第3章 大公暗殺未遂事件編

第1話 お祖父様と僕

 僕達は、西域の旅を終え、ジョスーの駅に降り立った。駅には、レオポルドと、ジローが迎えに出ていた。


「皆様、お疲れ様です。屋敷にご案内いたしますので、ゆっくりお休みください」


「レオポルド、出迎えありがとう。よろしく頼むよ。で、ジローはどうしたの?」


「いや、暇だったんで」


「そうなんだ。街も領内も落ち着いたみたいだもんね。ご苦労様」


「あっ、うん。どうもっす」


「しかし、若が良いと言っておられるが、もう少しどうにかならんのか、その口調」


「はーい。気をつけまーーす」


「気をつける気ないだろ、貴様」







 レオポルドに連れられて、屋敷に戻り、皆で食事をとり、ゆっくりしていると、レオポルドが声をかけてきた。


「若、大公様から、連絡なのですが、大公屋敷に顔を出すように、とのことです。」


「レオポルド、ありがとう。そっか、お祖父様から呼び出しか~。僕に何かやらせる気かな?」


「まあ、若も騎士学校卒業されましたから。それに、大公様の期待も大きいかと」


「夏合宿顔出したりして、しばらくのんびりしていたかったんだけど、そういう訳にもいかないか」


「はい。ヤコブ様は、去年から西方方面軍司令長官ですし、ヘムロック様も卒業後、ヴィシュタリア様から1軍を託されたと、聞きますので」


「へー」





 叔父様は、従兄弟達をそれぞれかなり重要ポストにつけたようだ。しかも、ヤコブは、23歳で、西方方面軍司令長官か。叔父様も、やることが大胆。今度は、引退間近と言われている、東方方面軍司令長官を、数年後に、ヘムロックか?



「わかった、レオポルド。リリアちゃんには悪いけど、お祖父様の所、明日にでも出発するよ。その代わり、リリアちゃん達を、無事に送り届けてね」


「はっ、畏まりました。若のこと、大丈夫と、思いますけど、誰かお連れください」


「わかった。ジローと、う~ん。アラン連れて行くよ。いい?」


「はい、大丈夫です」







「マックス先輩、暇な時は、学校にも、来てくださいよ」


「わかったよ。リリアちゃん。クリスマス休暇も、一緒に大公屋敷行こうね」


「はい」




 僕は、リリアちゃんを見送ると、夜ジョスーの駅から帝都に向かう列車に乗った。







「しかし、大公様から、呼び出しか~。用件って何っすかね?。俺にとって、呼び出されて良いことってなかったすね。学校でも、仕事でも」


「まあ、普通そうだろうね。お祖父様は、僕に何らかの仕事を押し付けたいんじゃない。帝都に行って、お父様や、叔父様に役職をつけられる前にね」


「へー」


「ジローも、アランもいろいろ仕事頼むかもしれないけど、よろしくね」


「はっ、畏まりました。このアラン、マックス様の為なら、たとえ火の中、水の中、この命にかえましても、やり遂げてご覧にいれます」


「アランさん、重いっす。まあ、でも、俺もやりますよ。任せてください!」



 僕と、ジロー、アランを乗せた列車は、豊かな緑の大地を進む。さて、どうなるのかな。で、ジロー達の役割分担も決めないといけないし。結構やることがあるな。まあ、お祖父様に会って何を言われるかだな。









「マックス、卒業おめでとう」


「ありがとうございます」


 インディリア=フォルスト=ホルス大公、僕のお祖父様。年齢は74歳だが、武人の面影を残し、相変わらず、黒い髪をオールバックにし、立派な体格は衰えていない。皺は、若干増えたような気がするが。





「で、お祖父様、僕に何かお話が?」


「マックス、お前の夢は何だ?」


「夢ですか?」


「そうだ、ほら、マキシだった時は、強い奴を殺したいとか。大陸全土を帝国の領土にしたいとか、皇帝を廃して、自分が皇帝にとか」



 マキシのあれは、夢ではない、殺戮衝動とか、破壊衝動とかだ。僕の夢、夢か。



「特にありません。強いてあげれば」


「強いてあげれば?」


「平和に暮らしたいです」



「ハハハ、そうか。わかった、マックスらしい夢だ。それでは今度はだが。うむ。マックスは、卒業して、仕事するわけだが、何やりたい?」


「そうですね。う~ん、ローデンブルク公爵として、やれる仕事をと」


「マックスにしては、珍しいな。帝都に行って、任された仕事をやるつもりだったか。まあ、良い。因みに、ミュラーズは、マックスを自分の補佐をやらせるつもりで、ヴィシュタリアは、東方方面軍司令長官につけるつもりだったようだ」


「えっ、東方方面軍司令長官ですか?」


「ああ、より一層軍部のホルス大公色を強めたいらしいな。ヴィシュタリアは」



 東方方面軍司令長官か、叔父様はずいぶん僕の事をかってくれているのか。それとも…。



「でだ、わしからの提案なのだが」


「はい」


「何から話すか。うむ。今の帝国の体制を作ったのは、わしだ。わしは、政治は疎いが、軍事面では自分で言うのもなんだが、優れていた。そして、わしにとって、帝国の軍事体制は、まどろっこしかった」


「はい」


「その当時、わしは、軍総司令官だった。だが、軍部は、軍政を司る軍務卿、軍令を行う軍令総長、そして、軍総司令官と別れていた。わしが、戦争を仕掛けようとしても、やれ、戦略的にダメだ。とか、政治的に合わないとか」


「はい」


「そこで、わしは陛下にお願いして、大将軍という役職を作りあげた。政治を行う宰相と、並び立つ軍事面のトップ。軍務卿、軍令総長を従え、わしの意向で、すぐに軍を動かせるようにな」


「なるほど」


「あの当時は良かったのだ。だがわしが政治から手を引こうと、宰相をミュラーズに、大将軍をヴィシュタリアに、任せたことで、ホルス大公家の支配体制が強まって。宰相が政治を担当し、大将軍が軍事を担当し、皇帝の意向は無視される体制になってしまった。まあ、確かに先代の陛下に比べ、今の皇帝陛下はちょっと、頼りないが」


「なるほど」


「で、マックス。お前には、政治と、軍事、そして皇帝との繋がりを司る仕事をやって貰いたい」


「えっ? 皇帝との繋がり?」


「ああ、皇帝陛下の意向を聞いた上で、政治と軍事面の調和をはかる」


「かなり、微妙な仕事ですね。下手をすると、ただの連絡係に」


「だが、上手くやれば、皇帝の権力を押し上げ、しかも、軍事と政治を操れる。が、そこまでのことはしないだろう」


「はい、やりたくないです。独裁者は」


「ハハハ、で、役職だが、皇帝、政治、軍事の三帥権を統合して、調停するから、統帥局局長で、どうだろう? まあ、すでに、皇帝陛下は了承済みだがな」


「はあ。わかりました。謹んでお受け致します。卿ではなく、局長ですか?」


「ああ、卿では、権力が強すぎるからな。局長なら、文句も出にくいだろう。早速、領地に戻って準備をしたら、帝都で仕事だな。ああ、その前に、お祖母様の顔を見てってくれ。最近体調が優れないようでな」


「はい、では、お祖母様の所よって行きます。で、任命書とかはないんですか?」


「すまん、すまん、忘れていた。これだ」



 僕は、シルキリア帝国の紋章の入った。封書を受けとる。開くと皇帝陛下の署名付きの、任命書が。


一、皇帝陛下の意向を承り、政治、軍事の調和を図る。


一、政治、軍事の人事面の監察を行う。


一、地方行政官、警察の監察を行う。



 言っているよりも仕事多いぞ。お祖父様は、僕に何をやらせたいんだ? 政治、軍事の人事?。お父様や、叔父様に人事面の文句をつけるってことか? しかし、最後の1個は興味がある。地方行政官、警察官の不正か、どうなんだろう。







 僕は、お祖母様に挨拶をすると、大公屋敷を離れ、一路ローデンブルク公爵領、ジョスーを目指した。お祖母様は、少しやつれていたが、僕が行くと、起きて話をした。学校のこと、今回の旅行のこと、そして、次の仕事のこと。お祖母様は、ただニコニコと話を聞いてくれた。

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