第22話 怪しい気配

 そして、旅が終わりに近づいた時、僕の探索範囲に、3人程の人が全力で走ってきた。基本、行商の護衛任務は襲われることは少ない。



 商人は危ない所には行かないし、野盗や、山賊、盗賊と呼ばれている人達もいるが、実入りの少ない行商を襲うことは少なく、たまに、町や村、商家を襲うこともあるが、そういうのは討伐対象になるそうだ。



 そのため、自分たちの縄張りを通る時に通行料をとるくらいのやつらが多く、たまに、商人が通行料の支払いを渋って、護衛との戦いに発展することはあるそうだ。



 しかし、誰かが走ってくる。警戒しても損はない。


「アラン先生、誰かが近づいてきます」


「どっちの方? 距離は? 人数は?」


「左前方です。距離は2Km程です。人数は、3名です」


「わかった。メイリン魔法を!」


「はい!」


「僕とロゼリア、マックスは、やや前方に出て、待ち受けるぞ」


「はい!」



 そして、2分くらいで前方に現れた。相手はスピードを落とさず突っ込んでくる。そして、おそらく傭兵崩れだろう、騎士が突っ込んでくる。



「ロゼリアは左端を、マックスは、真ん中を。メイリンは、キャラバン全体に防御を」


「はい!」


 僕達は、それぞれが、それぞれの突撃を受け止める。衝撃波が、キャラバンの方に向かう。防御魔法で防ぐ。





 しかし、そんなに強い相手ではなかった。アラン先生は、一刀の元に斬り倒し、ロゼリアさんも、最初の一撃を弾き返すと、圧倒し、追いつめていった。僕も、最初の一撃を流しつつ、崩れたところを、相手の懐に潜りこみ、当て身を当てつつ、腕を極め相手を投げる。そして、剣を首に当て落とす。血が吹き出す。



「ご苦労様。しかし、こいつら何だったんだろう?」


「お金に困って自暴自棄になってとかですかね?」


「そんなのどうでもいいわ。わたし達は、仕事をすればいいのよ」


「そうですね」




 このようにして、初任務は終わった。任務終わって1週間の休みが与えられた。軽く訓練しつつ、部活にも顔を出す。イシュケル、レーレンランさんは、任務中だった。





「アドルフ先輩、ありがとうございます」


「おっ、マックスお疲れ。練習は卒業するまで、俺とハーランに任せておけ。3年生いないの、俺達のせいでもあるしな。卒業までは、主将もやるよ。ビルマイス先輩も協力してくれるし」


「すみません、よろしくお願いいたします」



 部活も出れる時には出る、やっぱり楽しい。そして、後輩達は、かわいい。







 その後、短期間の商人護衛任務をこなす。今回は、何事もなく終わり、短期間の休みをもらい。そして、待機の時を過ごし、新たな任務を言い渡される。



「今回の任務は護衛じゃなくて、探索任務だ。ちょっと遠いが、北部帝国従属国のサルディニア王国のとある森の中に、村が出来ているので、探って欲しいってことだ」


「それだったら、領主に訴えれば良いんじゃない?」


「周辺の村の人間が、領主に訴えたら、問題ないって、返事だったらしい」


「と言うことは、最低でも領主が関わっているってことですよね?」


「ああ、だけど不安だから、お金出しあって、調べてくれってことらしい」


「わかりました」







 こうして、僕達は馬で、北へ向かった。4日後、サルディニアの王都に入った。



「さて、問題の村だが、ここから1日程南下した所だ。だから、その手前にある町に泊まって、昼間、村のある森を通過して南へ抜ける」


「はい」


「そして、運が良ければ、森の村で昼食をとるなどして探りを入れる。その後、森の南にある町に滞在して、任務をしている風を装う。そして、再び森の村を通って、森の北の町に向かう。そこまでは、一連の流れで行う。そこから、追加調査が必要であれば行っていく」


「はい」


「森の村が、犯罪組織とかだった場合、襲われる可能性もある。充分注意して行動してください。マックスの探索能力が、大いに役立つと、思うから、頼んだぞ」


「はい!」



 よし、注意して探索しよう。最悪の場合まで、一応想定していこう。



 翌朝出発する。今日は、森の北の町までだ。昼過ぎには到着して、宿に入る。そして、一応町を探索する。僕は部屋の中から、町の内部の気配を探る。特に、気配を探ることができる人は、いないようだ。そこで、薄めていた探索能力を少し濃くして、能力の強い者がいないか探る。



「これが、マックスいわくの、探索能力?

なんか、ぞわぞわするわ」


「ああ、僕も索敵は目に頼っていたが、凄いものだな。これはもう一種の特殊能力だな」


「凄いですよね。わたしの魔力探査だと、魔術師には、バレてしまいますし。便利です」


「いや、僕のも同じく気配探るのに優れている人間にはバレてしまいますよ。濃度薄めたやつは、バレないと思いますけど」



 この町には、特に怪しい人物はいなかった。と言うことは、本当に森の村だけなのだろうか?





 翌朝、町を出発する。森の村までは、お昼前には到着して、雰囲気見てお昼を食べられるか。聞く予定だ。しばらくして、森に入り進む。特に気配を感じない。だが、逆におかしい。近くに村があるなら、通行人や、狩りをする人や、木こりがいてもよさそうなものなのだが。




 そして、森の村まで、3km程になった時、僕の探索範囲が触れる。それは、とても禍々しく、粘着物のように重く淀んだ気配であった。気配は強者のそれであったが、とても禍々しい。おそらくこの中心に、住む世界の違う関わってはいけない、とてつもなく強い人間がいる。僕は初めて恐怖を感じた。



 馬の歩みを止めた、僕に皆が不思議そうな表情をする。



「どうした、マックス?」


「この先に、とんでもなく強くて、禍々しい気配がします」


「えっ!」


「わかった。禍々しい気配か。関わるのは危険だな。しかし、突然引き返したら、変だ。監視塔があって、望遠鏡で、監視している可能性もある。このまま、注意して進むぞ」


「はい」


「村で食事はしない、あくまで談笑しつつ自然に通過する。マックスは、探っていて、気付かれてはいないか?」


「はい、それは大丈夫です」


「では、探索継続して、危ない時は全力で逃げる。じゃ、あまりここで立ち止まっていても、怪しまれるから進むぞ」


「はい!」





 僕達は、自然な感じを装って進む。そして、森の村の入り口にいた、人の良さそうなご夫婦に挨拶して、さらに馬の歩みを進めた。禍々しい気配は、僕達が村にある程度近づくと綺麗に消えた。いたはずの場所に人の気配はあるが。



 僕達は、森の中を進み、そして、森の外に出た。







「申し上げます。森の中の道を近づいてくる者がいます。人数は4人」


「わかった。引き続き探れ」


「はっ」


 俺は気配を絶つ。誰だ。最近では、周囲の町の人間も恐れて近づかないというのに。







「申し上げます。近づいてくる者は、レイリン騎士学校の学生と先生と思われます。先生は、アランチェス」


「何、アランチェス? なかなかの人間が来たようだな。しかし、学生もか? と言うことは、任務の途中か?」


「ダークネス様、アランチェスとは、良い機会ではありませんか、なかなかの強さと聞きます。配下にいかがですか?」


「ふん。強いだけの騎士などいらないよ。主人の命令だからといって、一般人を大量殺戮した騎士。さらに、その行為を攻められた主人が、責任を押しつけて、追放処分を下したのを、素直に聞く愚か者。まあ、その主人は直後怒った民衆の反乱で、すでにこの世にはいないがね」


「なるほど。ですが素直に命令に従う人間なら、不便は無いかと」


「愚直でも良いが、馬鹿はいらない」







 無事に南の町にたどり着くと。


「ごく普通の村人に見えたけど?」


「いや、入り口にいた老夫婦だが、普通の人ではないな。良く訓練された動きだったし、危ない奴ら特有の匂いがした」


「禍々しい気配は途中で完全に消えちゃいましたけど。アラン先生の直感凄いですね」


「ああ、戦場ではそう言う匂いをいかに敏感に感じれるかが、生き残る鍵だからね。よし、これで任務は終了にしよう。危険過ぎる。学校に帰って素直に報告だ。後は、校長がなんとかするだろう」


「はい。しかし、禍々しい気配って、誰だったのでしょう?」


「わからない。だが、禍々しいと聞くと、ダークネスとか」


 最近名を聞くようになった、流れ者の騎士の名をアラン先生があげる。そして、チラッとメイリンの方を見る。


「わたしの祖母とかですね」


「後は、マキシだっけ? ほら、えーと狂剣の人形」


 ロゼリアさん、それは、ハズレ。


「まあ、真相はわからないけど、危険な村だね。近づかないことしか、注意できないよ」


「はい」


「じゃあ、学校へ、帰ろう。そろそろ春休みも終わりだけど、少しは休めるだろう」


「はい!」

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