第25話 兄と弟

 新生錬身流が部活ガイダンスで、演武する。3年生3人、2年生5人。4年生はいないが、メンバーは揃ってきた。結構反応も良かった。楽しみだ。




 しばらくして、任務になった。定番の長期の護衛任務、約1ヶ月。今度は、東方であり特に何もなく終了して帰ってきた。さて、錬身流は、新入生何人入ったかな? そう言えば、今日部活の時間だ。まだやってるかな?





 僕は道場の扉を開ける。すると、イシュケルが床に大の字に倒れ、それを見下ろしてスラッとした、イケメンの少年が立っている。髪は金髪のショート、肌は白く、美しい青い目。野獣のような目だ。あの目は、一時期の僕の目だ。殺戮衝動ではないけど、強さを追い求める、野獣の目。



「このレベルで、主将? 本当に強くなれるんですか? これで」


「ヨハン言い過ぎだ!」


「だったら、次はあんたが相手してくれるのか? クリス先輩!」


「くっ、それは」



 おっと、凄い怖そうな新入生が入ったようだ。僕は顔を引っ込めようとするが、



「ちょうど良い。マックスが来たぞ。今度は、マックスが相手だ。ヨハン、次も勝てるか?」



 マスターゴーラン、何か楽しそうだ。ビルマイス先輩も、いるが。さすがにムッとしている。



「マックス先輩? あのチャラチャラした先輩ですか? まともに剣術やってるようには見えませんよ」


「ヨハン君! わたしが相手です! 2度と立てないようにしてあげます!」



 リリアちゃんが、激怒した。僕は、ちょっとイラッとしていたが、逆に冷静になった。


「まあまあ、リリアちゃん。僕をご指名みたいですから、僕に任せて。ね」


「はい!」



 僕は木刀を手に取り構える。錬身流特有の腰をやや落とした中段の構え。ヨハンは、下段の構えだ。お互いに動かない。先に焦れたのは、ヨハンだった。



 素早い動きで、近づくと、突いてくる。僕は顔の右横に木刀を置くと突いてくる木刀に当て擦らせる。そして、懐に飛び込む。気水流のやや弱点。密着されると流せない。そして、そのまま、やや強引に押し込むと、ヨハンが、後方に倒れる。そこを、蹴りで追撃をかけるが避けられる。



「気水流奥義明鏡止水!」



 エピジュメルも使う、気水流の奥義。自然体で、円の動きを意識して、剣の打ち込みを防ぐ絶対防御。足を前後に大きく開くと同時に、重心をやや後方に乗せ、剣を利き手で持つと、両腕を斜め下方に開いて構える。



 僕は、無防備に近づくと、ヨハンの前足をおもいっきり蹴る。そう、明鏡止水は、あくまで剣で攻撃される事しか想定していないのだ。エピジュメルなんかは、すでに改良型を研究している。転ぶヨハン。そこに飛んで膝を落とす。


「ゴキッ!」


 凄い音がして、ヨハンが白目を剥く。新入生が恐怖で、震えている。騎士能力も合わせたら、ヨハン君の方が強かっただろうね。剣術?だけだからの勝利だけど。





「さて、気絶しているイシュケルとヨハンは置いといて、僕は副将のマックスです。よろしく。で、新入生の2人名前教えて」



「はい、ガイです。よろしくお願いいたします。僕も騎士能力の低い最低ランクの騎士なので、頑張って強くなりたいです」


「わたしは、エリーゼです。よろしくお願いいたします」


「それで、あの気絶しているのが、ヨハン=フォン=シュヴァリエだ」


「えっ、ビルマイス先輩、あのシュヴァリエ家の人間ですか?」


「ああ、そのシュヴァリエ家だ」



 三名家、気水流のシュヴァリエ家、剣王流のアルフォンス家、そして、雷鳴流のダーレンバッハ家だ。



「三名家のうち、2家も揃っちゃったね」


「そうなんですよね。迷惑な話です」


 リリアちゃんが、ぼやく。


「何で、気水流に入らなかったんだ?」


「理由は、わたしとあまり変わらないと思います。わたしは、別にお姉ちゃんに勝とうとかではないですけど」





 話によると、天才と呼ばれる兄に勝ちたいそうだ。元々は、お父さんがシュヴァリエ家当主だったが、三剣をマスターゴーランに敗れて奪われ、さらに息子で、天才と呼ばれたお兄さんをまわりはもてはやし。



 怒ったお父さんがお兄さんと、当主をかけた戦いを挑み、お父さんは負けた。そして、屋敷から追い出され、今は、道場を開き生計を立てているそうで、ヨハンは、見返したいそうだ。なんか生ぬるい決意だが、本人は本気のようだ。



 意識を取り戻すと、マスターゴーランに土下座して、


「本気で、強くなりたいんです。父を倒し三剣になった、三剣のマスターゴーランに教われば、兄を超えられると思うのです。よろしくお願いいたします」



 うーん、変わった新入生が入ってきたものだ。

 まあ、変わっていると言えばガイ君もだけど。騎士能力が低いのに、かなりの身体能力を持つそうだ。これって純血の騎士に近い血なんじゃないのか?。技では、経験上ヨハンには勝てず、ぼこぼこにされているのを見かけるがめげない。入学時の学年トップと学年最下位。



 そして、ガイは、どうやら、僕を目標にしたようで、どうして、剣術で強くなれたのか、普段から毎日やってることを聞かれたので、毎日素振りはしているというと。次の練習日までに手と足の皮が剥けるまで、やったようだ。まあ、地道にね。






「次の任務は、誘拐された子供を探す依頼だ。マックスの噂を聞いてご指名依頼だ」


「えっ、僕の能力、そんなに有名になっているんですか?」



 アラン先生は、チラッとメイリンさんを見る。


「いや、蛇の道はヘビだ。ビューティー家の分家からの依頼だ」


「ふーん、メイリンが教えたわけではないのね?」


「わたし、話してません!」


「こら、仲間を疑わない」


「ごめんなさい」


「という訳で、マックス頼んだぞ」


「はい!」






「お願いいたします。息子を息子を見つけて下さい」


「わかりました。ですが詳しい状況を教えて下さい」


「わかりました」



 数日前、屋敷に数名の使用人と、息子だけ残して、遠出の仕事をこなして帰ると、使用人が殺されていて、息子の姿はなかった。屋敷をあら探しして、金品は奪っているが、隠し金庫を見つけることは出来なかったそうで、ほとんど家にとって、ダメージはなかったそうだ。



 そして、人を使って息子を探すと同時に身代金を用意して連絡を待ったが、一向に連絡がこないそうだ。そのため、周辺にある。山賊や、盗賊、野盗、その他の犯罪組織に連絡したが、ビューティー家に逆らう人はいないと、返事があったそうだ。



「我々もいろいろな場所を探しました。しかし、どうしても見つからないのです。その時、あなた方の噂を聞きました。凄い探索能力を持ったチームがいると、なので、わたしは、藁をもつかむ思いで、依頼させて頂いたのです。よろしくお願いいたします。メイリン様」


「はあ」



 どうやら、メイリンさんの探索能力が優れていると思っているようだ。だったら、その方が良い。






 僕達は町に出て、念入りに探す、地下室や、隠し部屋があるかもしれない。しかし、特に怪しい場所も見つからなかった。



「次は、隠れ家のありそうな周辺の森や、山の中を探索していくぞ」


「でも、周辺の犯罪組織の居場所って、把握しているんじゃないんですか?」


「盗みがあまりに粗雑だ、新しい組織や独立した組織があるかもしれないからな」





 こうして、山の中、森の中細かく数日かけて、探索していく。そして、町からかなり離れた森の奥に、子供の気配を見つける。



「いました。この先の洞窟の中です。他に人が、5人程いますね。入り口に1人、入って直ぐの、部屋のような所に2人、そして、奥の方に2人。子供は、真ん中辺りの部屋に1人います」



「よし、5人だったら、大丈夫だろう。騎士はいるか?」


「いませんね」


「だったら、殺さずに気絶させるだけにするぞ。では、突入だ」


「メイリン、一応身体強化を」


「はい」







 僕達は、隠れながら洞窟の入り口に近づくと、見張りを倒し、中に突入する。そして、カードゲームをしている。2人を倒す。そして、アラン先生とメイリンさんは、子供を助け。僕と、ロゼリアさんは、奥に行き、一応残りの2人を気絶させる。奥の部屋には、書類が積まれていた。



「何かしら、この紙の束」


「さあ?」



 と、僕は洞窟に向かってくる気配を察する。2人、いや、3人だ。



「誰か近づいてくる。先生と合流しよう」


「わかったわ」





「アラン先生、誰か近づいてきます。騎士2人と、魔術師です」


「誰だ。敵か? とりあえず、入り口から出よう。戦いになるかもしれないから、注意していくぞ」


「はい!」






 洞窟の外に出る。すると、3人の男が立っている。そのうちの青年が進み出る。そして、


「わたしの名は、メッセン=フォン=シュヴァリエです。あなた方は?」



 シュヴァリエ? これが噂に聞く、天才。ヨハンのお兄さんか。

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