第35話 ビルマイス先輩の研究
「みんな、僕の卒業研究なんだけど、協力してくれない。遺伝子の研究なんだ」
錬身流の道場に現れた、ビル先輩が僕達に研究への協力を要請する。断る理由はない。喜んで協力しよう。
「で、マックス。君は何者なんだ? 君は僕が研究しているデルフォルス素因そのものなんだ」
「デルフォルス素因?」
「ああ、えっと、現在採用されている魔法需要量が、騎士の強さの基準になると言う考え方が、言われているのは、剣聖アルフォルスがその絶大な魔力を持ち、他の騎士を圧倒していった。事から始まっているのは知っているよな」
「はい」
「そして、現在確かに多くの強い騎士は、多い魔力量を持ち、騎士として偉大な力を持っている。が、一部魔力量が少なく、騎士として最低ランクと呼ばれた騎士が絶大な力を持っているケースもある。それが、マスターゴーラン等なんだ」
「なるほど」
「そして、僕は騎士の遺伝子について研究して、魔力量の多さで強さが比例する騎士の遺伝子を、アルフォルス素因と呼んで。魔力量が少ないがとても強い騎士の遺伝子を、デルフォルス素因と名付けたんだ」
「はい」
「まあ、アルフォルス、デルフォルスって呼んでいるが、2人の存在はたかだか300年程のもので、それより、さらに昔からどちらかの素因を持つ騎士達が活躍していたんだけどね」
「昔からですか?」
「ああ、そうなんだ昔からなんだ。それは、ミレニアムから与えられた、能力そのものにそう言う要素があったのか、それとも、後天的に獲得したのかは、わからない。だけど、ミレニアムはその事を知って、僕と同じように遺伝子研究をしていたのは、確実だね。その研究を元に作られたのが、アルフォルスと、デルフォルスや、他の超人達だ」
「へー」
「そして、アルフォルスは子孫を作り、今まで以上に強大な力を持つ、家系が誕生した。ローズさんや、リリアちゃんも研究に協力してもらって、その遺伝子を解析したが、それは素晴らしいものだったよ。アルフォルス素因が溢れていたんだ。そして、今度は、デルフォルス素因の方だが、こちらは有名な家系はない。突然、その家に生まれ、無能の騎士を生んでしまったとなるが、後に素晴らしい力を発揮する。こちらは、マスターゴーランや、おそらくガイもそうだろう」
「まあ、そうですよね」
「そして、デルフォルス素因について調べたんだが、マスターゴーランも、ガイも、そして、マックス、君からも検出されたんだ。そして、マックス、君は何者だ? 君の遺伝子は、デルフォルス素因そのものだったんだ。魔力があるわけはない。魔法が全く効かず、強大な力を持つ純血の騎士。それが、僕の研究の結論なんだけど。どうだろう?」
「ビルマイス先輩、素晴らしい研究ですね。僕は、そうです。純血の騎士ですね。マキシ=フォルスト=ホルスそのものですよ。封印のピアスで、力を押さえ込んで自我を作っているんです」
「そうなんだ。凄いピアスだね。人格まで生み出すのか? ふーん」
「と、思っていたのですが、ピアスは、僕の力を押さえ、わずかな魔力を与えるだけなんです」
「えっ? えーと」
「まあ、僕はその強すぎるデルフォルス素因でしたっけ、が強すぎて殺戮衝動に溺れ、強い騎士を襲っては、自己満足で、殺していたんです。それをマキシのせいにして、ピアスを着けた時の人格はマックスで、関係ないよって思っていたみたいです」
「なるほど」
「でも、学校通って自分を押さえる事を覚えたり、友達作って交流する事を覚えたり、先輩達とも付き合っていくうちに、マックスは、マキシも僕の一部だよ。そして、マキシは、マックスも、僕の人格の一部なんだと認識して、僕は僕になったと」
「ややこしいけど、なんとなく理解したよ。そうか、マックスが、マキシか。うん。僕は来年研究所を卒業してDr.の資格をもらったら、2年ぐらい、騎士の国々をまわって、追加研究したら、マックス、君の配下にしてくれない。純血の騎士がどうなっていくのか、見てみたいんだ。リリアちゃんとの子作り含めてね。これでも、三剣の1人ローズさんと、剣術では、互角に戦えるし、少しは役にたつと思うよ」
「先輩、子作り発言は、やめてください」
「ああ、ごめん、ごめん」
「まあ、でも、Dr.資格を持った天才騎士なら大歓迎ですよ」
この天才は、頭にも、そして剣術含めた強さにもかかる。天才騎士Dr.ビルマイス。
「そう言えば、ガイとヨハンの遺伝子はどうだったんですか?」
「うん、ガイは、デルフォルス素因の塊だし、ヨハンもアルフォルス素因は凄かったね。後は、本人の努力と、導き次第って所かな」
2人の努力は凄まじいものがある。後は、導き次第? どうなっていくんだろう?
「ふーん、ビルさんって、そういう研究していたんすね」
僕とビル先輩、そしてジローで飲んでいると、僕の遺伝子の話になった。
「ああ、今度、ジローの遺伝子も調べさせてよ」
「いいすよ。そう言えば、俺らの国の方も遺伝子の研究進んでて、遺伝子研究していたやつの話っすけど、何でも、魔導騎士も確か、その超人の遺伝子を魔術師に注入して、何か、身体強化する的なこと言ってたな」
「それ、本当? だったら、強い騎士の遺伝子を注入したら、強くなるのか?」
「さあ? だけど、聞いただけっすから、話半分で聞いておいてくださいよ」
「ああ」
怖いな。マッドサイエンティスト誕生とかならないと、良いが。
ある日、ジョスーの屋敷にソムチャイ一行が、引っ越してきたと連絡があった。家臣、家族合わせて50人ほどだそうだ。レオポルド曰く、街に驚き、屋敷に驚き、自分達の家に驚き、給金に驚いていたそうだ。
申し付ける任務はと書かれていたので、帝国各地を回っていろいろ覚えてください。そして、適度に休みを取りつつと、注釈をつける。レオポルドの命令だと、休みなしで働かせそうだからな。休み大事。
「いいか! タイミングが重要だ。そばの声を聞くんだ。よし、今だ!」
アドルフ先輩の大声が調理場に響く。焼きそばにソースがかけられ、香ばしい香りが漂ってくる。
「アドルフ先生、声聞こえたような気がします」
「馬鹿かガイ。声を出すわけないだろ。焼きそばの表面の状態、出てくる湯気、そして、鉄板の表面の微かな変化、それを言ってるんだ」
「馬鹿だな~。ヨハン、そんなの僕に見極められるわけないだろ」
「ガイ貴様。エリーゼは、分かったよな?」
「えっ、わたしヨハン君の顔見てたから」
「あっ、僕は何となくわかりました」
「リグルドは、偉い。さすがマックス先輩の弟だ。で、タリンナはどうだった?」
「すみません、わたしは、声も聞こえなかったですけど、変化もわからなかったです」
「謝ることないよ、タリンナちゃん、感でやればうまくいくよ」
「ガイ、いい加減なことを言うな!」
「イテッ!」
うん、仲良くやっておりますね~。4年の秋学期も終わり。いよいよ騎士の祭り。錬身流チームは、アドルフ先輩が焼きチームを引っ張り、イシュケルが、加わり熱血指導をしている。そして、売り子チームは、レーレンさんが、引っ張っている。それぞれに、実習のなかった3年も加わっているが、僕は、たまに焼き手に加わったり、売り子になったり、しかし、基本的に戦力外扱いだ。
ぶらぶらと歩く、リリアちゃんもいないし、一人だ。さて、どうするか? 気配を探っていると、前方から、ドラグが近づいているようだ。僕は立ち止まって待つことにした。
「ドラグ! 何やってんの?」
「おお、マックス。いや、部活の屋台に居たんだけど、ナッツが熱血やってて、居づらくてさ。マックスは?」
「こっちも、同じ感じかな」
「そうなんだ。じゃあ、2人で、ゆっくり祭りまわる?」
「良いね」
こうして、ドラグと共に祭りをまわる。中央広場では、上半身裸で筋肉ムキムキのジョイが、戦っている。凄まじい熱気だ。肉体と肉体がぶつかり合い、汗が飛び散る。そして、観衆も、ほぼ男性。
ジョイが勝利をおさめ、声援に手を挙げて答える。僕達に気づくと、手を振ってきた。僕達も、手を振り返して、その場を離れた。
入り口に向かいつつ、いろいろな屋台を覗く。今までは気付かなかったが、南椀料理の屋台もあった。酸っぱ辛いスープと、海老トーストを買って分けながら食べる。南椀で食べたときより、辛味はマイルドで、食べやすかった。屋台のおじさんも、南椀出身で、旅の話で、少し盛り上がった。
入り口付近で、古書の販売している屋台にピノを見つけた。
「ピノ、一緒に回らない?」
「えっと、みんな、来ないから無理かな」
剣王流の屋台に向かうと、焼き台には相変わらずの先生が。えーと名前なんだっけ? 職人にしか見えない。売り子の中にロゼリアさんがいる。周りの後輩が少し迷惑そうに見える。
「マックス、ちょうど良かった。焼き鳥買っていきなさい」
「ロゼリアさん、久しぶり。じゃあ貰おうかな。えーと‥」
「とりあえず、2種類ずつ5本ね。毎度あり」
「あっ、うん」
その後、少し話したのだが、ロゼリアさんも、卒業の後の進路を決めたそうだ。メイリンさんと組んで傭兵をやるそうだ。
「わたしの性格じゃ、騎士団は無理だと思うの。で、ビューティー家も、後援してくれるって言うし、メイリンが、依頼は精査してくれるって言うから」
「そうなんだ。頑張ってね」
「マックスもね!」
騎士祭りの〆は、もちろんトーナメント。
「やっぱりリグルド強いな」
「弟だっけ?」
「うん」
「僕の弟も才能あって期待されているから、辛いよ」
「あれっ、そう言えば、ドラグの弟、この学校に入学するって言ってたね」
「うん、結局いろいろあって、ここの学校じゃなくて地元の学校だけどね。今2年だよ」
「そうなんだ」
リグルド無双が繰り広げられ、見事優勝して、騎士の祭りは閉幕した。
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