第28話 任務復帰と騎士の祭り
「マックス、怪我はもう完全に大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だよ。明日から、任務復帰だよ」
「そう、良かった」
「本当に、良かったし。心配したし」
「ありがとう、ジョイ、ピノ」
そう言えば、ジョイとピノと、ゆっくり話すのも久しぶりな気がする。
「そう言えば、ジョイの方は、実務実習どう?」
「ハインリヒ君、優秀だから楽だぜ。俺にも魔導槍って言うのくれたし。あれがあれば、俺の能力でも、結構強い敵にも楽勝だね。ただ」
「ただ?」
「魔力切れると、ハインリヒの思いやりも、ただの重い槍になる」
「ん?」
「ハハハ」
「ジョイ君が、思いやりと重い槍をかけた駄洒落だし」
「やめてくれ、ピノ。冷静に解説しないで」
「ピノは、どう?」
「ランドール無双だし」
「そうなんだ」
「ただ、考えるの苦手だし」
「なるほど」
「おお、ハインリヒ。頼んでいた件どうだった?」
「浦田次郎ですね。いや、カナリヒナ王朝でしたっけ? かの国も馬鹿ですね。あれだけの人材を手離すとは」
「そんなに優秀?」
「はい、魔術師にもタイプがあって、基本的に騎士の国では、騎士をサポートするために、身体強化の魔法とか、探索魔法とか、攻撃力や、防御力をアップさせる補助魔法が得意な僕や、パナジウム様みたいなタイプが、重宝がられます」
「うん」
「そして、このタイプは、魔法操作も得意なので、魔導技術についても得意です」
「そうだね。完全に魔導鎧とか、魔導槍とか、ハインリヒの発明品もあるからね」
「はい。そして、次は、補助系の魔法も使えますが、回復魔法とか、状態異常解除系の魔法が得意なタイプです。これは、医者としても活躍していますね。Dr.メックス女史とかが、このタイプです」
「なるほど」
メイリンさんも、このタイプかな?
「そして、最後は、他の魔法も使えますが、攻撃魔法や防御魔法など、直接戦闘系が得意なタイプです。浦田次郎は、このタイプです」
「へー」
オウゼンさんも、このタイプだったのかな? 火炎魔法凄い威力だったし。
「ただ、他の魔法も高レベルで使えますし。魔導鎧の話も理解してくれて、アドバイスも貰っちゃいました。今度クリスマス休暇一緒に行くんですよね? 物凄く楽しみです」
「良かったね」
ジローさん、優秀みたいだな。良い人材を運良く獲得出来たようだ。
任務に復帰した。前回のことがあって、僕達には、出来るだけ安全な任務を復帰任務として、まわされたようだ。最初の時と同じ商人さんの、同じルートの護衛任務だった。そして、今回は、喧嘩の仲裁や、絡んできたヤクザの排除くらいで、何もない平和な任務だった。
そして、1ヶ月ぶりに、レイリンに帰ってくると、僕とビルマイス先輩は連れ立って、出かける。そして、一件の飲み屋に入る。
「よ。ビルマイス、マックス、こっちだこっち。先始めちゃってたよ」
「ジロー、お待たせ。何飲んでんの?」
「シュワシュワだよ」
「スパークリングワインか。いいね。僕もそれを貰おう」
「ビルマイス先輩、シュワシュワ好きですもんね。じゃあ、僕も。すみません、グラス2つお願いします」
「乾杯!」
僕の家臣になったジロー。今の仕事は僕の飲み相手。そして、ビルマイス先輩は、ジローの話をしたら、とても興味をもった。いろんな国の話聞きたいそうだ。僕もだけどね。
「カナリヒナ王朝は、魔術師の国々のだいたい真ん中辺りにあって、しかも、魔術師の国々の三大国のパルス聖導王朝とザルカンド朝廷に挟まれた、湾に浮かぶ島国なんすよ」
「へー」
「そして、歴史も古くて、パルス聖導王朝の次に古い国です。まあ、パルスも支配者の家系は変わっているから、魔術師の国々では、最古の国って言っても良い国なんすよね」
「へー」
そして、2つの大きな国に挟まれているからか。他国の侵略も受けた事はないそうだ。さらに、戦場になっていないから、2000年近く残る木で作られた建物があるそうだ。そして、
「カナリヒナ王朝の宮殿は金箔が貼られて金に輝いているんすよ」
「えー!」
びっくりだな。カナリヒナ王朝か行ってみたいな。
いつの間にか、ワイン好きの3人は、ワインボトルを次々に開けていた。盛り上がるカナリヒナ王朝の話、結局閉店時間まで飲んで解散した。
翌日調理場として錬身流が借りている部屋に顔を出す。すると、
「はっ!」
気合い一閃リリアちゃんによって、キャベツが見事に千切りになる。白の神剣によって。そして、ハルちゃんがボールに受け止める。
「リリアちゃん、剣でキャベツ切っちゃ駄目だよ」
「あっ、おはようございます。マックス先輩。大丈夫ですよ。ちゃんと消毒しましたから」
「いや、そういう問題じゃないような」
「それに、これお母様から教わった方法ですよ。包丁より、剣の方が上手く扱えるからと。マーガレット料理剣って言ってました」
ああ、そうなんだ。それじゃ、しょうがないか。でも、お母様も何て事を教えているんだ。まあ、いいや。僕も手伝いを。
「違う!もっと合わせる時は、豪快に!」
「すみません! アドルフ先輩! こうでしょうか」
「そうだ、やれば出来るじゃないか! いいか、3年は実習で忙しい。4年がいないのは、俺のせいだ、なんで、俺が2年に焼きそばの真髄を伝授する。ちゃんとついてこいよ!」
「はい!」
鉄板の前では、先生見習いのアドルフ先輩が、クリスに熱血指導している。キャベツ千切りにいそしむ、リリアちゃんとハルちゃん以外は、周辺に集まって、指導を見ている。
ヨハンは、壁に寄っ掛かって、それを眺めている。ひねくれてるな。そして、ボソッと呟く。
「くだらね」
「ヨハン! 貴様、錬身流の焼きそばを極めないと、一流の騎士に慣れないぞ!」
「アドルフ先輩、すみません!」
ヨハンが素直に謝って、列に加わる。
「錬身流ってこんなに熱血だったっけ?」
振り返ると、ビルマイス先輩が、ワインボトル片手に立っている。
「さあ?」
「まあ、いいや。ちょっと飲まない?」
「良いですね」
僕達は、部屋の隅に腰を下ろして、焼きそばの準備を眺めつつ、グラスを傾けた。
騎士の祭り本番も、ほとんど出番なく、ちょっと焼き手をやり。後は、リリアちゃんが、手の空いてる時は2人で、それ以外は1人で屋台を巡った。そして、最終日いよいよ新入生トーナメント当日、ぶらぶらしていると。珍しくヨハンが声をかけてきた。
「マックス先輩、これから騎士の新入生トーナメントなんですが、一手ご教示いただけませんか?」
こいつは、とことん精神ねじ曲がっているな。剣術オンリーで負けたから、騎士能力解放できる大会の練習で、僕を倒して、自分を満足させようとしているようだ。確かに、今やったら負けるな。よし。他に誰もいない。そして、今のヨハンには、理解すら出来ないだろう。僕は耳のピアスをそっと外した。
「わかった。じゃあちょっとだけだぞ」
「はい!」
ヨハンは、中断やや腰を落として、錬身流独特の構えをとる。僕も同じ構え。そして、
「ヤッ!」
気合いと共に、ヨハンが突っ込んでくる。早いが、無防備だ。だけど、僕は、剣を素早く木刀を下に置き、全力で土下座する。
「錬身流奥義玄武!」
周囲に物凄い砂煙と、衝撃波が走る。そして、大地に半径1m程の穴が開く。ヨハンも、衝撃波と、砂埃に立ち止まる。僕は、ヨハンに素早く近づき当て身を入れると、木刀を持った手を極め、投げる。
「グハッ!」
「はい、終わり。ヨハン、相手がどんな格好をしていても、相手がどのくらいの実力を持っているか、本能的にでも悟れないと死にますよ」
by剣聖クレスト。
「すみませんでした」
「まあ、でもトーナメントは余裕でしょ、頑張ってね」
僕は、落ち込むヨハンを残して立ち去った。そして、ぶらぶらと歩き錬身流の屋台に戻る。すると、リリアちゃんが、寄ってきた。
「マックス先輩、あまりヨハン君をいじめないでくださいね。悪い子じゃないんですから」
「へっ?」
リリアちゃん、能力者ですか?
まあ、トーナメントは、予想通りヨハンが優勝した。ガイも健闘したが、ヨハンに負けてベスト8。残念。エリーゼちゃんも結構強い女子の部、ベスト4に残った。
黄色い歓声に包まれた、舞台で、ヨハンが軽く手を上げる。すると、さらに歓声が増した。ほとんどアイドルコンサートだ。凄いな、ヨハン。
「イケメン死ね」
誰かの呟きが聞こえる。
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