第6話 リリアの卒業式とそれぞれの旅立ち

 時は少し遡って、帝国歴349年6月4日。



「卒業生代表。リリア=フォン=ローデンブルクじゃなくて、アルフォルス」



 会場に笑いが起こり、その後、温かい拍手が起こる。



 今日は、そういよいよリリアちゃんの卒業式だ。もう、僕が卒業して1年がたった、早いような遅いような。リリアちゃん、クリス、ハルちゃん、ハッシュに、ローランちゃん。



 ん? ローランちゃんのお腹でかくないか?


「6ヶ月だそうです。クリスマス休暇に、仕込んだんですね」


 ヨハンが寄ってきて、ポツリと呟く。しかし、言い方がね。



 錬深流の後輩達も集まっている。ヨハンに、ガイに、エリーゼちゃん。そして、リグルドに、タリンナちゃん。そして、去年入部した、1年生達。6人もいる。男の子2人に、女の子4人。ヨハン主将の元、頑張ってほしい。



「久しぶりだな。マックス!」



 相変わらずの大声が響く。


「ご無沙汰しております。マスターゴーラン」


「いろいろ、噂は聞いたぞ。帝都での活躍や、ワイランの話もな。マックスは、マックスだな。ガハハハハハハ!」


「マスターゴーラン、どういう意味ですか?」


「ガハハハ、気にするな。それよりも、ヨハンに、ガイ強くなったぞ」


「マスターゴーランが、実務実習にかこつけて、鍛え上げたからですか?」


「まあ、そうだな。ヨハンは、ビルマイスに匹敵する天才騎士だし、ガイは、わしに匹敵する野生の騎士だ。ガイは、卒業したら、わしの旅に同行するって言っておる。将来楽しみだ」


「えっ、マスターゴーラン旅に出るんですか?」


「ああ、言ってなかったか? わしは、しばらく武者修行の旅に出ようと思う。自分の弟子達の道場も廻りつつ、己も鍛え直す。卒業式、終わったら旅立つつもりだ」


「そうですか。お気をつけて」


「うむ、マックスも気をつけろよ」


「はい」






 クリスは、学校に残るそうだ。アドルフ先輩と同じく先生を目指す。ハルちゃんは、家に帰って、ハッシュと、ローランちゃんは、結婚するのだが、これから仕事探しと、親の許可をとるそうで、呑気なハッシュも流石に顔色が悪い。そして、リリアちゃんは、あれっ? どうするんだ?




「リリアちゃん、卒業おめでとう」


「マックス先輩、ありがとうございます」


「あの答辞の最後」


「やめてください。みんなにも、散々からかわれたんです」


 リリアちゃんが、顔を真っ赤にして悶える。



「アハハ、ごめん、ごめん。で、これからどうするの?」


「これから、どうすれば良いですか?」



 ん? あれっ、そう言えば。えっ、この場所で。流石に嫌だな。



「リリアちゃん、こっち来て」


「キャッ、マックス先輩?」




 僕は、リリアちゃんの手を引いて、移動する。えーと、人のいない所、いない所。




 僕は、少し歩くと校舎の裏に出た。



「えっと、リリアちゃん」


「は、はい」


「僕、最初に会った時から、一目惚れしていたんで」


「は、はい」


「それで、あの」



 久しぶりに、頭の奥から声がする。しっかりしろ、ヘタレ。



「うん、リリアちゃん、僕と結婚してください。できるだけ、幸せにします!」


「はい、嬉しいです。わたしも、最初会った時からお慕い申し上げておりました」



 僕は、リリアちゃんに近づくと、優しく抱き締める。そして、唇と唇が触れる。







 しばらくして、静かに離れる。そして、



「それで、リリアちゃん。どうする? 僕は、だいたい帝都と、ジョスーと、往復しているけど。」


「あの、わがままなお願いなのですが、ジョスーの御屋敷にいても良いでしょうか? 姉のことが心配なので」


「そうか、相変わらず?」


「いえ、相変わらず変な集会に出ているのですが、最近は、ちょっと感じ違って」


「反大公派じゃなくて?」


「はい、たぶんマックス先輩の噂もあって」


「僕の噂?」


 いったいどんな噂が流れているんだ?。マスターゴーランも、言っていたけど。


「はい、統帥局長に就任したマックス先輩が、ホルス一族も関係なく処罰して、さらに皇帝を取り込もうと暗躍していると」


「えっ、何それ?」


 そんな大それたことはしていないし、出来ていない。


「でも、帝国が変わりつつあるという、話にはなっておりますから、良い傾向なのではないでしょうか?」


「まあ、それなら良いけど」







 僕とリリアちゃんは、リリアちゃんの荷物をジョスーに送る準備をすると、帰り支度を始める。そして、リグルド、そしてリグルドを迎えに来ていた。ビクターと共に、ジョスーに向かう。リグルドは、少し身長が延びていた。



「リグルド、騎士学校はどうだ?」


「はい、とても楽しいです。特に、実務実習は、勉強になります」



 そうか、リグルドも、もうそんな時期か。今年一年は忙しいな。









 ジョスーの街が見えてきた。そして、屋敷の前に、ビルマイス先輩が立っている。どうしたんだ?



「ビル先輩、お久しぶりです。どうされたんですか?」


「おお、マックスに、リリアちゃん、リグルド、久しぶり。どうしたって言うと、あれだ。フィールドワーク飽きた、そして、お金が尽きた。という訳で、雇って」


「えっ? フィールドワークいいんですか? なんだったら、資金援助しますけど」


「いや、いい。結局、マックスが一番突拍子もない、遺伝子だし、なかなか、入れない国も多いしな」


「なるほど」


「という訳で、雇って。お金無くて」


「わかりました。では、行きますよ。ビル」


「はっ、マックス様」






 そして、さらに。



「若、ランドールも、ハインリヒも、充分期待に添えるようになったと思います。それで、今度は2人を、若の腕としてお使いください」


「わかった。リリアちゃんこっちにいること多いみたいだから、レオポルド頼むよ」


「はい、お任せください」






 さて、ランドール、ハインリヒも手元にいてくれるなら、いろいろ任せられそうだ。アラン、ジローとタイプが違うから、便利だな。そうしたら、





「本気で、かかって来いよ」


「畏まりました。マックス様」



 ハインリヒの手でいよいよ完成した、魔導鎧と魔導剣を持って、ランドールが答える。ハインリヒによると、ジローの知識によって、鎧の軽量化と、効率化が向上した上。魔石も埋め込み、ハインリヒの魔力を充填したことにより、過激な戦闘を継続しない限り、恒久的な稼働が可能になったそうだ。



 そして、僕は構える。本気で戦おう。僕は、全身に力がみなぎるのを感じる。そして、ランドールが、突っ込んでくるのに合わせて、僕も高速で突っ込む。激しくぶつかり合う。そして、ランドールがパワーをあげ、僕の剣を押し込む。僕は、脱力しつつ、体を足を軸に回転させ、ランドールの剣を受け流して、ランドールを投げる。



 吹っ飛んだランドールに追撃をかけるが、空中で体勢を変え、ランドールが受け止める。僕は一旦離れて構えなおす。確かに、スピードも早くなったし、パワーもアップしている。チラッと見ると、レオポルドがやや青くなっている。しかし、アラン曰く、俊敏さが足りないそうで、雷鳴流の奥義の分身体攻撃は苦手だそうだ。



 しかし、お祖父様の代名詞でもあった必殺技は得意だそうだ。圧倒的な突進力と体重の乗ったパワーで行う。雷鳴流の奥義。



「雷鳴流奥義雷神!」



 流石にまともに受け止めたら、僕でもまずい。



「錬身流奥義朱雀!」



 ランドールが高速で突っ込んでくる。空気が切り裂かれる音が聞こえ雷鳴のように鳴り響く。そして、僕は、16体に分身して、剣を振り上げつつ、一点で収束されるように振り下ろしていく。そして、真ん中辺りで、ランドールと僕の攻撃がぶつかり合う。凄まじい衝撃波が、周囲に広がる。



 そして、ランドールは気絶したようだ。僕は、一応無傷。しかし、強くなったな。ランドール。





 さて、次は、ビルマイス先輩こと、ビルと、レオポルドの対決だ。しかし、一方的な展開になってしまった。天才は、正統的な剣術は読みやすいようで、いいように、振り回されるレオポルド。



「若、だんだん自信無くなってきましたよ」


「いや、ほら、戦いの相性ってあるでしょ」


「はあ、ありがとうございます」



 うん、頑張れレオポルド。



 これで、ジョスー屋敷には、リリアちゃんと、パナ、レオポルド、そしてビクター。で、帝都には、アラン、ビルに、ジローにソムチャイ。そして、ランドールとハインリヒ。ようやく、形になってきた。

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