第32話 夏休み南椀への旅
「凄い屋敷だね~」
「うん、そして面白い構造だね」
「僕も実は始めて見たんだ。話では聞いていたけど、う~ん面白いね」
目の前には、坂を利用した、城塞件屋敷が建っている。ここはジョスー。計画した旅行の前に強行軍で行くよりジョスーで、宿泊してから余裕を持って出発しようと言うことになった。そして、だったら僕の家においでと。
ジョスー、僕の公爵領の中心都市だ。元々は、北はホウリンや、東方十ヵ国から、南は、南方五ヵ国に至る、大きな街道の小さな宿場町だったが、帝都からメーアに至る軌道列車の駅が出来たことで、急激に大きくなっていった。
街は、駅を中心に発展して行き、勝手に家を建てたり、商売を始めたり、宿泊施設が出来たり、その収拾がつかない状態だったのを、レオポルドと、ジローは区画整理を行い、大都市としての機能を持たせ、さらに、街の中の小さな丘を買い上げ。ジローが魔法で穴を掘って、丘全体を城塞にしたのだそうだ。
「若、お待ちしておりました。どうですか?
この城は?」
「うん、凄いね。レオポルドご苦労様。ありがとう。街も綺麗になってたし」
「オホンッ。あまり言うと増長するので、あれですが、ジローは優秀ですな。区画整理の案から、民への執り成し、行政整備。頭が下がります。わたしは、それを実行しただけです」
「ハハハ、凄いね。ジロー。でも、レオポルドの実行力ないと出来ないよ。ご苦労様」
僕達は、ジョスーの僕の屋敷で過ごし、旅行前日のわくわくな日々を過ごした。
「そう言えば、前に話していた、みんなで旅行する計画どうする?」
「僕は、予定空けてるし。大丈夫かな」
「僕も大丈夫だよ。なんかお祖父様達も出かけるみたいだから」
「ん? 大公巡行かな? マックス君も、行かなくて良いかな?」
「うん、大丈夫」
「なら、いいかな。ジョイ君はどうかな?」
「帰ってこいってうるさかったけど、丁度良いから、旅行行くよ。どこ行く?」
「う~ん、前回メーア行ったから、反対側?
今回長期で、行けそうだから、う~ん?」
「帝都は?」
「俺は嫌だな。しょっちゅう見てるし」
「じゃあ西域とか?」
「西域は、家帰る感じになっちゃうからちょっとな」
西域とは、西の魔神の国々との境界の方の国だ。ドラグの故郷シャミール王国やティメール法国、ウルバリア王国等がある。ただ、シャミール王国は良いが、ウルバリア王国や、ティメール法国は、シルキリア帝国と、あまり仲が良くない。僕や、ジョイは入国できるかもわからない。
「それに、ティメールや、ウルバリアは、僕、入国出来ないかも」
「あっそうか」
「じゃあ、その先の南方諸国はどうかな?。帝国とも仲良いし。安全かな」
南方諸国、帝国の従属国の南方五ヵ国より、さらに南にある。国々だ。帝国とは、揉めていない。そして、最近戦争も起こっていない。
「じゃあ、南方諸国に決まり?」
「おう」
こうして旅先は決まった。細かい旅程は話し合って詰めて行くことになった。
「南方諸国行くんすか? 良いですね。一時期南椀のバンワにいたことありますけど、良かったすよ。暑いけど」
「そうなんだ」
ある時、ビルマイス先輩や、ジローと飲んでいると、夏の旅行の話になって、ジローにちらっと聞いてみたのだ。南椀国、南方諸国最大の国で、バンワはその首都だ。
「南椀か~。行ってみたいな」
「じゃあ、行っちゃいます?」
「2人でか?」
「えっと、マックス、休みってとれるの?」
「僕の一存ですね」
「じゃあ?」
「ダメ」
「そんな~」
「僕達の案内としてなら良いかな?」
「本当?」
「一応、みんなに聞いてからだけど、確かあの辺て、騎士国共通語が通じにくいって聞いてますし。詳しい人いた方が安全だと思って」
「そうだね。よし、僕もお供させてもらおう」
皆に確認すると、その国に詳しい人や、強い先輩がいた方が心強いってことで、ビルマイス先輩と、ジローの同行が決定した。
「僕の考えだと、列車の駅のある、南椀国のバンワか、摩麗国のハイロンに最初に入った方がいいかな」
「なるほど、で、ピノは、どちらが良いと思う?」
「バンワにいたことある人一緒に行くなら、バンワかな。ちょっと長めに滞在して、暑さに慣れるのもいいし」
「だとすれば、それからのコースってこっち回り?」
「そうかな。バンワから、梵亜のシャレンここは、遺跡がいっぱいかな。そして、羅門のシャンビー、ここはお坊さんの托鉢で有名かな。で、また南椀に入って、南椀の古都ラムカーンだし。そして、最後の国の摩麗のピレイでお寺巡りして、最後にハイロンかな」
おお、地図上で見ると完璧なルート設定だ。
「移動だけで2週間かかるかな。だけど、2ヶ月楽しむし」
「おー!」
「じゃあ、ジロー、またバンワで」
「マックス、何で俺は2等寝台なんすか?」
「だってしょうがないだろ。ビルマイス先輩が、お金節約して、2等寝台乗るって言うんだから」
「それは、そうなんすけど」
「僕だって、今回は1等個室なんだ。贅沢言わない。それに、昔は3等車だったんだろ?」
「それは、そうっすけど」
大陸横断軌道列車、これには特等個室から、3等車まである。特等個室、これは、車両を2部屋に区切り、2つのベッドと4台の折り畳み簡易ベッドのついた個室で、寝ない時は、上の簡易ベッドを畳み、下のベッドを座席として使えるようになっている。
1等個室は、車両に8部屋あり、4名1室だ。4人以下で個室利用も出来れば、他のお客さんと同席もできる。今回は、4人で個室利用する。4台の折り畳み簡易ベッドのついた個室で、寝ない時は、上の簡易ベッドを畳み、下のベッドを座席として使える。
そして、2等寝台は、車両に12の仕切りがある。6人がけの座席で、夜になると、中段、上段の折り畳みベッドを開き寝るのだ。
さらに3等車は、短距離乗車用の座席で、ただ長距離の旅を3等車に乗る強者もいるのだそうだ。
列車の旅は3日ほどの旅で、国境を越えるごとに身分証明書の確認があったが、順調に進んだ。そして、列車は南椀国のバンワの駅に滑り込んだ。外を見るとプラットホームは、人で溢れていた。なんだ?
「兄さん、これ買わない? ルビーのネックレスだよ」
「これいかが? わたしが作った細工だよ」
「兄さん達、移動の馬車決まってる?」
「うちの馬車は安いよ」
凄い熱気であった。物売りが近づいて品物を買わせようとしたり、馬車の客引きが集まってくる。もちろん、スリ等もいるようだが、騎士のスピードと動体視力に一般人がどうこう出来る訳がない。ピノも、スリの手を華麗に捌く。
すると、ジローとビルマイス先輩もこちらに合流して、
「とりあえず、出口行きましょ」
という訳で、6人連れだって出口に向かう。そして、ジローは、周辺に止まっている馬車の御者に声をかける。何人かに声をかけると、こっちに戻って来て。
「こっちと、あの馬車に別れて乗るっすけど」
「じゃ、こっちのにドラグ達乗って、僕とビルマイス先輩、ジローはあっちに乗ろう」
「わかたっす。とりあえず、ホテルはどこっすか?」
「えーと、バンワエリントンホテルだね」
「えっ! あの高級ホテルチェーンのウェリントンすか?」
「いや、多分違う、エリントンホテル」
「はあ?」
こうして、南椀のバンワの旅が始まった。ホテルで休みつつ、体を熱さに慣らしていく。バンワでは、王の作ったお寺や、川の上に出来たマーケット等を舟に乗って観光する。
「すげ~。金ぴかだよ。お寺が」
「あっちは、寝転んだ仏像が金ぴかだって」
あそこに見える塔は真っ白だ、大理石かな?
見る物、見る物が珍しい。そして、食べ歩く、南椀の本番の料理の数々。
「この海老の入った、酸っぱ辛いスープ美味しいですよ」
「僕は、そろそろ辛いもの以外が食べたい」
「先輩、まだまだこれからだし」
「おっ、このチキンの乗ったご飯旨い」
「僕は、辛いの好きだな。元々西域も辛い料理多いし」
バンワを満喫すると、少し北の方にある旧バンワに行った。元々首都であったが、摩麗に攻め落とされ南に移転したのが、今のバンワだそうだ。
旧バンワの建物は破壊され、仏像も壊されたものが多かった。ただ、それが逆に趣を持たせ人気の観光地になっているらしい。細かく分かれた木の根に絡まる仏像の頭や、金ぴかでなく、古い石の仏像。ここ好きだな。そして、象に乗って観光する。
「凄い、揺れる。こわっ」
「えっと、なんか手で合図しているよ」
「もっと、真ん中に乗れってことか?」
ドラグと2人。象の鞍の上でくっつく。なんか御者さん笑っている。どうした? しかし、言葉がわからない。共通語を喋れる人は僅かで、ジローがいないと意思疎通が難しい。
ジローの乗った象が隣にきた。ジローに喋りかける御者さん。
「男同士で、くっついて乗って、仲良いですねって言ってるっすよ」
「えっ!」
10日間ほど滞在して、バンワを離れる、次は、梵亜国のシャレンだ。馬車をチャーターし、東に向かった。
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