第27話 退院祝いと浦田次郎
リリアちゃんが出ていって、一眠りしていると、人が入ってくる気配があった。アラン先生と、ロゼリアさん、そして、メイリンさんだ。
3人は近づいてくると、ベッドの横に立った。
「良かった。結構ひどい傷だったんだが、メッセンのお供のオウゼンが、回復魔法をかけてくれてな。手遅れになる前に助けられて良かった。そして、2人が怪我したのは僕の判断ミスだ。本当に申し訳ない」
「何、言ってるんですか、アラン先生。あれ以外の方法、ありました? アラン先生が、メッセンを引き付けて、僕達が全力で逃げる」
「そうか、そうだな」
今度は、メイリンさんが話出す。
「アラン先生が、先に2人を運んでいったので、わたしが、お子さんを届けに行きました。とても感謝されて、依頼料とは別に、謝礼を頂きました。アラン先生が、退院祝いで、盛大に飲もうとのことです」
そうか、良かった。親元に無事帰れたのは嬉しかっただろう。本当に良かった。
「そして、書類の事は、誰にもしゃべらないようにって、メッセンさんが、言ってました」
「まあ、そうなりますよね。了解しました」
あの書類結局何だったのだろうか?。子供と一緒に盗まれたものか? そうなると、ビューティー家の極秘資料とか? だったら、メッセンさん達は、ビューティー家に雇われて、資料を抹消に来たのか? だったらそんな資料を流出させた、ビューティー家の分家の主人は、抹殺されるのでは?
「それは、大丈夫と思います。わたしも、マックス君の影響で、深読みするくせがつきました。物事を深く考えて、事象を読む。とても、勉強になりました」
「えっ、あっ、うん」
「それで、マックス君の考えている事にはならないと思います。お祖母様は、とても怖い方ですけど、それと同時に身内であろうとも、人を信用していません。だから、大丈夫です」
「なるほど」
「なので、安心してゆっくり休んでください。では、お大事になさってください」
と言って、出ていった。そして、今度はロゼリアさんのようだ。なんだ、この儀式は?
「あの、ありがとう」
「いえ、こちらこそ、見捨てて逃げてしまって、申し訳ありません」
「それは違うわ。これだけ一緒にチームを組んでいれば、わかるわ。わたしにとどめささせないために、逃げたのでしょ。それが、最善の策だった。だから、ありがとう。わたしは、もう退院できるわ。早くマックスも、退院してきなさいよ。じゃあ、お大事に」
と言って、出ていった。最後はアラン先生だ。
「ゼルウィガーを殺したのは、マックス君ですね?」
「えっ、いや、それは違って、気絶した後」
「僕は、マックス君に初めて会った時、剣聖クレストと会った時のような恐怖を覚えました。僕は、自分の勘違いと思っていたのですが、あれを見て確信しました。マックス君は、マキシです」
アラン先生は、確信をもって、話しかけてくる。うーん、どうしよう? だけど、良い機会か。
「ばれてしまいましたか。だけど他の人には絶対に、秘密にしてください」
「わかりました」
「僕が卒業するまでは、学校で先生を続けても良いですが、卒業後は、僕の家臣になって下さい」
「えっ、それは、良いのですが、殺されるか、どこか遠くに行けと言われると思っていたので。ですが、僕は主人の命令とはいえ、一般人を虐殺した騎士失格の男」
「関係ありません。それに、主人の命令を無視したなら、別ですけど、守ってなら、その主人が悪いだけ。僕も狂剣の人形なんて言われていますし。お似合いじゃないですか?」
「畏まりました。絶対的な忠誠をもって使えさせていただきます」
「学校では、普通でお願いします」
「はっ!」
僕は、それから1週間程で退院の許可をもらった。その間にも、リリアちゃんに、ローズさん、ドラグ達、ランドール達、そして、アラン先生達、マスターゴーランに、部活の先輩達に後輩達がお見舞いに来て忙しかった。お見舞いに来てくれる位の知り合い?
仲間? 友達? がずいぶん増えたものだ。
「では、マックス退院おめでとう。乾杯!」
「乾杯!」
ここは、レイリンの街中にある。オープンテラスのある飲み屋だ。謝礼を使おうと、飲み屋の中では、比較的高級店に来た。
アラン先生は、最初ビールを一杯飲んだ後、ウイスキーをロックで、飲んでいる。ロゼリアさんは、ひたすらビール。そして、さっきから頻繁にトイレに立っている。メイリンさんは、最初、ビールを一杯飲んだ後は、お酒あまり強くないんです。と、言った後は、いろんな色のカクテルを飲んでいる。そして、左右にふらふら揺れている。僕は、ビールを飲んで、その後はワインを飲んでいる。料理に合わせて、白に赤に、スパークリングに、ロゼに。
下らない会話も挟みつつ長時間飲んだ。そして、左右に大きく揺れ始めたメイリンさんを連れて、ロゼリアさんが帰る。
「楽しかったわね。アラン先生も、ありがとうございました。じゃあ、帰ります。お休みなさい。ほらっ、メイリン帰るわよ」
「ふえ、ふぁらのへるふぉ」
「いいから、帰るの!」
と言って去っていった。そして、アラン先生も、立ち上がる。そして、
「さて、飲み過ぎないうちに、僕も帰るよ。マックスは、どうする?」
「もう少し飲んでいきます。まだ、飲み物も残ってますし」
「そうか、あまり遅くなるなよ」
「はい」
僕は、1人通りを眺めながら、開けたばかりのボトルワインをグラスに注ぎ飲む。すると、お店の客の1人から声をかけられた。
「お兄さん、1人で飲んでんの? もし良かったら、なんだけど、そのボトルのワインちょっとちょうだい。いや、厚かましいお願いなのは、重々承知なんだけど。仕事終わりの一杯は飲んだが、ちょっと物足りないが、懐が寂しい。と、言うわけで」
「あっ、良いですよ」
僕は、余っていたグラスに注ぐと、その男に渡した。
「えっ、あっ、本当に良いのか?」
「ええ、どうぞ」
「わりいな」
そう言いながら、男は、僕の前の椅子に腰をかける。少し薄汚れた黒いローブ、頭は黒い髪を短く借り上げ、おそらく、黄暖色の肌は日に焼け、赤黒く見える。そして、黒い目がこちらを見つめている。
「そう言えば、お兄さん名前なんて言うんだ。俺の名前は浦田次郎。こちら風に言えば、ジローウラタだ」
「ジローウラタ。さんですか。僕はマックスです。レイリン騎士学校の学生です」
「マックスか、俺はジローって呼んでくれ」
「ジローって、騎士の国々の出身じゃないですよね」
「おう、俺は、遠く魔術師の国の小国。カナリヒナ王朝の出身だ。まあ、魔術師学校卒業して、仕事を探したんだが、自分の思ったような仕事につけなくてな。実力よりも、家柄って言うんで、天涯孤独だし、思いきって旅立ったんだよ」
「へー」
何か引き付けられる、不思議な人だ。
ジローさんは、国を出ると大陸横断列車の通っている国に向かい、持ち金で行ける所までの切符を買って列車に乗ったそうだ。そして、列車を降りると仕事を探して働いて、お金が貯まると切符を買って列車に乗り、また降りてと、繰り返して。とうとう、帝都を過ぎて、東の端のメーアまで辿り着いたんだそうだ。
そして、メーアで仕事してお金を貯めて思い立ってレイリンに来たそうだ。古都だって聞いたからだそうだ。
凄い。そして、いろんな話が出てきそうだ。そして、自分で言っていたな。実力はあると。面白い人材ゲット。
「ジローさんは、これからどうするんですか?」
「うーん、そうだな。騎士の国の方が魔術師の就職はしやすそうだけど、今度は、身元の保証がなくてね。なかなか、就職出来ないけど、仕事しながら、地道に探すさ」
「だったら、就職先は、僕の家臣。ただし、僕の飲み仲間兼任で、また、いろんな話聞かせて下さい」
「えっ、マックスの家臣? 良いのか?」
「はい、で、これ手付金です」
僕は持っていた全額をテーブルに置く。
「とりあえず、クリスマス休暇まで、それで間に合わせて下さい。後は家を借りて、ローブを買い替えてそれなりの服装を整えて下さいね。足りなかったら、言って下さい」
「ああ。と言うか、これで数年は暮らせる額だけど」
「そうなんですか?」
「ハハハ、お坊ちゃんよろしく頼む。そうか、マックスが主か。うん、出会いに感謝だ。で、仕事はどうする?。何をすれば良い?」
「住む場所決まったら、レイリン騎士学校に連絡ください。そしたら、ハインリヒって魔術師が行くので、会ってください」
「ああ、もう他に魔術師の家臣がいるのか。すげえな。それで」
「後は、僕と会って飲む時に、いろんな国の話を教えて下さい」
「ハハハ、わかった。お安いご用だ」
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