第37話 最後の剣術大会

 クリスマス休暇が終わって、帰ってくる。しかし、2週間程で3年生の実務実習が終わるのと平行して、いろいろ動きがある。2年生が実務実習に突入し、4年生は授業がなくなり、就職活動や、卒業の準備期間に入る。



 そして、部活でも幹部交代が行われた。クリスが主将に、リリアちゃんが副将に、ハルちゃんが会計に就任する。さらに、主務にヨハンが、副務にガイがなる。で、僕達は引退だ。僕は暇だし、後少し出る予定だ。夏合宿はどうしようかな?。






「ドラグ、これからどうするんだ?」


「やることは決まったから、しばらく学校で遊んでいるよ。マックスは?」


「同じくだな。帰った瞬間から、いろいろやらされそうだから、今は、遊ぶ。そう言えば、ピノは、どうするんだ?」


「僕は、家へ帰るし、早く帰ってきて、仕事を勉強しろって、言われたし。貴族見習いかな。で、ジョイ君は、どうかな?」


「俺は、格闘家になるため、就職活動するよ。手紙出して返事貰った所あるからな」


「それは凄いね。頑張ってよ。今のうちから、サイン貰っておこうかな」



 格闘家は、人気だ。特に騎士の能力を持つ選手達の戦いは、大人気だ。騎士に慣れなくて、格闘家になったが、騎士よりも稼いでいる人はたくさんいる。頑張って欲しいものだ。何やるんだろ? 人気団体と言えば、プロレス、キックボクシング、総合格闘技、シュートボクシング、ボクシングかな?



「じゃあ、また剣術大会で」


「では、行ってくるし」



 ジョイと、ピノはこうして、いったん学校を去っていった。







「そうか、ガイとヨハンは実習か~。練習相手が~」


「マックス先輩、何言ってるんですか? わたしがいます。さあ、やりましょう!」


「リリアちゃん、何を?」


「練習です!」



 ヨハン達は、任務に突入した。しかも、1年の時、学年トップと最下位だった2人は、同じチームになり、しかも、直接指導すると言って、マスターゴーランも担当教官になったそうだ。う~ん、最強チーム。一緒に行く魔術師さん、大丈夫かな?



 という訳で、錬身流の指導は、今後アドルフ先輩が担当となった。最初は緊張していたが、次第に慣れて、独自色を出していった。イシュケルは就職活動に、レーレンさんは、家に戻った。僕は、ひたすら剣術大会に向けて腕を磨いた。リリアちゃんや、クリス、ハルちゃんや、リグルドが付き合ってくれた。







「久しぶり、ジロー、マックス。ようやく終わったよ。ドクター論文。これで、OKでれば、Dr.だよ。疲れた~」


「お疲れ様です」



 久しぶりにビル先輩が加わって、ジローとの飲み会だ。お店は、レイリンの南椀料理アローイ。そして、



「お兄さん、エローイへようこそ、サービスしておくよ~」


 ソムチャイが、近づいてくる。僕は、とりあえず無視。



「ソムチャイさん、お久しぶり。エローイって、他の店やってんの?」


「ビル先輩、やってないです。ソムチャイ、遊ばない!」


「はい、申し訳ありません」


「ハハハ、ソムチャイ怒られてんの」


「ジローさん。そんなこと言わないで下さいよ~」


「そう言えば、ソムチャイ。ビル先輩Dr.資格取ったら、フィールドワークに出るんだって、手助け出来るように、支部の場所も教えておいてあげて」


「はい、畏まりました」


 ソムチャイが、頭を軽く下げつつ、承諾する。すると、ジローが突然


「そう言えば、ソムチャイ、太った?」


「ジローさん、だからやめてって。そんなこと言うと言っちゃいますよ」


「何を?」


「ジローさん、髪ヤバイっすよ」


「人が気にしていることを。うるさい、デブ」


「わたしは、動けるデブ。全然気にしてませーん」


「ソムチャイ、ジロー、仲良いのはいいが、いい加減やめろ!」


「申し訳ありません、では」


「マックス、ビルさん、そんなに髪ヤバイっすか?」


「どれ、大丈夫だよ」


「気にするんだったら、坊主にすれば?」


「そんなことしたら、坊さんになっちゃいますよ」


 確かに、羅門や、南椀のお坊さんも坊主だったな。ジローの坊主姿想像する。格好いいと思うけどなぁ。








 そして、春合宿へ。



「ウワッ!」



 僕の目線の先には合宿所の道場の天井が見える。そして、ビル先輩の顔が覗きこんでくる。



「大丈夫か? マックス」


 僕は慌てて飛び起きると、


「はい、大丈夫です。また、よろしくお願いいたします」



 ピアスの力で、能力を封じられている僕は、当然ながら、ビル先輩よりスピード、パワーで下回る。技でなんとかしようとしてもその技でも、勝てない。それだったら、頭脳勝負と、自分に優位になるように、いろいろ策を考えて誘導してみたが、その頭脳勝負でも勝てないようだ。ことごとく、読まれて潰された。



 だけど、ビル先輩に勝つことが目的ではない。あくまで、剣術大会の為に練習に付き合ってくれているのだ。



 木刀と木刀が激しくぶつかり合い、顔の前で交差している。力をこめて押し込む、すると、ビル先輩も力をこめてくる。そして、突然ビル先輩は、力を抜く。僕の体は前につんのめる。ビル先輩は、足を軸に時計回りに体を回転させつつ、右手で木刀を持ち、木刀を下げていく。すると僕の木刀は、それに吸い寄せられるように動き、つんのめったまま、先輩の周りを回転する。そして、半回転ほどしたとこで、先輩は木刀を持つ右手を僕の胸に当て、左手を頭に添えて投げる。僕は前方に回転しながら飛び、受け身をとって立ち上がる。



 ふー。押すと引かれ、引こうとすると押される感じで、本当に巧みだ。ビル先輩は、本当に天才だ。おそらく、剣術はランドール達より上だろう。良い練習になる。









 こうして剣術修行に明け暮れた、僕の本番がやってきた。そう、剣術大会だ。僕は前回大会決勝リーグ進出したので、シード選手になっている。シード選手と言っても、同じシード選手と、トーナメント戦を戦わないだけなのだが。



 くじ運にも恵まれ、順当に決勝リーグ進出を遂げた。僕、ランドール、ロゼリアさん、暴獣ことムヒタリアン君、そして、ノーシードから勝ち上がってヨシュア君が、決勝リーグ進出者だ。そして、抽選が行われる。初戦の相手はヨシュア君だ。ドラグ曰く、前回のリベンジに燃えているそうだ。





「第1試合、ヨシュア君対マックス君」


 お互いに中断に構える。ヨシュア君は、やや腰が高めで、僕は逆に落とす。ヨシュア君は、普通に歩くように、僕は摺り足で進む。と、ヨシュア君は、一気に攻撃を仕掛けてきた。前回慎重に攻めすぎて、先手をとられたと判断したのだろうか。だったら。


「錬身流奥義青龍!」



 ヨシュア君の打ち込みを、木刀で受けてそして巻き込みながら、肘を相手に当てる、そして腕を極めて投げる。さらに自分も飛んで膝を落とす。



「勝者マックス君!」





 第2試合は、ロゼリアさん対ランドール。注目の対決はランドールの勝利。さすがに強い。





「第3試合、ムヒタリアン君対マックス君」



 ムヒタリアン君は、構えるでもなくだらっと、右手に木刀を持って立っている。僕は中段に構えると、腰を少し落とす。



 その瞬間ムヒタリアン君が動いた。圧倒的なスピードで、間合いをつめ、ただ無造作に木刀を振るう。僕は間一髪で木刀を避ける。耳元で、空気を切り裂く音が響き、衝撃波が走り抜ける。まさに、力の暴力。身体能力に任せて、剣を振るう、まさに暴獣だ。そして、さらに剣術大会でなければ、魔力量もかなりのもののようだ、恐ろしい戦闘力だろう。



 僕は間一髪で避けつつ、衝撃波の方向に注意して、少しずつ攻撃を当てていく。一発でも当たれば終わりの神経を磨り減らすような戦い。そして、徐々に暴獣の勢いが弱くなっていく。戦い方からして、体力の消耗の激しく、いくら体力があっても足りなかったようだ。僕の攻撃が急所をとらえ始める。突然、ムヒタリアン君は倒れる。



「勝者マックス君!」



 よし、2勝目。





 続いての第4試合でロゼリアさんがヨシュア君を破り、第5試合でランドールがムヒタリアン君を倒す。続いては、





「第6試合。ロゼリアさん対マックス君」



 ロゼリアさんが、赤い長い髪を颯爽と靡かせて、試合場に登場する。いよいよか、大一番だな。



 そして、ロゼリアさんが大上段に構える。そして、



「剣王流奥義剣王斬!」



 と言って動かない。どうやら僕の攻撃を待っているようだ。それなら、剣を右手に持ち、足を縦に大きく開き、左足が前で、右足が後ろで。そして、後ろに体重をのせながら腰を落としていく。この時、剣の刃は上を向け。右足の膝をつき、踵は立てて、お尻をのせる。そして、左手を前に伸ばして、左足の横につく。そして、全身の力を全部集約して、前方に飛び出し、剣に気を集中させて、突く。



「錬身流奥義白虎!」


「イヤアアアーーー!」



 ロゼリアさんも裂帛の気合いをこめて、一瞬で間合いをつめ、中央でぶつかり合う。木刀と木刀が触れた瞬間、木刀は砕け散り、凄まじい衝撃波が周辺に広がる。そして、僕とロゼリアさんはお互い吹き飛び。僕は気を失った。









 目を覚ますと僕は救護室で寝かされていた。僕は起きると、救護室の魔術師の先生に御礼を言い、試合場に向かった。





 試合場では、ランドールとロゼリアさんが戦っている。どうやら、決勝戦のようだ。話を聞くと、ロゼリアさんは、あの後なんとか立ち上がり、僕は気を失ったままで、ロゼリアさんの勝利になり、その後も順調に勝利を積み上げ、決勝戦進出を果たしたようだ。僕とランドールの戦いは、僕の不戦敗。







 こうして、僕の最後の剣術大会が終わった。優勝はランドール、続いてロゼリアさんで、僕は3位。表彰台に初めて登る。赤銅のメダルを貰った僕に、2人が声をかけてくる。



「最後、戦ってみたかったです。マックス様がそれくらい強かったのか」


「えっ、ランドールには、勝てないよ。このくらいの成績が妥当じゃない?」


「そんなことないわ。わたしとの対決だって、引き分けみたいなものだったし」


「ありがとう、ロゼリアさん」

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