第39話 魔戦士と騎士
「リリアちゃん、ナイスアイディアだね。マックスをマキシだって言うなんて」
「はい、信じてもらって良かったです。ね、マックス先輩」
「えっ。あっうん。そうだね」
「しかし、本当に助かりました。引退して、悠々自適な生活をしてるわたしを、復活させようなどと。本当に迷惑な話です」
さっきの2人は、ウルバリア王国の王子と、ティメール法国の王子。リンドルファン=ウルバリアとエルダーフィン=ティメール。通称、赤の王子と青の王子。だそうだ。まあ、赤の王子は本当に王子だが。青の王子は、現在のティメールの息子。厳密に言えば、王子ではない。
僕達は、ドラグの家で歓待を受けた。ドラグのお父さんシルバーナイトに、お母さん、そして、弟に妹。皆良い人だ。シャミール王国の料理は、そんなに辛くないが、香辛料の聞いたスパイシーなものだった。
そして、シャミール王国産のビールをあおる。シャミール王国ではビールか、米で作られた蒸留酒が、お酒としてはメインだそうだ。蒸留酒は、ちょっと苦手なので、ビールを飲む。
「ハハハ、マックス君は、結構いける口だね。さあさあ、飲んでくれ。ドラグも、ほれ」
「父さん、あんまり、無理に薦めるなよ」
「そんなことないですよね。皆さん。えっと、ベルさんも、飲んでください」
「わたしは、ちょっとゆっくり飲みますわ」
「キャハハハ。リリアも楽しんでる」
「ふぇ?」
その夜。ドラグの屋敷で寝ていると、気配を感じて目を覚ました。僕は、起き上がると、ピアスを外して、ポケットに入れる。窓を開けると、庭が見え、さらに奥には鬱蒼とした 森が見えた。僕は、窓から静かに飛び降りると、森に向かった。
しばらく歩くと、向こうから1人の男が歩いてきた。肌は黒く、髪も黒い短髪で、筋骨隆々としている。そして、背中に大きな大剣を背負っている。
「何かようですか?」
「お前は、この先の家の者か?」
「はい、そうですよ」
「では、死んでもらう」
男は、背中から大剣を引き抜くと、なにやら呪文を唱える。すると、体がみるみる大きくなり、身長は倍になって。肌はさらに黒く。不気味な輝きを見せる。そして、口には牙が生え、目も人間のそれとは、大きく異なっている。
「グオオーーーー!」
一声叫ぶと、突っ込んできた。叫ぶなよ、いくら離れているからって、リリアちゃん達起きるだろ。本当に暗殺しに来たのか? こいつは。
しかし、巨体にしてなんてスピードだ。そして、パワーも凄まじい。さらに巨体によって加味された尋常ではない威力の攻撃が、僕が避けた地面に炸裂する。地面が大きな穴を開け、弾け飛ぶ。これは、ちょっと本気を出さないとな。さっきから、避けつつ軽く攻撃をしているが、その硬い皮膚は攻撃を通していない。
僕は、攻撃を避けつつ、呼吸を整え、体に力を入れる。全身に力が溢れ、刀身にも流れていく。デルフォルスの力を持つものの力。闘気とでも呼んだら良いのだろうか? そして、僕は、魔戦士の方にスピードを上げて飛ぶ。
「なっ消え!」
ボトッ!
「なっ、俺の腕が~!」
うるさい。攻撃を避けつつ、すれ違いざま、腕を斬り落とした。
「くそがーーーー!」
魔戦士は、怒り狂って突っ込んでくる。一撃、一撃は重い。だが、動きが直線的で読みやすい。と、今度は、口の中に何か溜めるような動きをする。
「ガーーー!」
叫ぶと共に、炎が吐き出される。僕は、神剣を高速で回転させ、炎を弾き消す。
「化け物め」
あんたに言われたくないな。まあ、魔戦士の力もわかったしもういいや。僕は神剣を構えると腰を落とした。
「錬身流奥義白虎!」
全身の力を込めた、全力の突き。僕は、魔戦士の後方に立っていた。振り返ると、魔戦士の体に、僕が通過したであろう部分が穴が開いている。そして、魔戦士は仰向けにゆっくり倒れた。僕は、ゆっくりと近づいた。
「そう言えば、名前聞いてなかった。誰?」
「わ、我が名はラビ、魔戦士のジェネラルだぞ、なぜ騎士ごときに。俺が」
「僕は、天剣のマキシ。狂剣の人形って言った方が分かる?」
「マキシ。剣聖を殺した男。そうか、貴様が。まあいい、誰かが俺の仇を…。ダルメディ帝国に栄光あ…れ…」
「死んだか。穴開いてんのに、結構しぶとかったな。まあ、いいや。ソムチャイいるんだろ」
暗闇から、男が出現する。ソムチャイは、最初からずっとついてきていたのだが、とりあえずほっておいた。
「マックス様、ここに」
「うん、とりあえず死体片付けておいて。そして、ラビだっけ? 誰の命令で、動いていたか調べられる?」
「はっ、お任せください」
ソムチャイは、再び闇に消えた。
僕は、刀身を拭き屋敷に戻る。服も汚れちゃった着替えないとな。後は、帰るだけだ、問題はないだろう。
「おい、あれは本当にマキシだったぽいな」
「はっ? 何の話だ」
「だから、シルバーナイトの所の」
「何かしたのか?」
「ラビさんに、あいつら殺してって頼んだんだ」
「ダルメディ帝国の客将だろ? 良かったのか?」
「だって、俺とお前2人で戦ってようやく勝てる人だぜ。何の問題もないって思うだろ」
「確かに」
ラビさんは、ダルメディ帝国からウルバリア王国に派遣されている。ジェネラルクラスの魔戦士だ。魔戦士にもクラスがあって、デューク、マーシャル、ジェネラル、ナイト、ソルジャーとなっている。魔戦士は、騎士より数は少ないが、一般的に強いように感じる。ラビさんと、戦っても1対1では勝てない。
「で、どうだったんだ?」
「帰ってこない。それどころか、ラビさんが襲撃した形跡もない」
「本当に?」
「ああ」
「手を出すのをやめておこう。シルバーナイトには」
「オッケー。俺達の計画に集中しますか」
「ああ」
「楽しかったね」
「う~ん、わたしは、正直ちょっと地味な旅だったなと」
「まあ、ミントちゃんの為の旅行だったのですから、しょうがありませんわ」
「マックス先輩は、いかがでした?」
「僕は、リリアちゃんがいれば、全てが幸せだよ」
「えっ、キャー」
ベルちゃんとフォルちゃんが悶える。
「マックス先輩、そういうことを、真顔で言うのやめてくれませんか。心臓に悪いです」
「ハハハ、ごめん、ごめん。ドラグと、ミントちゃんが残って、個室で、美しい女性に囲まれていると、テンションがね」
「ミントちゃん、ドラグ先輩のご家族に、気に入られたみたいで、良かったですね」
「ねー。あれかな、卒業したら、結婚?」
「う~ん、どうかしら。良い人そうだけど、ミントちゃんには、焦ってほしくないですわね」
「ドラグは、良いやつだよ。学校での一番の友達だった」
「そうですか。ミントちゃんもとても良い子です。わたしの、仲良い友達の1人です」
「そっか」
僕は、薄暗くなってきた、窓の外を見る。外の景色と共に、自分の顔も映る。今年で、20歳。少年の面影はなく青年になろうとしていた。
帝国歴348年7月末第2章終了。
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