第10話 初めての合宿と鬼ごっこ

 学校に戻ってくると、授業が始まり、部活も再開する。騎士学校の日常に戻った。実技の時間は、体力作りから、より現実的な剣術や、格闘術になっていき、部活も、いろいろな技を覚えていくことが多くなったが。






「そう言えば、ピノ。クリスマス休暇はどうだった?」


「やっぱり、遠かったし、まあ温かくて良かったけど」


「へー」


 ピノの住む南方はこの時期でも結構暖かいらしい。そして、乾季と言って、雨が降らないから、快適らしい。



「5日もかけて帰って、疲れて2日くらい寝てたし、クリスマスやって、すぐ帰ってきた感じだし」


「そうだったんだ。暖かい地域のクリスマスか。面白いな。で、ドラグは?」


「僕のところは逆に西の山中だから、雪が降っていて、寒かったね。で、親がね。暴走して、騎士学校でどのくらい強くなったか、見てやるって、ぼっこぼっこにされたよ。最悪なクリスマスだった」


「大変だったね。時間かけて帰ったのにね」


「それに、弟も、この学校通うみたいでさ。まあ、再来年……。じゃないか、来年か。は~」


「えっと、ジョイは?」


「うん、帰って、親戚中つれ回されて、自慢されて、友達にあった。以上」


「えっと、忙しかったね」


「うん、だから帰りたくなかったんだ」


「なるほど」








「少しずつ暖かくなってきたね」


「ああ。で、もうすぐ冬学期の期末テストだけどね」


「うん、そうかな。皆は、その後の休みどうするかな?」


「そうか、春休みか。僕は、錬身流の春休みがあって、その後だから、微妙な日程だな?

どうしよう?」


「だったら、皆で合宿終わってから、旅行するし」


「旅行? どこへ?」


「それは、皆で決めるし」


「なるほど、良いかもね。旅」





 その後、図書館に集まって、4人で旅の本を見ながら、議論を重ねた。遠くなくて、見所があって、美味しい料理が食べれる所。4年間で、一回位は遠くに旅してみようって、話になったりしたが。



 貿易都市メーアの本を皆で見ていると、ローズ先輩が通りかかった、そして、



「何、マックス、メーア行くの?」


「お疲れ様です。ローズ先輩。いえ、旅行する候補の1つがメーアでして」


 その瞬間、ローズ先輩の顔がニターと、気持ち悪い笑みを浮かべる。



「ふーん、メーアねえ。メーアには、リリアがいるよ」


「えっ!」


「リリア、推薦で合格決まったし、予備校も春休みになるし、案内してくれるんじゃない」


 ローズ先輩の、ニタニタ笑いが止まらない。僕の頭の中で、マキシの声が響く。決まりだな。



「えっと、ローズ先輩。お久しぶりです。リリアさんってどなたですか?」


 ドラグが、余計なことを聞く。


「うん? ああ、リリアは、わたしの妹で、マックスの思い人だよ」


「うん、だったら決まりだし。メーアだし」


「だね」


「おう」



 こうして、旅行先は、メーアに決まった。旅行の交通手段と、宿泊先は、ピノが調べてくれるそうだ。


「まかせろだし」







 期末テストが終わって、春休みに突入そして、初めての錬身流の合宿に行くことになった。朝から、夕方まで、みっちり練習するそうだ。そして、合宿に参加するメンバーは実に寂しい人数だ。1月中旬に3年生が、実務実習を終えると、少しして、幹部の交代がされ、主将にアドルフ先輩が、副将にハーラン先輩が、そして、会計にタキリス先輩が就任した。そして、僕達1年も、イシュケルが、主務に。僕が副務となった。



 そして、4年生は、引退したのだが、ビルマイス先輩は、騎士学校の研究機関に残り、Dr.資格を取るそうで、比較的時間に自由がきくそうで参加するのだそうだ。他の先輩は、就職活動や、里帰りして不参加だそうだ。



 と、言うわけで参加人数はマスターゴーラン加えて8人。場所は、レイリンの背後にある山を越えた先にある合宿所だ。




 合宿の1日は、朝起きたら、山の中をランニング。朝食を食べて、少し休んだら、午前の練習。みっちりと、膝行、受け身、そして、足捌き、素振りの練習をしたら、技の練習をして、防具をつけて掛かり稽古。僕達は、1対1の掛かり稽古だが。先輩達は、3対1の掛かり稽古もするので、たまに、受けとして、先輩達の掛かり稽古に参加する。結構きつい。




 そして、昼食後、少し休憩して、午前と同じように基礎の練習すると、掛かり稽古は、外で、草原や、山の中で行う。



 実戦を意識した錬身流。地形を利用して相手より、いかに有利に戦えるかの実践である。この練習は、かなり得意で、イシュケルを圧倒した。道場の練習では良くて五分五分だったが。



 地形を把握して、相手の気配をつかんで、誘導する。







「ビルマイス。マックスだが、かなり広範囲の気配読んでいるんじゃないか?」


「そうですよね。地形を読んで、気配を読んで、自分な有利な状態で戦っています。あれじゃ、対戦相手がかわいそうです」


「そうだな。うん明日は趣向を変えて鬼ごっこするか」


「はい? 鬼ごっこですか?」






 翌日、午後の練習最後の掛かり稽古の時間



「今日は、防具着けなくて良いぞ。鬼ごっこをする。順番で鬼になって全員捕まえたら勝ち、時間まで逃げきったら、鬼の負けだ。範囲は、山の中だ。俺が合図したら、逃げて、次に俺が合図したら、鬼が動いて良い。そして、もう一度俺が合図したら終了だ。わかったな」


「はい!」



 僕達は、合宿所の近くの小山に入る。小山と言っても、山の周囲は1kmあり、高さは60m程だが木が繁り、見通しが悪い。



「まずは、マックスが鬼だ。他は逃げる。では、始め!」


 マスターゴーランの声が山全体に響き渡る。さて、僕は手近な岩の上に登り、胡座をかいて座ると目を閉じる。そして、気配を探る。



 えっと、結構山の中、動物もいるな。さて、えーと、全員の位置を把握する。洞穴や、木のむろ、木の上に隠れている人が多いな。



「では、始め!」



 僕は、走り回って次々に捕まえる。そして、



「うん、終了前に全員捕まったな。では、次の鬼は、イシュケルだ」


 イシュケルからは、ほとんど見つからず、時間が終わる。アドルフ先輩ですら、3人しか、見つからなかった。



「じゃあ、次は、ビルマイス鬼だ」


「はい」



 僕は、少し逃げて、木のむろを見つけて隠れる。すると、誰かに触られたような感覚がした。ん?。ビルマイス先輩が、気配を探ったのか、不味い。逃げよう。僕は慌てて外に逃げた。そして、なんか空気が濃いとか、変な感じのする部分から、外に出た。


「では、始め!」


 マスターゴーランの声が響く。そして、次々と捕まったのか。残念そうな叫び声が聞こえる。そして、僕は、ビルマイス先輩の気配を探るために、目を閉じた。そして、少しずつ範囲を広げていくと、さっきと同じ、感覚の違うものにぶつかる。すると、ビルマイス先輩が、高速で、動いた。しまった。



「はい、マックス見っけ」




「では、今日の練習を終わる。この練習は、気配を探るっていう練習だが、本格的に取り入れていこうと思う。マックスは、得意なようだが、他にも広範囲で、気配探る事柄出来る存在もわかっただろう。工夫して、さらに磨いていけ」


「はい!」






「あの、ビルマイス先輩」


「うん、なんだ?」


「僕を見つけた時ってどんな感じでした?」


「ああ、僕が気配探っていたら、他に気配を探っている感覚が、僕の感覚に触れたから、その中心に、マックスがいるのかなって思ったんだ」


「なるほど。ありがとうございます」




 う~ん、気配探るのも勉強だな。



 こうして、激しくも楽しい、初めての合宿は終わった。

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