第8話 ヴァルド王国の侵攻

 ヴァルド王国軍は、キリル高原に布陣した。その数、全軍にあたる、兵力30万、騎士の数1500、魔術師の数200であった。帝国従属国でありながら、ヴァルド王国方についた3ヵ国は、兵力9万、騎士の数270、魔術師の数38であった。総兵力は、39万、騎士の数1770、魔術師の数238となった。





 対する帝国軍は、北方方面軍がまず動いた。その数兵力15万、騎士の数600、魔術師の数120。そして、叔父様も中央軍を率いて参戦した。その数兵力25万、騎士の数1000、魔術師の数200。そして、他の従属国5ヵ国は帝国方として、参戦した。その数、兵力11万、騎士の数330、魔術師の数47であった。総兵力は、兵力51万、騎士の数1930、魔術師の数367。



 普段はキリル短角牛でも、有名な一面の牧草地。所々に丘のように盛り上がっている場所もあり、そこにそれぞれの軍が陣を敷いていた。


 すすきの穂が風でそよぐ、秋の高原にシルキリア帝国軍、ヴァルド王国軍の軍旗がはためいていた。





 数では上回る帝国軍であったが、騎士の質では、ヴァルド王国の方が上と言われていて。魔術師の数で、上回る帝国軍が、サポート力で、上回るとみられていた。




 さらに、布陣したヴァルド王国軍が発表した、宣戦布告に、驚愕することになる。ヴァルド王国軍の総司令官兼筆頭騎士として、剣聖クレストの名が書かれていたのである。この情報は、騎士の国々中を駆け巡った。そして、帝国軍にとっても衝撃的なニュースであった。







 僕は、叔父様に呼び出された。


「マックス、あれだ。帝国の筆頭騎士なんだが、レイフォード卿や、中央騎士団長では、迫力不足だと、思うよな」


 確かに、レイフォード卿は、結構年齢高いし、いくら帝国の最精鋭騎士団の中央騎士団長でも、名は響いていない。


「確かに、そうですね」


「だろ、だから、今回の帝国軍筆頭騎士は、マキシ=フォルスト=ホルスだ」


「は?」


「頼んだぞ」



 やられた。叔父様が、僕にとどまって参戦するように言っていた理由はこれだったか。マキシの勇名? じゃないな、悪名を使いたかったのだろう。はあ~。










 そして、お互いの準備の整った9月末、僕は、帝国軍の騎士団の前に立っていた。そして、遠く正面には、ヴァルド王国軍の騎士団、そして、その前には、剣聖クレストが立っている。中央部で、騎士団は、騎士団どうしで戦い。その左右巻き込まれないような位置に、両軍の兵士が布陣している。




 剣聖クレストが、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。僕もゆっくりと歩みよる。これが、騎士の国のならわし、筆頭騎士の役割だ。戦闘開始の合図を出す。それは、本当にただの合図であったり、お互いの一騎討ちであったり。今回は、クレスト次第か。出来れば、無駄に戦いたくない。



 お互い100m位の距離に近づく。すると、剣聖クレストが右手を大きく上に挙げる。どうやら、一騎討ちはしないようだ。僕も同じように右手を上に挙げる。そして、同じタイミングで振り下ろす。





「ウオオオオーーーー!」



 凄まじい叫び声と、地響き、そして、風が切り裂かれる音が、響き渡る。



 すると、僕の左右をそれぞれの騎士団が、騎士団長を先頭に、隊列を組んで、高速で前進して突撃を敢行する。騎士団同士が、激しくぶつかり合い、衝撃波が走り抜け、土煙が沸き上がり、戦場を覆い尽くす。



 弾き飛ばされた騎士が上空に舞い上がり、地面に叩きつけられたり、体のパーツや、肉片が飛び散り、血煙りが舞う。何せ、全力で走れば時速80kmにもなる。騎士の突撃だ。とんでもないことになっている。





 気配を探ると、クレストは、背を向け、後方に下がり始めているようだ。僕も、激しくぶつかり合う、騎士団に背を向け、戦場が見えやすい位置に移動する。




 最初の激突は、帝国軍の方が数では上回っていたものの、騎士の質で上回る、ヴァルド王国が押し込んでいるようだ。しかし、一気にと言うわけではなく、お互い激しい戦いが巻き起こっている。



 そして、中央から遠く離れた左右の場所では、兵士達も戦闘をしている。しかし、激しい戦いと言うわけでなく、お互い形式的に戦っているという感じだ。騎士の国々の戦いは、あくまでも、騎士同士の戦いがメインなのだ。




「皆はどうする? あの中で戦いたい?」


「よろしいのですか?」


「うん、無茶しなければ」


「では、戦ってみたいです。名をあげるチャンスかもしれないですし」


「俺もです」



 ランドールと、アランは、参戦希望のようだ。


「わかった、ハインリヒ。2人のサポートよろしく」


「はい、畏まりました」



 ランドールは、魔導鎧を身につけ、魔導剣を持つと、アラン、ハインリヒと共に、乱戦に突入していった。





 僕は、ソムチャイ、ジロー、ビル先輩と共に戦場を見下ろす。



 時間が経つにつれ、帝国軍魔術師の活躍により、帝国軍騎士は、怪我を早く治療され、戦場に素早く復帰して、押し返していく。今は、完全に互角だ。より、乱戦へと突入していく。






「しかし、ヴァルド王国も本気じゃない感じだな。なんか騎士に実戦経験積ませる為の演習というか」


「そうだよな~。確かに戦争開始する時期的にも微妙だし」


「しかし、嫌っすね。実際の戦争が演習っすか。そう言えば、時期的にも微妙って、どういうことっすか?」



 ここは、戦場近くに作られた飲み屋だ。戦争開始よりしばらく経過した。最前線はもちろん戦闘中だが、後方は待機中や、負傷者が暇をもて余してくる。すると、商人達が集まって商売を始める。もちろん、巻き込まれない位置にあるが。そして、飲み屋も出来て、その一軒にビル先輩、ジローと共にやってきた。




「ああ、キリル高原は、高地にあるから、晩秋位から雪が降ってきて、最終的には、雪で閉ざされる」


「だから、お互い撤退しないといけない」


「晩秋、もうあまり期間がないっすね」


「ああ、帝国軍を破って帝国領内に侵攻するつもりなら、もう少し早く春頃に攻めこんでこないといけないんだけどね」


「ふーん」


「それに」


「マックス、それに、何っすか?」


「ヴァルド王国は、精鋭部隊を投入してこないし」


「精鋭部隊って、剣聖クレストとか?」


「ビル先輩。それもありますけど、黄色騎士団とか、黒色騎士団ですかね」


「黄色騎士団は、この間会った、えっと王直属の騎士団っすよね。黒色騎士団は、何っすか?」


「騎士の力を持った、孤児等を集めて子供の頃から徹底的に鍛え上げた騎士みたいだね。しかも、帝国軍と同じ色の軍服を着せられた、忌み嫌われる存在」


「凄く、嫌っすね」


「まあ。数も少ないから、だろうけど」


「ふーん、なるほどね。そう言えば、最近アランさん達見ないけど、相変わらず戦場真っ只中?」


「そうなんだよね。何がいいんだか。帰ってこないんですよ」


「ふーん。で、マックス様は、どう動くんだ?」


「僕は、ちょっと剣聖クレストとかの、真意でも確かめてみようかなと」


「会えるんっすか?」


「直接会ってくれるわけないよ」


「じゃあ?」


「ビル先輩、明日ヴァルド王国中枢に斬り込みますよ」


「えっ!」







 僕と、ビル先輩、そしてジローは、戦場真っ只中に入っていった。気配を消して素早く動く、そして、ヴァルド王国の陣地へ、ヴァルド王国も後方は警戒が緩んでいるようで、特に気にされることなく。で、見えてきた。ヴァルド王国の本陣だ。



 流石に、ヴァルド王国の近衛騎士団か、親衛隊とかが警戒しているようだ。



「何者だ!」


「ああ、僕は帝国軍筆頭騎士マキシ=フォルスト=ホルスと言います」


「なっ! 敵襲、敵襲!」




 ヴァルド王国軍の騎士が、集結してくる。そして、幕で覆われた、本陣から、数名が出てくる。



「皆さん、下がってください。勝てる相手じゃないですよ。わたしが、対応します」



 剣聖クレストと、エレナさん、そして黄色騎士団が前に出てくる。 そして、きつい目で睨んでくる。アレリアさん。




「はじめまして、マキシ=フォルスト=ホルス様。一応、ヴァルド王国軍筆頭騎士の剣聖クレストです」

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