第38話 卒業式と西域の旅

「俺、マックス先輩の教えを忘れず、必ず兄を討ち果たします」


「ああ、頑張ってね。ヨハン」


「僕も、強くなります。そしたら、先輩の所で雇ってください」


「わかった。ガイも頑張って。待ってるよ」



 次々と後輩達から挨拶を受ける。手渡される。花束に顔が隠れそうだ。リグルド、タリンナちゃん、ヨハン、ガイ、エリーゼちゃん、そして、クリスに、ハルちゃん、ハッシュに、ローランちゃん。そして、リリアちゃんは、



「マックス先輩、来年は迎えに来てくださいね。待ってます。あっでも、もしかしたら、お姉ちゃんが少し心配なので、ちょっとお待たせするかもしれませんが」


「ローズ先輩どうかしたの?」


「はい、最近こそこそと集まりを開いているようで、しかも、反大公派みたいな方々と」


「えっ。う~ん。リリアちゃん、僕に話して良かったの?」


「なぜですか? 話してはいけなかったですか?」


「いや、わかった。ローズ先輩の件も心にとめておくよ」


「はい、ありがとうございます」



 マスターゴーラン、ビル先輩、アドルフ先輩も、お祝いに来てくれた。マスターゴーランは、ガイ、ヨハンを指導している。楽しそうだ。アドルフ先輩は、見習いから先生になり、生徒の指導をしていくそうだ。ビル先輩は、2年間のフィールドワークに出発する。皆さんお世話になりました。



 アラン先生は、退職者として、卒業式で紹介された。今後は僕の家臣として、ジョスーで仕事をしてもらう予定だ。ローズ先輩は、見つけられなかった。避けられたのかな?





 そして、友達との別れ、の前に


「じゃあね、マックス。また、どこかで会いましょう!」


「ありがとうございました。また、どこかで。あっ、仕事ありましたら、ご紹介くださいね。では、失礼します」


 こうして、ロゼリアさんとメイリンさんは、去っていき。





「あっ、みんな4年間ありがとうだったし。じゃ、またねかな」



 あっさりとピノは去っていき。ジョイは、


「ぐふっ。えぐっ。うえっ。皆、俺楽しかった。ふえっ。また、集まろうな。うえっ」



 そして、ナッツ君や、ヨシュア君など、とも別れを告げ、最後はドラグか。





「あのさ、悪いんだけど」


「うん」


「付き合って欲しいんだ」


「いや、僕にはリリアちゃんがいるから」


「えっ。じゃなくて、卒業旅行に」


「去年行ったじゃん」


「えっと、僕達のじゃなくて、ミントちゃんや、リリアちゃんの」



 どうやら、リリアちゃんと、ミントちゃん達が、卒業旅行に行くことになって、場所を決めたときに、西域に行くことになったらしい。そして、ミントちゃんが、西域に行くならドラグの実家に行ってみたいと言って、ドラグも旅行に付き合うことになったようだが、一人じゃさすがにてことで、僕に一緒に行って欲しいそうだ。



 直前に言うなよ、まあ、僕も予定ないから良いけど。だけど、西域、僕は入れるか、どうかわからない。



「予定ないから、良いけど。だけど、僕は西域入れないかもよ」


「それは、大丈夫。はいこれ」


 ドラグは、シャミール王国発行の僕の身分証明書を手渡してくる。用意の良いことで。









 西域の入り口セイリアへは、2日間ほどの列車の旅だ。セイリアは、西方十二ヵ国の一国のセイリア王国の王都。従属国の中では、最大の都市。そこから、遠距離馬車に乗って西域を目指すのだ。ジョスーで、僕の屋敷に1泊して、列車に乗り込む。ついでに、僕の荷物を、ジョスーに運んでおいた。



「本当にありがとう」


「いや、別に気にしないで良いよ」



 僕達は、リリアちゃん達とは別の1等個室に、ドラグと2人で滞在している。隣からは、女の子4人の声が響きわたる。女の子3人で姦しい。女の子4人でやかましい。確か、リリアちゃんとミントちゃん以外は、ベルちゃんとフォルちゃんだったな。あった時に、愛称で紹介されたので、本名はわからない。6人だから、2等寝台かと思ったが、1等個室に乗るあたり、家柄的にも、良いのだろう。そして、列車は、セイリアに到着する。





「可愛い。見て見て、転がったよ」


「ドラグ先輩っぽいね。癒し系だよ」



 こうして、西域の旅が始まったのだ。セイリアでは、パンダという動物を見て、辛いので有名なセイリアの料理を食べる。これは、かなり美味しかった。豆腐を辛い挽き肉のソースで絡めて食べる料理や、海老をスパイシーなチリソースで食べる。




 さらに奥地に入っていく、そしてセイリアの国境に来ると、



「凄い! あっちの湖は、真っ青で、こっちの湖は、エメラルドグリーン。であれは、白い棚田みたいな所を水色の水が流れて。これは感動するな。ね、リリアちゃん」


「あまり興奮し過ぎて、落ちないでくださいね。マックス先輩、こういう風景お好きですね。まあ、わたしも好きですけど」



「良いな~。マックス先輩と、リリアちゃんが並ぶと王子様、お姫様みたいで、絵になるな~。それに引き換え、わたしは」


「ミントちゃんも、可愛いわよ。わたしは好きよ。特に、ドラグ先輩と並ぶと、パンダの親子みたいで」


「ベルちゃん、ひどい!」


「キャハハハ! パンダの親子だって!」


「フォルちゃん、笑いすぎ!」







 いよいよ、長距離馬車に乗って、ウルバリア王国に入る。帝国とは仲が悪いと言うか、領土拡大を目指して、数年に1回はティメールと共に、戦争を仕掛けてくる。最近は、動いていない。が、それがかえって不気味だ。



 南方諸国と違って馬車で移動中襲われることはなかった。しかし、結構大きなウルバリア王国、都市以外は砂漠に覆われていた。人工的に作られた道が馬車の走行を可能にしている。



「ウルバリア王国が、帝国に攻めてくる理由がわかるよ」


「そうだね。ウルバリアは比較的低地にあるけど、砂漠だし。ティメールとシャミールは高地だし。そりゃ大きくて平らな肥沃な大地が欲しいかもね」


「うん」





 ウルバリア王国には、独特の雰囲気がある。シルキリア帝国と仲が悪いのに対して、反対側にある魔神の国のダルメディ帝国と仲が良く。貿易なども頻繁に行われている。そして、それに合わせて、魔戦士をウルバリア国内で見かけることも多い。



 魔戦士、その身に魔神と呼ばれる存在を宿らせて戦う戦士。魔神の瘴気に当てられ、多少の変化はあるが、普段は見た目普通の人間で、魔神を召喚すると異形の体に変化し、とてつもない力を発揮するという。





 砂漠の中のオアシス都市を見学して回る。女の子の旅にしては渋いチョイスだ。大砂丘の中に突如現れる水色の泉と、緑の木々。そして、断崖に掘られた建物が延々と続地へ。内部の壁画や、建築物を見て歩く。







 オアシス都市を見終わると、南に向かう。砂漠の向こうに見えていた山々が目の前に迫ってきた。そして、高度が上がり、ティメール法国に入る。ティメール法国は、ティメール全土いや、その外にまで広がる、ティメール僧院のトップが法王として君臨している。



 歴代の法王は、全てティメール。ティメール僧院の開祖ティメールは、輪廻転生しているという考えらしい。亡くなると、同日に輪廻転生して次のティメールになる。



 なので、実際に国を支配しているのは、枢密院と呼ばれる院官達と、宮殿騎士団と呼ばれる。近衛騎士団だそうだ。



 ティメールの見所は、ティメール僧院の総本山にして、法王の住む、山の斜面に作られたティメール宮殿。下から登る長い階段に、物凄く大きな宮殿。部屋数は2000室を超えるそうだ。







 さらに南に下るそして、シャミール王国に入る。遠くに大きな山々が見える。そして、山頂付近に鳥…ではなく、竜が飛んでいるのが見える。山の頂上付近を住みかとして、特に人間には干渉してこないそうだ。なので、竜が魔物化して、襲って来るという珍しい事件は、シルバーナイトドラグの竜退治として、有名なのだ。





 シャミール王国の王都カルバキルが見えてきた。カルバキルは、盆地になっていて、街道から下に街が見えた。中心には小さな王城が見える。僕達は、街に入った。木で綺麗な彫刻がされた建物や、目がかかれた金色の仏塔のある、寺院。そして、川には、火葬場があり、焼いた灰を川に流していた。川は聖なる川で、流れていくと、天国に行けるのだそうだ。





「ここが家だよ。」



 ドラグが立ち止まる。



 王城の程近く、ちょっとした広場の正面にその家はあった。門や、周囲に壁はないが、レンガ作りの大きな屋敷だ。そして、なにやら門の前で揉めているようだ。



「わたしは、引退した身です。もう戦って活躍する時代は、終わったのです。どうぞお帰りください」


「シルバーナイトともあろう人が情けない。もう一花咲かせようとか、思わねえのかよ」


「ドラグ殿、どうかわれらに力を貸して頂きたい」





 どうやら、白髪頭のドラグを縦にも横にも一回り大きくしたような人が、ドラグのお父さんだろう。その前には、2人の若い男性。1人は、赤銅色の肌、黒い長髪を後ろに束ね、赤いウルバリアの民族衣装を着たきつい顔をした男性で、もう1人は、白い肌に、温和そうな顔をした坊主で。青い軍服の上から白い袈裟を纏っていた。誰だろ?



 僕達が近づくと、


「なんだ、おめえら?」


「いえ、ここ僕の家なんですけど」


「おお、ジュニアお帰り、友達連れて、家に入っていなさい」


「おっと、ジュニアって息子さんか? 息子さん、君からも頼んでよ。俺達に使えるようにってさ。なんだったら、君も来ればいいさ」


「いや、僕は弱いから」


「息子は関係ない。どうぞ、お引き取りください」


「でしたら、仕方ありません。ここで。死んでいただきます」


「何を言っておられるのですか?」


「協力して頂けないのであれば、邪魔になるのです。ですよね。リンド」


「えっ? あっ、おう。そうだな、エルド」


「赤の天剣様と、青の天剣様ですね。わたしは、リリア=フォン=アルフォルスです」


「白の天剣か、相手にとって不足はないぜ」




 と言うと、赤の天剣が、リリアちゃんに向かってくる。リリアちゃんは、華麗に舞って、受け止める。ぶつかり合う、白の刀身と、赤い刀身。赤の天剣の一撃、一撃が重いが、優雅にリリアちゃんが捌く。赤の天剣は、剣王流かな。



 向こうでは、青の天剣とドラグのお父さんが戦っている。こちらは、シルバーナイトの一撃を、青の天剣が捌く。お父さん、体力不足かな、息があがっている。しょうがない。僕は、そちらに向かおうと、一歩踏み出す。



 すると、リリアちゃんが叫ぶ。


「そして、こちらが、黒の天剣マキシ=フォルスト=ホルスです」


「なっ、えっ!」


 リリアちゃん、いきなり何を言ってるんだ?



 2人の動きが止まった。


「狂剣の人形マキシ」


「くっ。相手が悪いです。ここは素直に諦めましょう。帰りましょう。リンド」


「えっ? あっ、待ってくれ。エルド!」



 2人は、身を翻すと全力で走っていき、消えた。

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