第5話 暗殺

「あの小僧。最近生意気な」


「どうされたのですか?」


「ん?。ローデンブルク統帥局長だ。大公の孫であり、宰相の息子であることを笠に着て、やりたい放題だ。エモセスも、そう思うであろう?」



 わたしは、あなたもホルス一族であることを笠に着ていると思ったが、そんなことは言わない。わたしは、ただの執事。ブエルブルク=フォルスト=ホルス内務卿の使用人だ。



「左様で、ございます。まったくもって、生意気な男で、ございます」


「うむ、そうであろう。まったくもって、忌々しい。どうしてくれよう」


「ローデンブルク統帥局長の追い落としをされるのですか?」



「馬鹿を言うな。宰相と大公に喧嘩売れるか? しかし、良い策があるか? う~ん、うん、それが良い」


「どうされたのですか?」


「ああ、妙案を思いついたのよ」


「妙案とは?」


「フフフ、最近我が家に来た、食客の中に、強い騎士がいたであろう」


「はい、確か、ヴァルド王国を追放された男たちでしたな」


「ああ、奴らに仕事を頼み。上手くいったら、雇ってやると言って、仕事をさせよう」


「それは、喜ぶでしょう。して、どのような仕事を任せますので?」


「暗殺だ」


「は?」


「ローデンブルク統帥局長の暗殺だ」











 僕は、暗くなった夜道を歩く。普段一緒のジローと、アランもいない。最近つけてくる人間がいたので、わざとだ。



 そして、人通りのない道の途中、気配が近づいてきて取り囲まれる。人数は3人。



「何者だ!」


 わざとらしい。僕は声をあげる。



「くくく、ローデンブルク統帥局長だな? 申し訳ないが、死んでもらう」


「誰の命令だ?」


「死んでいくやつに、言っても無駄だろ」


 目の前の良くしゃべる男の手には、聖剣が握られている。地剣108刀の一人だろう。他の2人も結構な手練れだ。恐らく、剣豪と呼ばれている人間だろう。天剣のアランを警戒して、地剣と剣豪2人だったのだろうが、そのアランもいない。楽な仕事と思っているのだろうか。





 僕は、すでにピアスを外している。そして、漆黒の神剣を抜く。3人の表情が少し引き締まる。そして、それぞれが、剣を抜いて構える。1人は、2刀を構え、1人は、下段に構える。そして、地剣は八相に構える。雷鳴流、気水流、剣王流なのだろう。





 僕は、中段やや腰を落として構える。そして、無言で、左斜め後方の気水流の剣豪の方に飛ぶ。



 他の2人も追いかけ飛び、気水流の剣豪も、慌てて、僕の攻撃を受け止めるように動く。そして、僕の攻撃が届こうかという瞬間、気水流の剣豪の姿がぼやける。


「気水流奥義水鏡」



 剣と剣がぶつかり合う。と、僕の剣が、気水流の剣豪の剣をすり抜ける。そして、気水流の剣豪の姿が消える。そして、幻影のように僕の背後に現れ、剣を突き出す。


「ふっ、終わったな」



 と、僕の姿が消える。突き出された剣は空を斬る。刹那、僕の剣は気水流の剣豪の背後から、前方に胸を突き通していた。


「遅いんですよ。僕の動き見えなかったですか?」



 僕は、剣を引き抜くと、そのまま、首を斬り落とす。


「まず、1人」


「貴様、良くも!」





 雷鳴流の剣豪が突っ込んでくる。地剣の男は、一瞬遅れる。2刀の不規則な連撃を受け止めつつ、後退する。しかし、剣が軽い。僕は、強引に押し返す。すると、地剣の男も加わる。3つの剣を受け止め斬り結ぶ。3本の剣を1本の剣で捌ききる。次第に、2人に焦りの色が浮かぶ。2人は、目を合わせ、タイミングを合わせて、後方へ飛ぶ。そして、



「雷鳴流奥義陽炎乱舞!」



 雷鳴流の剣豪が、4体に別れ、こちらに向かってくる。そして、地剣の男も向かってくる。



「陽炎乱舞!」



 僕も16体に別れ、12体が雷鳴流の方に向かう。そして、それぞれを3方向から貫く。


「ぐはっ!」


 雷鳴流の男を串刺しにして、さらに4体が地剣に迫る。



「剣王流奥義剣神破!」



 地剣の男が聖剣を振るい、巨大な衝撃波を放つ。僕の分身体が巻き込まれ消える。1対1になり、お互い向き合う。地剣の男は、肩で息をして、苦しそうだ。





「貴様、何者なのだ?」


「誰か知らないで、暗殺しようとしたのですか?」


「馬鹿を言うな。それは知っている。マクシミリアン=フォン=ローデンブルク公爵…。まさか、漆黒の神剣」


「今頃気づいたのですか? 馬鹿ですね」


「狂剣の人形、漆黒の天剣マキシ」


「そうとも、言いますね」


「くそっ、剣王流奥義剣王斬!」


 地剣の男は、大上段に構える。



 僕も、剣を右手に持ち、足を縦に大きく開き、左足が前で、右足が後ろで。そして、後ろに体重をのせながら腰を落としていく。この時、剣の刃は上を向け。右足の膝をつき、踵は立てて、お尻をのせる。そして、左手を前に伸ばして、左足の横につく。そして、全身の力を全部集約して、前方に飛び出し、剣に気を集中させて、突く。



「錬身流奥義白虎!」



 お互いの剣がぶつかり合う。そして、僕の耳に骨が砕けていく音が、腕には、肉がひしゃげていく感触が伝わってくる。そして、抵抗が無くなり、僕は、動きを止める。すると、地剣の男の四肢が、首が落ちてきて、周囲にむせっかえるような、血の匂いが漂う。





 僕は、漆黒の神剣を紙で拭うと、剣を鞘にしまい。道に落ちている。聖剣も同じく拭って、鞘に戻す。そして、



「ソムチャイ、居るんだろ」


「はい、ここに」


「居るんだったら、助けてくれても良いだろ?」


「何を言っておられるのですか。わたしごとき、かえって邪魔になります。それに、随分お楽しみだったようですので」



 まあ、当然ばれていたか、少し強い騎士と戦うのは、楽しい。僕の本質はやはり狂っているのかもしれない。



「で、わたしは何をすれば?」


「ああ、この3人の首雇い主に届けてあげて、次は無いですよって」


「はっ、畏まりました」





 そう言えば、この聖剣どうしよう。僕は、あれだけの衝撃に刃こぼれひとつしていない、聖剣を見る。聖剣、当時の刀鍛冶が神剣を模倣して作ったという。今の技術でも再現出来ないそうだ。模倣しただけで、作れてしまう物なのだろうか?。



 さて、この聖剣どうするか?。ランドールは、ハインリヒの魔導剣を使うみたいだから、レオポルドは、すでに地剣108刀に選ばれたそうだ。そうすると、誰に渡そう?











「旦那様、旦那様。大変です!」


「朝から、煩いぞ。エモセス」


「ですが、も、も、門の所に。く、く、首が」


「何だ? ローデンブルク統帥局長の首でも、置かれているのか?」



 エモセスにしては面白い冗談だ。真面目なこの男の冗談など聞くのは、久しぶりだ。



「いえ、旦那様が雇われた。男たちの首です」


「な、何だと」



 久しぶりに全力で走った。廊下を抜け、玄関に出ると、門に向かう。そして、使用人達が集まっているのを押し退けて前へ出る。すると、錬鉄製の門、先が尖った槍状の装飾が並んでいる門の、真ん中と、両端に、わたしが雇った騎士達の首が突き刺さっていた。首は土気色に偏食し、苦悶の表情を浮かべていた。



 わたしは、その場に昏倒した。












「ホルス内務卿は、しばらく病気療養の為に、休養されるそうだ」


「そうなんですか」


「だが、療養は長期に及ぶかもしれない。大した仕事が無いとはいえ、一応重要ポストだ。そこで、君に内務卿の代行を頼みたい。ケーニッヒ生産局長」


「宰相閣下、畏まりました。しかし、この大事な時期に病気療養とは、ホルス内務卿も運がないですな」


「いや、本当に。どこかの誰かに、ちょっかいだして、こっぴどく反撃をくらったとかでは、ないと良いのだがな」


「はあ」


「君も一応気をつけてくれよ。ケーニッヒ生産局長兼内務卿代行」


「はい。畏まりました」

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