第9話 クリスマス休暇とマキシ
屋敷の外、草原に移動する。僕と少し離れた場所には、レオポルドが、ビクターが、エピジュメルが、パウロスが立っている。ランドールや、リグルドは、まだ無理だと諌められて、少し離れた場所で見守っている。
「じゃ、ハインリヒ頼んだよ。おかしいと思ったら、すぐに、封印の魔方陣を展開してくれ」
「はい、畏まりました」
ハインリヒは、本当の魔法の天才だ。この若さで十二賢者の一人だ。ハインリヒの封印のおかげで、封印のピアスをはずしても、大公屋敷で、意識を保って戦えたのだ。まあ、本当の力は出せないけど。
僕は、封印のピアスを外す。
僕の心を、純血の騎士の意志が、黒い黒い怨念のように、僕の心を覆う。殺す、殺す、殺す。僕の心を支配する。そして、視界が狭まる。
「駄目だよ。殺しちゃ」
「誰だ?」
「マックスだよ」
「疑似人格の分際で、何を言っているんだ」
「疑似人格とは、酷いな。君と僕は一緒じゃないか」
「うるさい」
「うーん、まあいいや。でも、騎士学校で習ったこと、皆に見せてあげようよ」
「習ったこと?」
「うん、錬身流の技だよ」
「錬身流の技……。わかった。見せてやろう」
僕は、目を開いた。回りが良く見えるようになった。レオポルドが、ビクターが、エピジュメルが、パウロスが見える。そして、
「行くぞ!」
皆が、凄いスピードで突っ込んでくる。
「錬身流奥義玄武!」
僕は、凄い勢いで土下座する。すると、砂埃が巻き上がり、衝撃波が周辺を凪ぎ払う。突っ込んできていた、皆が躊躇する。僕は、膝行でビクターに近付くと、抜き手で腹を叩き、剣を持った手を極め捻りながら投げる。そして、自分も一緒に飛んで、膝を落とす。
「ぐはっ!」
まずは1人。さすがに、一瞬躊躇した他の皆が、砂埃を避けるように回り込んで来ているようだ。前から、パウロス、後ろからレオポルドだ。
僕は、パウロスの方に全力で向かう。
「はっ!」
槍を高速で回転させながら、連続突きをしてくる。かわしつつ、槍を払い、懐に飛び込むと、腰を落としつつ体を捻り、肘をパウロスの腹に叩き込み、両腕を取って、腰を上げつつ迫っていたレオポルドの方に投げる。そして、レオポルドの視界をパウロスが塞いだ瞬間。
「陽炎乱舞!」
僕は16体に分かれると、パウロスとレオポルドを叩きのめす。よし、後一人。興奮状態になってきたようだ。また、視界が狭まる。
そして、エピジュメルの方に向かう。
「気水流奥義、明鏡止水」
エピジュメルは、絶対的防御技を展開した。僕は、高速で移動して、そのままエピジュメルの前の足を蹴る。崩れる絶対防御。足も、折れたようだ。よし、とどめだ。
と、力が弱まるのを感じる。視界も広がった。足元を見ると、ハインリヒの魔方陣が広がっている。僕は、慌ててピアスをする。
「ごめん、エピジュメル。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。しかし、強い。手も足も出ないとは、まさにこの事。気水流奥義明鏡止水にこのような破り方があるとは、恐れ入りました。しかも、意思をある程度コントロールされている」
「いや、まだまだだよ」
見ると、ハインリヒが回復魔法をかけて復活させた皆が集まってくる。ビクターが、レオポルドが、パウロスが。
「やれやれ、剣術指南役が4人も集まって勝負にならないとは。このレオポルド含めて、再修行しないとですね。これでは、若の騎士団、幻夢騎士団失格ですな」
「えっ、兄様、騎士団作ったのですか、僕も入れてください」
「俺も入りたいです!」
「まあ、当然僕は入ってますよね?」
リグルドが、ランドールが、ハインリヒが入団希望らしい。
「ああ、良いよね?。レオポルド」
「はい、若が宜しければ」
「じゃ、入団と」
「で、今、幻夢騎士団って誰がいるの?」
「はい、わたくし、エピジュメル、パウロス、パナジウム、Dr.メックス女史、ビクター、ポルビッチ、そして、リグルド様、ランドール、ハインリヒです。今のところ10名ですね」
「そうか、ありがとう。レオポルド、全員の軍服作って。僕も入れて11名分ね」
「はっ、畏まりました」
こうして、最初の騎士団メンバーが出来た。まあ、今の所大公家の資金で雇われているのだが。
と、上から、白いものが降りてきた。手を差し出して受け止めると、溶けて小さな水滴になった。
「雪か」
騎士学校の方では降らないが、この辺りでは、たまに降ることもある。今年は、ホワイトクリスマスかな?
数日が過ぎ、お父様、お母様、そして叔父様達も揃い。クリスマスの食事会が開かれた。メンバーは、お祖父様、お祖母様、お父様、お母様、僕。そして、叔父である、ヴィシュタリア、叔母のアデニウム。従兄弟達の長男ヤコブ、次男ヘムロック、長女のカルミアだ。
従兄弟達は、ヤコブが僕より3歳上で、ヘムロックが同じ歳、カルミアが2歳年下だ。特に悪いやつらでもないし、普通に付き合っている。ヤコブも、ヘムロックも騎士の力を持つが、それほど強くない。帝都の騎士学校に通っている。
テーブルの上には、大公屋敷の料理人達が腕によりをかけた料理が並ぶ。冷たい前菜から、始まり、温かい前菜、スープ、魚料理に、口直しのシャーベット、肉料理、そして、デザートまで。実に豪勢だ。
そして、お酒は、スパークリングワインを少しずつ飲んでいる。お酒は成人からという法律があるわけではないが、18歳の成人を迎えて飲み始める人が多いが、お祝いとかなら、16歳頃から飲む人も多い。
「お父様、大公の位はどうされるおつもりですか?」
「ヴィシュタリア、お前は、帝国大将軍で、ミュラーズは、帝国宰相だ。必要あるまい」
「ですが、大公領は、一国に値する軍事力を持ちます。この先、お父様に何かあってからでは…」
「ヴィシュタリア! わしを殺したいのか!」
「そうではなく、もしもの場合に」
「ならば、ホルス大公家の後継ぎは、マキシ=フォルスト=ホルスだ。文句あるまい」
「わかりました。それなら」
全くくだらない。また、叔母様に何か言われたのだろうか?
すると、予想通り、叔母様が口をはさみ、お母様が激怒して、喧嘩になりそうだ。全く。
僕は立ち上がると、トイレへ行くと言って、少し中座することにした。
そして、廊下に出て隣の部屋に入る。そこには、レオポルド達が食事をしている。レオポルド一家、Dr.メックス女史、パナジウムと娘、エピジュメル一家、パウロス、ランドール、ハインリヒ、そして、リグルドとビクターだ。結構賑やかだ。レオポルドが、立ち上がる。
「若、クリスマスパーティー我々まで、お招き頂きありがとうございます」
他の皆も口々に感謝の言葉を述べる。
「いや、別に大したことないよ。どっちみち、僕がお金出しているわけではないし、皆で食べた方が楽しいし。ね、リグルド」
「はい、とっても楽しいです。兄様ありがとうございます」
こっちの方が楽しそうだな。窓から外を見ると、うっすらと雪が積もっている。
クリスマスを過ぎ、新年になると騎士学校に帰る準備を始める。そして、お父様、お母様が帝都に帰るタイミングに合わせて、屋敷を出発する。
駅まで、レオポルドが見送りに来てくれた。
「では、若、気をつけて行って下さい」
「では、行ってくる。次は夏だな」
「はい、畏まりました」
帝都に到着すると、列車を乗り換え
「マックス、気をつけて生活するのですよ」
「はい、お母様」
「マックス、気をつけて行けよ。ランドール、ハインリヒもよろしくな」
「はい、畏まりました」
一路、騎士学校へ向かった。
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