第23話 剣聖クレストの黒い噂

 また、1週間程の休みがあり、そして、任務待ちに入る。最近チームの連携も良くなって、任務にも、慣れてきた気がする。



 ドラグ達にもたまに会える。4人揃ってという機会はめったにないが、休みが重なった時や、待機中に寮で、一緒に食事をしたりした。この日は、ジョイは任務中。



「皆、任務どうかな?」


「僕のところは、順調だね。ヨシュア君は良い人だし、ほぼ護衛任務で、襲われてないし」


「それは、良いかな。そして、もしかして、僕の真似かな? だし」


「違うよ。たまたま、そう言う言い回しになっただけだし。で、マックスは?」


「僕のところは…」



 この前の森の中の村の話をする。



「なんか、怖い村だし」


「だね。近づかないようにしよう」


「で、ピノは?」


「ランドール君、スパルタだし。まあ、先生よりも強いから、先生も大変だし」



 ランドールは、ピノを鍛えようとしているらしい。任務事態は大変ではないようだ。


「まあ、引き続き頑張ろうね」


「だね」


「だし」







「今度の任務は、再び長期の護衛だ。気を引き閉めていこう。特に今回は、北の国々を回るそうだ、前回のこともあるから、より一層気をつけて」


「はい!」



 今回は、帝国北部と、帝国の北方従属国を回る行商の護衛のようだ。最近、良く北に行くな。そして、比較的危険な北への任務は、僕達が任務を的確にこなして、評価が上がっているかららしい。





「よし、荷を下ろすぞ!」


 荷主の声が響く。最も北方従属国のうち東側にあるサルディニア王国の王都に入った。前も来たことあるから、見知った街だ。街中は、比較的安全なので、僕達もある程度行動の自由が与えられた。昼間は2チームに別れ、交代で一応商人さんの周囲を見回る。





 そして、同じチームになったロゼリアさんと、昼食を食べに出かける。



「マックス、わたしこれ嫌いなのあげるから、それちょうだい」


「マッシュポテトと、ソーセージ交換ってわりに合わない気がするけど、まあ、いいや」



 僕の皿からソーセージが2本消え、山盛りのマッシュポテトが置かれる。



「すいません! ソーセージのグリル追加でお願いします!」


「追加で頼むの? お金持ちは違うわね」


「マッシュポテトに対して、ソーセージが少なくてものたりなかったからね。よかったら、1本あげるよ」


「ありがとう、遠慮なく頂くわ」





 マッシュポテトを食べつつ、ソーセージのグリルを食べていると、隣のテーブルの話が聞こえてくる。



「聞いたか? 剣聖様の話」


「ああ、知ってるぜ。あれだろ、奥さん亡くして、子供連れてどっかに失踪したって話だろ?」


「違うよ。失踪したのは本当だけど、その後の話だ」


「その後の話?」


「ああ、なんかいろいろな場所に現れて、辻斬りしているっていう噂だ」


「辻斬り! 馬鹿言うな。剣聖様が辻斬りするわけないだろ」


 すると、他のテーブルの人も話に参戦してきた。


「そうそう、辻斬りはしてないですよ。だけど、強い騎士と戦って、剣を奪っているって話ですよ」


「それも間違いですよ。何でも飲んだくれて、喧嘩うって殴り倒されたって話ですよ」




 えっ、剣聖クレストってあの剣聖クレストだよね。奥さん亡くなられたのか。堕ちた剣聖見たくないな。どうしちゃったんだろ?



「剣聖って、あの剣聖よね?」


「たぶんね」


「ふーん、次の剣聖は誰かしら? ローズ様になってほしいけど」


「まだ早いんじゃないその話」







 僕達は、いろいろな都市を回っていく。そして、剣聖クレストの噂話をいろいろ聞く。しかし、最初聞いた話と多少の違いはあれど差はない噂話だった。そして、僕達は行商の最後の場所である、帝国最北の街に入った。



 夜、街に入ってキャラバンにくっついて宿に向かう。そして宿で荷下ろしが始まる。目の前には、オープンテラスの飲み屋があった。そして、その1つのテーブルから、下品な笑い声が響く。見ると、1人の長髪の大柄な男の周りを、複数の女性が取り囲んで飲んでいる。



 かなりの長身で、黒い髪に黒い目、そして黄暖色の肌、体格はがっちりとしているが、筋肥大しておらず引き締まっている。って、あれ剣聖クレストだよね? もう一度確認して、失礼ながら、気配を探る。すると、クレストがこちらを振り返る。



「どうしたマックス?」


「あの、あそこにいる男性」


「何あれ。下品な男ね」


「いや、かなり強いぞ、あの男。誰なんだ?」


「剣聖クレストですよ」


「えっ!」



 僕が近づこうとするより早く、がらの悪い男達が周囲を取り囲んだ。



「兄ちゃん、羽振りが良いね。俺達にも、奢ってよ。何だったら、財布と女の子だけ置いて帰っても良いよ」


 下卑たセリフと下卑た笑い声が響く。



「おや、何か虫の鳴き声がしたようですが。まあ、気にしないで続けましょう」


「おっ! 俺達が虫だって言うのか。ちょっと表へ出ろ」


「しょうがないですね。皆さん少し待っていて下さいね」


 と言って、立ち上がる、がたいの良い男達よりさらに10cm以上大きい。囲んでいた男達は、一瞬躊躇した後、外に出て暗い路地に消えていった。そして、すぐにクレストが出てくる。男達が出てくる気配はない。そして、お店の人に、お金を渡して、


「ごめんね。路地裏にゴミあるから片付けておいて」


 そして、元の席に戻る。僕達は、クレストの方に向かう。そして、



「お久しぶりです。剣聖クレスト様。マックスです。マックス=フォン=ローデンブルクです」


「これは、これは、マックス様。その節はお世話になりました。で、そちらの御仁達は?」


「失礼しました。レイリン騎士学校の教師をされている、アランチェス先生と、同級生のロゼリアさんと、メイリンさんです」


「はじめまして、剣聖なんてやってるクレストです」


「は、はじめまして、アランチェスです」


「はじめまして、ロゼリアです。本当に剣聖なの? 強そうに見えないわ」


「ロゼリアさん。クレスト様に失礼ですよ」


「ごめんなさい」


「メイリン=ビューティーです。はじめまして。よろしくお願いいたします」



 すると、クレストさんは真面目な顔をして、


「赤毛のお嬢さん、相手がどんな格好をしていても、相手がどのくらいの実力を持っているか、本能的にでも悟れないと死にますよ」


「現にそこにいる先生は、僕の強さを性格に悟っているようだ。先生、今日は私は酔っている。明日にでも、挨拶に伺いますよ」


「えっ? あっ、はい」


「では、失礼」







 そして、翌朝。僕達の前に本当に剣聖クレストが現れた。完全武装で。そして、


「アランチェス先生。確か一般人を惨殺した下朗の騎士。僕が直々に成敗してくれますよ」


「仕方ありません。あの事は自分の罪。ただ、今は子供達の先生です。全力で手向かいさせて頂きます」


「先生!」


 僕達が動こうとすると体が金縛りのように動かなくなる。


「そちらの若い騎士さん達は大人しく見ていて下さい」


「魔術師さんは、自由にどうぞ。アレリア」


 すると、アレリアさんがクレストに強化魔法をかける。そして、メイリンさんもアラン先生に強化魔法をかける。





 2人は向かい合う。すると、アラン先生が動いた。一瞬で間合いを詰めると、斬りかかる。クレストは、何でもないように受け止める。そして、アラン先生のもう1刀の剣も振るわれる。すると、クレストが、力を込め、アラン先生を大きくはね飛ばす。そして、追撃をかける。アラン先生は、なんとか下がりながら剣を捌いていく。そして、アラン先生は、大きく飛び退くと



「雷鳴流奥義陽炎乱舞!」



 アラン先生が12体程に別れ、クレストに斬り込む。すると、


「こうかな?」



 クレストも12体に別れる。


「なっ!」



 12体のアラン先生と12体のクレストが斬り結び。そして、動きが止まり1人ずつに戻る。クレストの金色の神剣をアラン先生は、2本の剣を交差して受け止めている。さらに力が加わる。すると、



「キィーーーン!」



 甲高い金属音がして、アラン先生の剣が折れる。金色の神剣が振り抜かれる。


「ドサッ!」



アラン先生が倒れる。動けるようになった僕達が駆け寄る。そして、



「ああ、大した怪我じゃないと思う。そして後で謝っておいてくれ。さっきのセリフ本心じゃない。後、これを渡しておいてくれ」



 そこには、灰色の神剣があった。



「アランチェスさんは、今から天剣9振りの1人だ」

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