとパワーで、ビルに斬りかかるが、それを全て、綺麗に流している。まさに暖簾に腕押し。エレナのスピード、パワーは、ビルの技で、全て受け止められている。
わたしは、エレナとビルの対決を見つつ、興奮を覚えた。あれほど強い騎士がつかえる、マキシの強さはと。わたしは、神剣を構え、マキシに斬り込んだ。
マキシも、わたしの動きに反応し、斬り込んできた。お互いの剣と剣が激しくぶつかる。周囲に衝撃が広がり、土煙や、暴風が吹き荒れる。強い。パワーでは上回っているが、スピードで負けている。さらに、その俊敏さは、正直目で追うのがやっとだ。
このまま、ずっと剣を打ち合わせていたい。正直気持ちが良い。マキシの剣は、噂と違い、狂気の剣でも殺人剣でもなかった。わたしは、満足した。
「エレナ、剣を引きなさい!」
「クレスト師匠?」
エレナは、呆然としつつ、攻撃をやめた。すると、ビルも剣を引き。鞘に戻した。
そして、わたしも。
「わたしは、満足しました。あなたは、いかがですか?」
すると、マキシは攻撃をやめて、
「わかりました。剣を引きましょう。ですが、あなたとは、戦いたくない。強すぎますよ」
「わたしもです。あなたと戦いたくないですね。でも、いずれ決着はつけないといけない気がします」
「そうかもしれません」
と言うと、マキシ達は、堂々と、ヴァルド王国の本陣から去っていった。すると、どこかで見ていたのか、国王陛下が寄ってきた。
「フハハハ。クレストよ。帝国にも面白い奴がいたな」
「はい、国王陛下」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます