第26話 本格的な戦闘

 メッセン=フォン=シュヴァリエ、見た目好青年。ヨハン君を大人にした感じだ。だが目つきは違う。お兄さんは、涼しげな目をしている。



「我々は、レイリン騎士学校の教師、アランです。そして、後ろにいるのは、わたしの生徒です」



「そうですか。我々は、この洞窟にいた人間に用があったのですが、あなた方が倒してくれたようだ。感謝します。そして、後ろにいるのは、わたしのパートナーのゼルウィガーと魔術師のオウゼンです」


「何で、名乗るんですか。必要ないでしょう。メッセンさん」


「それは、申し訳ありませんでした。ゼルウィガーさん」


「ちっ」



 どうやら、態度を見ていると、メッセンさんと、オウゼンさんは仲間のようだが、ゼルウィガーさんは、立場が違うようだ。






「ところで、中で書類見なかったですか?」


「積んであった。紙の束かしら?」


「ロゼリアさん!」


 僕は叫ぶがもう遅い。


「えっ?」


「そうですか。それは残念です」


 そう言いながら、メッセンは白銅色の神剣を抜く。そして、


「ビューティー家の人間を殺す訳には行きませんからね」


 メッセンの体が揺らぐ、そして、一瞬でメイリンさんの前に移動して、当て身を当て気絶させる。子供も同じく。そして、アラン先生の方を向く。アラン先生も灰色の神剣と、もう一本の剣を抜き構える。相変わらずの2刀流だ。




「僕の相手は、あなたのようですね」


「くっ」


「じゃあ、わたしの相手は2人の学生さんですね」


「ロゼリア、マックス、全力で逃げろ!」


「はい!」




 ロゼリアさんと、僕は全力で森への道へ向かう。そして、僕は、ゼルウィガーに向け、信号弾を投げつける。派手な火花と煙があがる。


「この!」



 ほんの数秒だったが、隙が出来て通り抜け、森に続く道に入り走る。僕達は、全力で駆けるが、少しずつ差を詰められ、剣が迫る。僕達は、戦いつつ逃げる。しかし、ゼルウィガーの力は、僕達の力を上回っていた。徐々に手傷が増えてくる。



 立ち止まって、両側から攻撃を加えるが、ロゼリアさんの斬撃を受け止めると同時に、僕を蹴り飛ばし、ロゼリアさんに一撃加える。なんとか受け止めるが、勢いで、剣が弾かれ、ゼルウィガーの剣が、ロゼリアさんの肩に食い込む。


「きゃっ!」



 僕は、ロゼリアさんを見捨てるように背後に全力で走る。すると、ゼルウィガーは、一瞬ロゼリアさんと、僕を見比べると、僕を追いかけてきた。後方で、ロゼリアさんが倒れる。



 よし、ロゼリアさんから引き離そう。全力で走るが、僕の傷も結構深く、多い。目の前が一瞬霞む。駄目だ、駄目だ。僕は、速度をあげるが、前方にゼルウィガーが回り込み行く手を塞ぐ。


「逃がさないぞ。小僧。女の子を見捨てて逃げるのは、かなり面白いですけどね」



 と、言いながら、剣を構える。僕は、走りながら外したピアスを、ポケットにしまう。さて、殺りますか。だけど、結構血が出ているな。目が霞む。あまり、長い時間は戦えない。いや、一撃位しか不可能だろう。




 ゼルウィガーは、僕に少しずつ近づいてくる。僕は深呼吸をすると、大きく飛び上がった。


「錬身流奥義朱雀!」



 大きく飛び上がった僕が、16体に分身する。そして、剣を上段に構え、扇の要に向かうように集束していく。ゼルウィガーに向かって16本の剣が振り下ろされる。慌てて防ごうと剣を振るうが、16倍の衝撃が襲い。聖剣は、大きく弾かれ後方の道に突き刺さり、ゼルウィガーの体は細切れの肉片になった。



 僕は、剣を鞘に収める。しかし、限界だ。なんとかピアスをつけたが、意識を失い、その場に倒れる。







「なかなかやりますね」


「それは、こっちの台詞だ」



 かれこれ10分くらい戦っている。メッセン、さすがに強い。全力で、戦っているが、どの程度通用しているのか、わからない。



 再び、2刀を構え、全力で打ち込む、1刀が流され、誘導され、一撃が叩き込まれるが、それをもう1刀でなんとか防ぎ、戻る。繰り返しだ。お互い隙がなく、奥義の繰り出しようもない。さて、どうするか?。



「メッセン様」



 魔術師のオウゼンが、メッセンに声をかける。


「どうした?」


「ゼルウィガー様が、死んだようです」


 オウゼンが、何か魔道具を見ながら話す。


「そうか」


 何? ゼルウィガー、ロゼリアとマックスを追っていった男か。死んだ? なんとか、ロゼリアか、マックスだけでも、逃げ切ればとは思っていたが、死んだ? 何が起こったのだろうか?



 すると、メッセンが剣を鞘に収める。そして、



「ゼルウィガーさんが、死んだようです。こちらとしては、これ以上戦う意味はないのですが、いかがでしょうか?」


「なっ、見逃すということか?」


「はい。資料の中身は見ていないのでしょう?」


「ああ、目的は、誘拐された子供を助けることだけだからな」


「わかりました。オウゼン、洞窟の内部を焼いて下さい」


「はっ、畏まりました」



 オウゼンは、洞窟の前に行くと、両手をかざす。そして、大きい炎の塊が、洞窟の中に吸い込まれていき、猛烈な勢いで内部を焼く。



「さて、これで良いでしょう。ビューティー家のメイリンさんも、お返しします」


「ああ」



 オウゼンが回復魔法をかけると、メイリンは目を覚まし、そして周囲を見回す。


「アラン先生~」


「大丈夫です。すべて解決しました」



 メイリンは立ち上がって、脇に立つ。そして、子供に回復魔法をかけて起こすと、背負う。



「では、行きましょうか。聖剣だけでも回収しないといけないので」


 メッセンが歩きだし、オウゼンも続く。そして、僕達も後を追った。





 しばらく、道を歩くと倒れている人影が見えた。ロゼリアだ。僕とメイリンは慌てて駆け寄る。首に手を当てる。良かった。生きている。


「メイリン、急いで回復魔法をかけてください」


「はい」


 ロゼリアは、大丈夫そうだ。マックスは、どこだ?。



「まだ奥か?」



 メッセンと、オウゼンは奥に向かう。僕も後を追いつつ、


「メイリン、ロゼリアを頼む。マックスを探してくる。すぐに帰ってくる」


「はい、アラン先生」





 僕達は、道をさらに進む。そして、また、倒れている人影を発見する。そして、強烈な血の匂いを感じる。僕は、慌ててマックスに駆け寄ると、首に手を当てる。良かった生きている。しかし、脈が弱い。急いで運ばないと。振り返ると、メッセンが道に刺さった聖剣を引き抜きながら歩いてくる。



「生きているのか?」


「ああ」


「オウゼン、回復魔法をかけてやれ」


「はい、畏まりました」



 オウゼンが、マックスに回復魔法をかける、傷はふさがっていく。後はマックスの体力次第か。



「と、すると、この肉片がゼルウィガーか? 誰がやった? クレストか? マキシか? それともこの少年…は無いか」



 この時、僕は1つの事に気がついた。マキシ。そうか、マキシか。





 メッセンは、興味を失ったようで、マックスを治したオウゼンと共に、聖剣を持って去っていった。僕は、マックスを背負うと、メイリンと、ロゼリアの方に向かった。








 目を開けると、リリアちゃんの顔が目の前にあった。うわっ、キスしそうな距離だ。


「良かった。マックス先輩、3日間も寝ていたんですよ」


 3日間も寝ていたのか。良かった、僕は助かったのか。皆は、大丈夫だったのかな?



「皆は?」


「皆さん、大丈夫でしたよ。ロゼリアさんだけは、入院されましたけど、もう退院できるそうです」


「そうなんだ。リリアちゃん、授業は?」


「ちょっとお休みです。わたし学年トップだから大丈夫です」


「ごめんね。リリアちゃん、心配かけた」


「いえ、マックス先輩、起きたので、安心しました。じゃあ、授業戻りますね」



 と言って、リリアちゃんは、しわしわで、、よれよれの制服を直しつつ出て行った。ずっと、看病してくれたのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る