第36話 クリスマス休暇と花の三姉妹
「わたしが、リリアの叔母の、カタリナ=フォン=アルフォルスだ。よろしく」
「よろしくお願いいたします。マクシミリアン=フォン=ローデンブルクです」
「へー。良い男だね。リリアが惚れるはずだよ。あの娘は、人をみる目が確かだからね」
「えっ。はあ?」
「ハハハ、まあ、いいさ。マクシミリアン、これからもよろしく頼むよ」
騎士祭りが終わって冬学期が始まるが、あっという間にクリスマス休暇が迫ってくる。そんなある日僕は、リリアちゃんに呼び止められる。
「マックス先輩!」
「リリアちゃん、任務は休み?」
「はい、このまま、クリスマス休暇に突入出来そうです」
「そうなんだ。実習は、どうだった?」
「マックス先輩みたいに、死にかけたり、剣聖に会ったり、怪しい村を発見したりせず、ごく普通でしたよ」
「そうなんだ、良かったね。普通ってどんな感じだったの?」
「護衛任務では、2回戦いましたけど、弱かったです。他の変わった任務は、ホルス大公巡行のお手伝いですね」
「えっ、そんな事あったの?」
「はい、お母様に見つかって大変でした」
「あっ、ごめんね」
「いえ。大丈夫です。あっ、それで、クリスマス休暇なのですが、お姉ちゃんも、行くそうです。そして、リコリスも行きたいそうで、叔母が早めに連れて来てくれるそうですが、その時、マックス先輩にお会いしたいそうなんですが、よろしいですか?」
「もちろん、大丈夫だよ。叔母さんか」
「ありがとうございます。叔母は、残り少ない身内なので。良かったです」
「あの、ごめんね」
「いえ。そういう意味ではなく。アルフォルス本家に列する人と言う意味です」
リリアちゃん曰く、アルフォルス本家はもちろん、トゥルク神聖国の直系の家系で、女性ばかりの時は、婿養子をとるなどして、続いてきたそうだ。ちなみに、先代剣聖ランベルクさんは、叔父に当たるけど、分家の家系なんだそうだ。ややこしい。
そして、叔母さんは、直系の家系でリリアちゃん達のお母さんの妹さん。そして、いまだ未婚なので、アルフォルスを名乗っているそうだ。そして、天剣9振りの1人で、有名人。
約20年前、お祖父様との戦いで活躍した。雷帝戦争と呼ばれた戦争末期、圧倒的大軍の帝国軍を、その当時三剣であったランベルクと共に戦い、負けはしたが、獅子奮迅の働きをしたそうだ。確か、まだ十代であったようだ。
そして、その当時剣聖であったビルマルス=フォン=ダーレンバッハは、2人を褒め称え、ランベルクに剣聖を譲り、カタリナさんに花の剣姫という称号を授けたという。ちなみに、ビルマルスは、ビクターのお祖父さんだ。
クリスマス休暇前日、カタリナさんとリコリスちゃんがやってきた。そして、カタリナさんは、僕に声をかけてきたのだ。
「カタリナさんは、来ないんですか?」
「えっ、わたしが大公領に? う~ん。やめておくよ、変な疑い持たれるのも、あれだし」
「変な疑い?」
「アルフォルス家が、大公家に取り入っているとか? 追放処分受けている、ローズ達ならいいけど、わたしまで行くとね」
「わかりました」
「まあ、とにかく、ローズ達をよろしく」
「はい」
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こうして、大公領に向かう。僕、リリアちゃん、ローズ先輩、リコリスちゃんに、リグルド、ビクター、ランドールとハインリヒ。ジョスーにて、レオポルド、ジローと合流して、合計10人。アラン先生は、学校で引き継ぎ業務があり、ソムチャイさんは帝国放浪からまだ帰ってこない。
僕達は、シャーリンの駅に降り立つ。パウロスが迎えに出てくれていた。
「マックス様、お待ち申し上げておりました。ローズ殿、リリア殿、リコリス殿、大公家槍術指南役パウロスと申します。ようこそお出でくださいました」
「お出迎えありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく」
「お姉ちゃん、なんて挨拶しているんですか」
「ああ、悪い」
どうもローズ先輩の様子がおかしい。大丈夫かな?。
「お初にお目にかかります。わたくし、ローズ=フォン=アルフォルスです。じゃなくて、ございます。えーとなんだっけ?」
「お姉ちゃん、シルキリア帝国大公インディリア様におかれましては。だよ」
「あっ、えーと‥」
「ハハハ、堅苦しい挨拶は止めましょう。皆様ようこそお出でくださいました。マックスの祖父インディリアです。よろしく」
「あっ、はい。リリアの姉ローズです。よろしくお願いいたします」
「妹のリコリスです。よろしくお願いいたします」
「こうして、アルフォルス家の皆様がお越しくださるとは、嬉しい限りですな。ここもかつては、トゥルク神聖国の領土でしたからな」
お祖父様の時ではなく、シルキリア帝国が領土を拡大し始めた当初、シャーリンはトゥルク神聖国の西の都と呼ばれていた。それを約150年ほど前、攻略して帝国の拡大戦争が始まったそうだ。
「ふー、緊張した。だけど拍子抜けだよな。大公様は、そんなに恐くないし、剣すら取り上げられないし」
「そうですね。剣に関してはどうにかなるって思っていたのではないのかな。恐くないのは、マックス先輩のお祖父様だから」
「えっ、リリアどうにかなるって、わたし一応三剣なんだけど」
「お姉ちゃん、マキシ=フォルスト=ホルス」
「えっ、いた? 気付かなかった」
「がいたのかな~って」
「びっくりした~。脅かすなよリリア」
「でも、ローズ先輩も緊張するんですね」
「どういう意味だよマックス」
「鉄の乙女、ローズ先輩」
「処女って書いて、乙女って読むんだよね」
「リコリス! そんな変なことを誰が教えたんだ? 魔術師学校か?」
「カタリナ叔母様」
「はあ~」
窓の外では、レオポルド達が訓練しているようだ。
「おっ、マックス、あれ加わっても大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、殺さないでくださいね」
「任せろ。リリアはどうする?」
「わたしは、調理場にこもります、お母様に上達ぶりを見せたいので」
「へー、頑張ってな」
「はい、マックス先輩の胃袋をしっかり掴むのですから。男は胃袋で掴むだそうですよ」
「へー、そうなんだ」
「頑張りましょう。リコリス」
「おー」
僕は部屋にいったん戻ることにした。いや、気配がしたからなのだが、微かな。
部屋を開けると、カーテンが閉まっていて、部屋は暗くなっている。隙間から一条の光が入って、その先にひざまづく、人影が。
「ソムチャイ、何やってんの?」
「マックス様、さすがです。わたしが居ることを察知されるとは」
「まあね。それより、何か用あるの?」
「はい、支部の設置が終わりました。東西南北の要所の都市に、わたしの部下を配置し、情報収集できるように致しました」
「ソムチャイ、早いねやることが、さすがだね」
「はい、それで、一度マックス様にも食べて頂き、味もお褒めにあずかったと」
「えっ? 味?」
「はい、レイリンの騎士祭りのおり、わたしの部下ですが、屋台を出させて食べて頂いたと。」
気付かなかった! あの屋台か。
「うん、確かに美味しかった。本場の味だけど、少し辛味がマイルドで、とても美味しかったけど、支部って南椀料理店?」
「はい、皆さんも自然に入れるし、客が自然に情報をもたらしてもくれます」
「なるほどね」
「店の名前は、南椀料理アローイ。もうひとつ、店の候補があったのですが、家族や部下にまで、反対されまして」
ソムチャイが、顔を近づけてくる光に照らさせて、妙に光った顔が気持ち悪い。
「南椀エステ、エローイ」
僕は、おもいっきり睨む。
「冗談です、冗談」
この野郎。
クリスマスパーティーは、賑やかになった。ローズ先輩、リリアちゃん、リコリスちゃんが加わって一層華やかだ。
「これ、この料理食べてみて、リリアちゃんが作ったのよ」
「お母様、恥ずかしいです」
「大丈夫よ。美味しいから」
「うん、形は悪いが味は旨い」
「へー、リリアがこれをね~。美味しいな」
「まあまあ、マックスが婚約者を連れて来て、これでローデンブルク家は、安心ね。ヘムロックや、ヤコブはまだなの?」
「母さん、ほら、ホルス大公家の格式もあるし、なかなかね」
「あらっ、アルフォルス家は、ホルス大公家より、歴史のある名家よ」
「姉さん、マックスは、ほら運良くアルフォルス家のお嬢さん方と知り合ったから」
「たとえ知り合っても、見向きもしたくない人もいるわよね。ローズさん、リコリスちゃん」
「えっ?」
「お姉様、それはどういう意味ですか!?」
「どうしたの? 例え話よ」
お祖母様の発言から、始まった話は言い合いになっていった。
「あらあら、まあまあ」
お祖母様。あらあらじゃない。
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