第3話 マックス漫遊記 その1

「前回の会議において、予算案は無事に可決され、分配されたわけですが。問題は、ありますでしょうか?」


「ありません!」


「わかりました。では、今回は、皆様の個々の提案について、聞いていきたいと思います」





 僕が帝都に到着して、しばらくして、お父様を中心にして、十公会議が開かれた。名前は十公会議だが、要するに閣僚会議だ。宰相、財務卿、外務卿、法務卿、軍務卿、内務卿とその下にある三局長、国家局長、教育衛生局長、生産局長。そして、統帥局長と宮内卿。



 宮内卿は、あくまで、アドバイザー的な立場であり、発言権はない。皇帝陛下に決まった内容を伝える連絡係。いや、この宮内卿伝える気もないな。メモもとってなければ、配られた資料も見ていない。諦めか、あるいは…。





 で、僕はと言うと、発言権はあるが、発言することがない。会議の始まる前に、宮内卿を捕まえて、陛下の意向ありますか? という僕の質問に対して、「特にありません」だったし、人事はすでに決まった後、新年度は始まり、動き始めた後だ。そして、地方行政の監察もまだしていない。さらに、新年度予算も、分配された後、統帥局には、予算もない。





 仕方なく、メモをとる。会議が終わった。次回は2ヶ月後。仕方なく、皇帝陛下に会議の内容を報告して終わり。任務終了だ。







「ローデンブルク統帥局長、十公会議の報告大儀であった」


「あの、次の会議に対して、陛下の御意向はありますでしょうか?」


「特にない」


「はい、畏まりました」



 信頼されてない状態じゃ、無理もないな。皇帝派っていうのがあるらしい。そこで、ごちゃごちゃ話して鬱憤を晴らしているだけなのだろう。とりあえず、ある程度は、実績なり、積み重ねないと、相手もしてくれないか。









「ソムチャイ」


「はっ」


「出来るだけ大物で、ホルス家一派で悪徳な人いる?」


「はあ。いろいろ評判は聞きますが、精査します、数日お待ちください」


「マックス、何やろうとしてるんすか?」


「ん? ああ、統帥局長として、悪徳な地方行政官潰して、実績をあげようと、してるんですが、何か?」


「なるほどね。マックスも悪どい事考えるっすね。でも、普通、警告してそれでも聞かなかったら、とかっすよね?」


「もちろん、統帥局長名義で警告文は出しますよ。そして、対処しなかった場合にです」


「で、マックス様、わたしは、いかが致しましょう? 行政官以下皆殺しにすればよろしいのでしょうか?」


「いやいや、皆殺しにしちゃ駄目だから、あくまでお仕置きレベルで。まあ、ソムチャイから、連絡来たら、その領地に潜入して、悪行の証拠をつかみ、お仕置きをすると。アランとジローには、同行してもらいます」


「了解」


「はっ、畏まりました」










 数日後、ソムチャイが報告に現れた。


「ピックアップしましたが、どの程度のランクの人間にしますか?」


「ランクっすか?」


「ジロー、帝国の地方行政官にも、ランクと言うか、位があるんだよ」


「はあ」


「えーと、一番小さな単位で、里長がいて、これはただの集落の長で、集落がいくつか集まった単位の郷の、郷長も似たようなもんね」


「はあ」


「郷がいくつか集まった、県の県令からが地方行政官で、役人や、下級貴族が派遣されているんだよ」


「へー」


「そして、県がいくつか集まると、郡。これは、郡守が統括していて上級貴族も結構いるんだ」


「すると、狙いはそこっすね」


「まあね。その上に郡がいくつか集まった、州があるんだけど、そこにいるのは州刺史って言って、州内で、県令や、郡主が悪さしてないか、監察しているだけだからね」


「ん?。だったら、その州刺史を傘下にすれば、楽じゃないっすか?」


「まあ、その通りなんだけど、統帥局には、金も無ければ、人材もいない。送られてきた資料を精査出来ないよ」


「確かにっす」


「で、ソムチャイ。誰かいる?」


「今の話ですと、一番上級貴族なのは、州刺史のホルス伯ですけど、この方は、ほぼ全員の県令、郡主から賄賂を受け取って、監察を免除していたのですが」


「ちっちゃいな」


「でしたら、ワイラン郡守のホルス子爵ですね」


「そうか、何してるの?」


「いや、この方無類の女好きでして、県令や、長達に女性を差し出させ、飽きると娼館に売って金に替えるそうです。まあ、好みも煩いそうで、十代の若い女の子が好きなんだそうです」


「許せませんね」


「アラン?」


「すみません、騎士学校の生徒思い浮かべて、怒りに震えてしまいました」


「僕も、気持ち同じだよ。さあ、行くか」


「はっ」


「了解」


「では。案内致します」









 で、僕達は、ワイラン郡にやってきた。列車に乗ってメーアに行き、そこから、船で2日程南下すると、ワイラン郡の郡都ワイランが見えてきた。港街ワイランは、とても豊かに見える。港には、無数の船、そして、たくましい体と、日に焼けた肌を持つ船乗りがとても多い。



「あの、すみません。船乗りの方ですよね? 何で、この街船乗りの方多いんですか?」


「港街に船乗りが多いの当たり前だろ。まあ、もう一つ理由があるけどな」


「もう一つの理由?」


「ああ、娼館が多いし、そして、若くて綺麗な娘が多いんだよ。」









 その後も捜査を続け、突然行方不明になった女性の話。泣く泣く自分の娘を差し出し、自殺してしまった里長の話。自分の婚約者を助け出す為に、郡主の屋敷に斬り込んで、死んだ男の話。話を聞くだけで、怒りがわいてきた。しかし、いかん、いかん。





 僕は、統帥局長名義で、警告文を出す。アランに持って行かせたが、その返事は、「ちゃんと調べろ、そのような事実はありません」とのことだった。はいはい、わかりました。これ以上不幸な人を出すわけにはいかない。





 僕達は、近くに宿をとり、屋敷を張った。そして、僕は、気配を探る。警備は、少数だが護衛の騎士と、数十名の兵士。そして、どうやら、私兵として、複数の傭兵を雇っているようだ。ん?。この気配って。





 そして、待つこと数日、複数台の馬車が近づいてくる。馬車には、窓がなく、唯一後方に鉄製の扉がついていた。気配を探ると、馬車事に、1、2人の女性が乗っている。おそらく、若い女の子達であろう。



 馬車は、玄関先で停まると、馬車から、女の子達が、運びこまれて行った。気配の消せる、僕、アラン、ソムチャイで近づき窓から覗く。すると、大きな広間に女の子達が連れてこられていた。



「ほらっ、立て!」


 ムチの音が響き、裸の女の子達が、泣きながら立ち上がる。



「わたしは、右から2番目の娘が良いですな。胸も大きく張りがある」


「どれどれ、僕は左端かな、スラッとしていて、顔もリリアちゃんにちょっと似て…」


「マックス様、ソムチャイ!」


 小声だが、迫力のあるアランの声が耳元でする。ごめんなさい。





 そして、アランが窓ガラスを割って飛び込む。



「何者だ!」



 郡守が叫び、護衛の騎士と兵士が駆け込んでくる。僕も、ソムチャイも飛び込み。ジローも、空に浮いたまま入ってくる。



「ここにおられる方をどなたと心得る、ローデンブルク統帥局長であられるぞ!」



 アランが叫ぶ。すると、



「そんな奴、知るか。殺せ、殺せ!」


「アラン、ソムチャイ、殺しちゃ駄目だよ」


「はい!」





 乱戦が始まる。僕も一応ピアスを外して、対処する。それほど、強い騎士はいなかった。僕は、かかってきた、騎士を一撃で気絶させると、兵士達は、弱めの剣の衝撃波で吹き飛ばし、気絶させる。アランが2人、ソムチャイも1人騎士を倒して、兵士も全員気絶して決着はついた。と、その時、廊下を凄い勢いで走って傭兵が走り込んでくる。




「郡守様、来たわよ! って、あれ? アラン先生と、マックス?」



 ロゼリアさんだ。そして、その後ろから2人の騎士と、メイリンさんが、駆け込んでくる。



「ロゼリアさんも、郡守の毒牙に?」


「えっ、えっ?」


「馬鹿にするな! 20歳越えたおばさん誰が抱くか!」


「お、おばさん?」


「ロゼリアさん、残念ですが、敵にまわった以上可愛い生徒でも仕方ありません。刀の錆びにしてあげましょう」


「アラン先生、敵? 刀の錆び? メイリン、どうすれば良いの?」


「ああ、えーと、あの」


「メイリンさん、郡守との契約切って、僕と契約してください。悪いようにはしません」


「わかりました」



 メイリンさんは、なにやら紙とお金を取り出すと、下に置く。


「ロゼリアさん。マックス君の命令に従ってください」


「わかったわ!」


「ロゼリアさん、郡守を殺さない程度にぼっこぼこにしてください」


「わかったわ!」








 僕達は州刺史に、情報と、郡守を引き渡し処分を任せた。そして、



「あんなのに使われるのは、嫌だわ」


「ごめんなさい、ロゼリアさん。でも、お金が良かったから。でも、マックス君に、その3倍貰えたから、これからはゆっくり仕事を吟味できますよ」


「そう。悪かったわね、マックス」


「ロゼリアさん達も、気をつけてね」


「はい、ありがとうございました」


「マックス、またね」





 こうして、ロゼリア傭兵団は去っていった。ロゼリアさんと男性騎士2人とメイリンさん。頑張って欲しいな。





「さて、僕達も帰りますか!」


「はい」


「はっ」


「了解」

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