第15話 夏合宿と錬身流奥義白虎

 レイリンに戻ってくると、この時期はまだ結構暑いようだ。三方を山に囲まれている影響かな? 荷物をまとめ、合宿に出発する準備を整える。



 場所は、前回と同じく山向こうの合宿所だ。ここよりは、だいぶ涼しいそうだ。



 今回の合宿は、結構長く2週間もある。夏休みで鈍った身体を鍛え直す意味合いもあるが、新入生のガイダンスに向けての準備期間でもあるようだ。



「前回の新入生ガイダンス、新入生側から見た印象どうだった?」


 主将である。アドルフ先輩が、僕達に聞いてくる。


「マスターゴーランの登場はインパクトありましたね。そして、僕みたいな、騎士能力の低い人間にとって、魅力的な話でした」


「うん、うん」


 マスターゴーランが、満足そうに頷く。


「ただ、インパクト強すぎて、女の子は見に来ないかな?」


 珍しく、レーレンランさんが発言する。そうだよね。女の子は自分だけだもんね。


「そして、マスターゴーラン登場した後の演武の印象も薄かったです」


 イシュケルがとどめをさした。



「う~ん、じゃあどうするか?」


「マスターゴーランは、やっぱり開祖って強みはあるから、いるんじゃね」


「ああ、ただ、話は短めで、後は、妹にしゃべってもらう、方向で」


「なるほど、良いね。で、演武だけど」



 先輩達が話し合い、まとめていく。演武ね。唯一の女子は、技上手くないし、難しい問題だよね。そう言えば、リリアちゃん、錬身流に入ってくれないかな? って、ローズ先輩剣王流で、師範やるようだし、リリアちゃんの家系、剣王流直系だし、無理か。



「先輩、錬身流の女性の先輩で、学校に残っている先輩いないんですか?」


「う~ん、いるけど、合宿出てくるほど熱心な人いないから、協力してもらう気なら、無理だね」


 と、ビルマイス先輩。なるほど、合宿出てこないということは、そういう事なのか。



「まあ、演武の事は、練習していきながら、良い案あるか、考えていこう」


「はい!」





 こうして、春合宿のように、朝から夕方までのみっちりとした練習が始まった。そして、たまに息抜きと、練習を兼ねて鬼ごっこをしたり。練習は4日やって、休み、そして4日やって休み、そして最後4日練習と。間に2日ほど休みがあって、皆で出かけたりもした。



 休みのある日、マスターゴーランに連れられて渓流釣りにやってきた。擬似餌を投げて魚の近くに落として、虫だと思わせて釣るのだそうだ。難しい。気配をちょっと探っただけで、魚は逃げる。かなり、探る力を薄くして、広げ、投げる。しかし、いっこうに食い付かない。やめた!



 マスターゴーランと、タキリス先輩が上手く、釣った分を分けてもらって河原で焼いて食べる。美味しかった。今度は、釣りも頑張ろう。




 そして、合宿も残り僅かになり、ガイダンスの演武の練習になった。結局飾ることなく普段やっている。防具つけての掛かり稽古を見せることにした。実際に、打ち込むので、迫力あるし。3年生は、ビルマイス先輩も加わっての多人数の掛かり稽古を、僕達は1対1の掛かり稽古を。そして、レーレンランさんは、その解説をすることになった。




「このように、私達錬身流では、防具をつけて、実際打ち込むことにより、より実践的な練習をしています。また、皆さんも見てわかるように、剣で打ち合うだけでなく、流れの中で、投げ技や、当て身等も行い。より戦闘に近い経験をできます。新入生の皆さんも、錬身流を学んで、より高みを目指しましょう。以上錬身流でした」


「オッケー、いいね。レーレンランちゃんも、しゃべり良いよ! これで、新入生、いっぱい入ってくれるかな?」



 結構良いんじゃないかな? うん。







 最終日の午後の練習が始まった。今日は、最初から外で練習するようだ。



 マスターゴーランが、皆の前に立つ。


「では、合宿最終日の練習を始める。3年生にとっては、最後の合宿になるかもしれない合宿なので、毎年恒例だが、錬身流の奥義の練習をしようと思う」


「はい!」


「今年は、錬身流奥義白虎だ。一言で言うと、一撃必殺の突き技だ。では、実践するので、ちゃんと見ておくように」



 マスターゴーランは、大岩の前20mほどで木刀を構える。そして、


「錬身流奥義白虎!」



 剣を右手に持ち、足を縦に大きく開き、左足が前で、右足が後ろで。そして、後ろに体重をのせながら腰を落としていく。この時、剣の刃は上を向いている。右足の膝をつき、踵は立てて、お尻をのせる。そして、左手を前に伸ばして、左足の横につく。そして、全身の力を全部集約して、前方に飛び出し、剣に気を集中させて、突く。



 目の前にあった、大岩が砕けて飛び散る。



「どうだ、これが錬身流奥義白虎だ」


「凄い!」


 皆が茫然としている。僕も圧倒される、凄い威力だ。ただ、これだけの大きな隙ができるタイミングって、戦闘中にできるかな?



 だけど、凄い技だ少し練習してみるか。



「では、奥義の練習するから、1年生は、自主練習だ。では、解散!」





 イシュケルは、見学するようだ。僕とレーレンランさんは、道を戻る、そして、レーレンランさんは、宿の方に戻る道に入る。


「じゃあね。私寝るね」



 と言って、去っていった。僕は、逆に人気のない奥の方に向かい。持ってきた木刀を構える。さっきの技、錬身流奥義白虎を真似てみる。




 剣を右手に持ち、足を縦に大きく開き、左足が前で、右足が後ろで。そして、後ろに体重をのせながら腰を落としていく。この時、剣の刃は上を向いている。右足の膝をつき、踵は立てて、お尻をのせる。そして、左手を前に伸ばして、左足の横につく。そして、全身の力を全部集約して、前方に飛び出し、剣に気を集中させて、突く。



 何にも無い空間でやったのだが、勢いがあり過ぎて、前方にあった、木に木刀が突き刺さった! しまった、抜けるかな? 木刀は、完全に木に突き刺さって、反対に突き抜け、そして、反対側は大きく穴が開いていた。



 うん、木刀は諦めよう。予備に買ってあるし、大丈夫だろう。そして、一回しかやっていないのに、全身が痛い。これは、徐々に練習していこう。





 僕が、白虎の練習をして戻る途中、マスターゴーランとビルマイス先輩に出会った。2人も、3年生の奥義習得練習を終え帰る途中のようだ。



「マックスどうしたんだ?」


 僕が変な歩き方で歩いていると、ビルマイス先輩が声をかけてきた。


「いえ、技の練習したら、全身痛くなって」


「全身痛くなる技ってどんな技だよ」


「そうなんですが。その…」


「ああ、マックス、白虎の練習していたのか?」


「えっ? えーと」


「気にするな。身体が出来てない状態で、白虎やると、身体が痛くなるだけだ。すぐに治る」


「そうだったんですか。すみません」


「そうか、マックスは、玄武に白虎も使えるのか。そうだな。来年、再来年で、ちゃんと朱雀と青龍を教えてやるからな。そして、最後は…」


「えっ、何ですか?」


「いや、途中でやめたら気になりますよ!」


「ハハハハハハ! その姿、ヴェルドを思いですな」


「ヴェルド先輩ですか。怖かったですね」


「自分にも、他人にも厳しかったからな。影で努力して、強くなった男だ。ヴェルド=フォン=ヴァルド確か、ヴァルド王国の王子だったな? ビルマイス」


「はい」



 そうか、あの錬身流の傭兵の正体は、ヴェルド先輩か。どんな人だろうか?






 帝国歴345年9月2日レイリン騎士学校1年生終了。

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