第4話 月日は流れ?
「えー、以上がワイラン郡守に対して、我々が行った監察の全てです。何か、御質問は、ありますか?」
「ローデンブルク統帥局長、よろしいかな?」
「ホルス内務卿、何でしょうか?」
ブエルブルク=フォルスト=ホルス内務卿。確か、お祖父様の従兄弟だったかな?
「末端とはいえ、ホルス一族に連なる身。悪事を働いていたとは言え、やり過ぎでは?」
「ホルス一族であることが何か?」
「えっ! いや」
「アハハハ、皆様も注意してください。マックス、失礼、ローデンブルク統帥局長にとって、ホルス一族であるか、どうかは関係ありませんので、そうですよね?」
「はい、ローデンブルク宰相閣下」
こうして、11月の十公会議は終わった。発言内容はあれだけ。まあ、多少インパクトはあったようだが、そして、陛下に謁見して報告。意向はありません。まあ、こうなるよね。
そして、クリスマス休暇。お祖父様が考えるホルス大公本家の集まり、インディリア=フォルスト=ホルス大公、大将軍兼、軍総司令官ヴィシュタリア=フォルスト=ホルス公爵、宰相ミュラーズ=フォン=ローデンブルク公爵、統帥局長マクシミリアン=フォン=ローデンブルク公爵、西方方面軍司令長官ヤコブ=フォルスト=ホルス伯爵、中央軍第7軍司令官ヘムロック=フォルスト=ホルス伯爵。見るとそうそうたるメンバーだろう。
お祖母様は、具合があまり良くないそうで、床についている。後は、お母様、叔母様にその娘カルミアちゃん、リリアちゃんにリグルド。そして、なんと、ヤコブの婚約者、
「スズラン=フォン=クウゼルマルクです。よろしくお願いいたします」
清楚で、優しそうな女の子だ。
「クウゼルマルクと言うと、軍務卿の?」
「末の娘さんだ。これで、軍三帥は、全員ホルス一族だな。ハハハ」
叔父様は、やることが強引だよな。お父様は、ホルス一族十公会議のうち、重要ポストにつけてないのに。宰相、軍務卿、内務卿、教育衛生局長、と僕か。財務卿、法務卿など重要ポストは、ちゃんと能力で選んでいるようだ。
そして、月日は流れる。1月の会議、3月の会議でも特になく、次年度予算案の案件が入り、議論が盛り上がってきた、5月の会議の陛下への報告の時に、事件は起こった。
「では、失礼致します」
僕は、玉座の間を退室する。すると、近衛騎士団長シュタイアーマルクより声をかけられる。
「ローデンブルク統帥局長、この後、お話があるのだが、時間ありますでしょうか?」
「はい、もちろん大丈夫ですが」
「ありがとうございます」
僕は、シュタイアーマルクの後をついて行く。そして、玉座に程近い一室に入る。中のテーブルには、ホーエンダル宮内卿と、レイフォード子爵が座っていた。そこに、僕と、近衛騎士団長が加わる。
「ローデンブルク統帥局長、今までの無礼申し訳ない。あなたの公明正大な、態度感服しました」
「公明正大?。何の話でしょうか?」
「あなたの監察によって、ホルス一族の人間が数多く失脚した」
「それは、違います。悪事を働いていた人間が、ホルス一族が多かったにすぎません」
「はい、理解しております。だから、我らは公明正大な方だと、申し上げたのです」
「それは、お褒めに預り光栄です」
「そのあなたに頼みたいのだが」
「はい、何でしょうか」
「うむ、皇帝派に属して、その手腕を発揮してもらいたい」
「そうですか。それは、お断りします」
「何故だ!」
「わたしは、皇帝派でも、ホルス一族でもない。皇帝陛下の意向の元、政治と、軍事の調和をとるのが、役目です」
「失礼しました。それでは、陛下の意向の元、十公会議において、力を発揮して頂けると」
「はい、お任せください。ただし、どこまでできるかはわかりませんけど。それで、逆に、質問なんですが、皇帝派と呼ばれる人で、権威があって、誠実な人っていますか?」
宮内卿と近衛騎士団長の視線が動き、レイフォード子爵を見つめる。
「ん? わしか? で、わしに何をやらせるんだ?」
「そろそろ、各省庁、新年度の人事が始まってますので、人事の監察をお願いいたします」
「年寄りを引っ張り出すなよ。まったく」
「すみません、何せ統帥局、人材不足でして、新年度には、入局してくるので、それまでは、お願いいたします」
「わかった。で、何をすれば良いのだ?」
「僕がピックアップするので、その人材が、その役職につくのが妥当なのか、各省庁に問い合わせてください。統帥局人事監察部部長として」
「わかった。この年寄り、嫌みを言うのは得意だ。任せろ」
ようやく、少し動いてきたようだ。
そして、7月の十公会議。僕は初めて。皇帝陛下の意向を上奏する。
「で、皇帝陛下の御意向なのですが、内政面、外交面では、特にないそうです。軍事面では、意向と言う程ではないが、周辺従属国で、演習を行う理由が知りたいそうです」
「だ、そうだ。クウゼルマルク軍務卿」
「はあ、畏まりました。次回までに、返答させて頂きます」
「すみません、よろしくお願いいたします」
そして、陛下に謁見して、報告する。これにも変化がおとずれた。
「生産局長からの報告によりますと、稲の生育は順調であり、平年並みか、平年よりやや上の収穫量が期待できるということでした」
「そうか、民も安心して、生活できるな」
僕の報告に対して、陛下がコメントしたり、相づちをうったりするようになった。陛下自身の考えなどは出てこない。考えないようにしているのか、それとも無能なのか。
「うむ、大儀であった。で、余の考えなのだが、今回は特にない。次回、前の意向に対する答えを聞いてから、考えようと思う」
「はあ。畏まりました」
「なあ、ジロー。どう思う?」
「どう思うって、陛下っすか?」
「ああ、陛下」
「う~ん、優秀な部下達に任せて、考えるのやめちゃったんっすかね」
「そうか、やっぱりそう思うよね」
「マックスのお父さんみたいなのがいたら、自分が考えるだけ、邪魔しちゃうなとか、思ちゃうんじゃないっすか」
「う~ん、だからって思考停止させても良いことないけどね」
「まあ、そうっすけどね。難しいっすね。で、陛下は良いとして、皇帝派ってどうなんすか?」
「う~ん、近衛騎士団長さんとか、宮内卿や、侍従長や、レイフォードさんは優秀だけどね。他は、位が高いだけのただのやっかみ取り巻きが多いね。元々代々軍務卿だった家系の、ハンゼント侯爵とか、歴代の財務卿を多く輩出していたムラーノ公爵とか」
「皇帝派からの人材は、レイフォードさん以外は壊滅っすか」
「うん、だから今年一般公募で集めたんだよ。少人数だけど」
「えっと、人事監察部と何でしたっけ?」
「元々のレイフォードさんは、そのまま残留させて、人事監察部でしょ、そして、州刺史からあげられた情報や、民からの訴えを管理する、行政監察部でしょ。で、統帥部ね。十公会議の議事録作ってくれたり、宮内卿や、侍従長と話合って、陛下の御意向をまとめてくれたり。部長は、そこそこ上の貴族で、職員は、下級貴族や、役人出身の結構優秀な人材が、そろってくれたね」
「良かったすね」
「うん、これで僕が居なくても、組織が動いてくれるよ」
「働かない気っすか?」
「違うよ。僕の不在時にも、ちゃんとやってくれるように、そろそろ、悪徳役人懲らしめたいし」
「ああ、そっちすか。好きっすね。出歩くの」
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