第6話 錬身流
えっと、錬身流と。これで良いかな。僕は入部届けに名前を書いて提出する用意をした。そして、回りを見る。
「ドラグ、入部届け書いた?」
「うん、書いたよ」
「何部にしたの?」
「うん、いろいろ考えたけど、弓道部にしたよ。弓は好きだし、いろいろ雑念が消えて気持ちいいし」
「そっか。良かったね。ピノは?」
「あっ僕ですか? 僕は、語学研究会にしたかな。旅好きだし、話せると良いし」
「なるほど、皆良い部活見つかって良かったね」
「おいおい、俺は聞いてくれないのかよ」
「ハハハ、で、ジョイは?」
「俺は、やっぱり格闘部だな。魂と魂のぶつかり合いで、楽しいぞ。そう言えば、マックスは?」
「僕は、錬身流だよ。魔力ない。僕にふさわしいかなと」
「よし。お互い部活頑張っていきましょう!」
「おー」
入部届けを出して、始めての練習だ。まだ、道着はないので、先輩のお古を借りて練習するそうだ。
僕は、扉を開けて、中に入りつつ元気良く挨拶する。
「こんにちは。マックスです。よろしくお願いいたします!」
「元気だな。よろしくマックス。そうだ、こっち来て道着渡すから」
ビルマイス先輩の後をついて、更衣室に向かう。そして、道着を渡されて着替える。上は白の道着で、下は紺の袴だ。着替えて道場に戻る。他の新入生も揃い。練習が始まる。
「神前に礼! お互いに礼! よろしくお願いいたします」
「で、新入生は、今日から練習なんだけど、まずは、お互いに自己紹介してから、始めよう。3年の1人は、任務に出ていていないから、今度タイミングあったら、紹介するよ。僕は、主将のビルマイスだ。よろしく。そして、隣にいるのは、副将の」
「僕が副将の、ウルリッヒ=フォン=サルエルだ。よろしく」
「わたしは、イリーナです。会計をしています。続いて、3年生です」
「俺が、主務のアドルフケイラーだ。アドルフとでも、呼んでくれ。主務をしている。後は、副務のハーラン=フォン=カーンエルフっていう奴がいて。最後に」
「俺がタキリスです。役職なし。よろしく」
「で、去年新入生入らず、2年生はいません。じゃ、次に1年生の自己紹介を。ええと、じゃ右から順番で」
「僕は、マクシミリアン=フォン=ローデンブルクです。マックスと呼んでください。よろしくお願いいたします」
「ん? ローデンブルク? 帝国宰相の関係者?」
「父が宰相やっていますけど」
「そうなんだ、僕も帝国貴族だけど。うん、気にしないようにしよう」
ウルリッヒ先輩も、帝国貴族のようだ。うん、気にしないようにしよう。
「俺は、イシュケルです。よろしくお願いいたします」
「わたしは、レーレンラン=フォン=カーンエルフです。今日いない、ハーランは兄です。よろしくお願いいたします」
「よし、これで自己紹介終わりだね。では、練習を開始します。1年生は、僕が練習みるね。ウルは、4年、3年の練習よろしく」
「ああ、わかった。じゃ練習始めます」
僕達は、道場の奥に移動した。
「じゃ、基本からやっていくね。まずは、膝行法ね」
これは、正座した状態から、爪先を立て、文字通り膝で歩く。きつい。そして、膝が痛い。慣れるのかな?
続いて受け身の練習だ。それぞれの受け身の仕方を習っていく。投げ技や、当て身のある錬身流では、受け身とれないと危なくて練習できない。後方受け身、側方受け身、前方回転受け身、そして飛躍受け身。
ひたすら、練習していく。手のひらが痛くなってきた。そして、飛躍受け身は、文字通り前方に回転しながら飛んで受け身をするのだが、慣れない、動きに躊躇してしまう。
そして、足捌きの練習に入る。剣王流のようなステップの足捌きではなく、雷鳴流のような滑るような足捌きでなく、腰を落として、体の軸を意識して、ゆっくりと擦らせるように足を運ぶ。きつい、太腿がぷるぷるとしてくる。イシュケルは、腰高なので、入ってきた、マスターゴーランが見かけて、腰を下に押した。イシュケルの悲鳴が響き渡る。
休みながらだが、早くも足は限界に近い。明日歩けるか? そして、素振りだが、僕達は、木刀を取って、構える。そして、一歩ずつ、進みながら、左右交互に打つ練習をする。腰を落として、さっき習った摺り足で、ゆっくり動きながら、木刀を振る。マスターゴーランが、腕で振らないように注意して、少しずつ直しながら、振る。
僕とイシュケルは、腕で振るくせがあるようで、注意され、レーレンランは、筋肉が足りないから、振り回されているそうだ。これは、いい運動になる。自分の木刀が来るまで、木刀を借りて良いか聞こう。これで、練習終わりだ。しばらくは、基本の練習だけだが、面白くなってきた。楽しい。
「神前に礼! マスターゴーランに礼! お互いに礼!」
「ありがとうございました」
練習を終わって寮に帰る。すると、ドラグ達が待っていてくれたようで、部屋から出てくる。僕は、急いで片付けて、一緒に寮の食堂に向かう。今日のメニューは、カジキのバターソテーマスタードソースとグリーンサラダ、そして、野菜スープに、バケットだ。
「マックス、錬身流の練習どうだった?」
「うん、今日は……」
今日の練習メニューを話す。
「きついな。しかも、剣術の練習としては珍しいね」
「うん僕は無理だね。気水流の練習でもそんなことなかったし」
「熱いね。格闘部の練習も熱いよ」
「どんな練習?」
「手押し車って言って、足を持たれて手だけで進んだり、人を背負って階段登ったり」
「凄いね。さすがに、嫌だね。その練習は」
「大丈夫だよ。きつすぎて、途中から快感に感じてくるから」
「ジョイは、マゾだな」
「うん、絶対そうだね」
楽しい夕食を終えて部屋に戻る。そして、借りてきた、木刀を取り出して構える。室内だと危ないな。僕は、上への階段を登り、屋上に出る。そして、中央付近にいくと、木刀を振る。ゆっくりと構え、全身で振る。徐々に汗が吹き出してくる。うん、気持ちいい。日課にしよう。僕は、木刀を振り続けた。
そして、2週間が過ぎた頃から、一緒に基本の練習を行い。そして、簡単な技から、徐々に技を指導されていくことになった。当然1年生同士で組むのだが、イシュケルと組むことが多い。剣の技、投げ技、当て身技、払い技。組んで練習していく過程で、イシュケルのパワーで強引に投げられたり、倒されることもあり、受け身が役立っている。
ビルマイス先輩は、イシュケルの強引さを注意するが、マスターゴーランは、それも錬身流の一部だと言って認めているようだ。そして、
「面白いな。パワーのイシュケル。技のマックスって感じか。後々楽しみだ」
後で聞いたところによると、ビルマイス先輩や、アドルフ先輩には及ばないけど、2人が切磋琢磨して、強くなると良いと思っていたそうだ。
「で、ビルマイス。今年の1年どう思う?」
「はい、マスターゴーラン。イシュケルは、パワーで、強引に技をかけるのと、上体が浮くのが欠点ですね。ただ、とても練習熱心でこれから期待ですね」
「なるほど」
「レーレンランは、力不足で、練習も熱心ではないので、心配です。どうしたら良いのか? 無理させて、体壊してもだめですし、悩みます」
「確かに、今までにいないタイプだよな。兄貴に誘われたから、入ったのか?」
「さあ。今度聞いてみます。そして、マックスですけど、良くわかりません。技は的確で、うまいし、素振りは、連日やっているようで、体の軸がしっかりして、技も綺麗です」
「錬身流きっての天才ビルマイスがわからないことがあるのか?」
「はい、なんかもの凄く余裕があるような、ギリギリなような」
「なるほど。うーん、俺には、ギリギリで、頑張っているように見えていたけど、今度ちゃんと見てみるか」
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