第4話 授業開始と友達
僕は扉の前に立っている。扉には1-B-2と書かれている。朝のホームルームまでは、まだ時間は20分程ある。扉を開けるとすでに半分程の座席が埋まっている。そして、ランドールの言っていた通り、前の方の座席が結構埋まっている。最低ランクの騎士は、少しでも強く、そして少しでも優れていたいと、上昇志向が強いそうだ。
2人がけの机が横に2列、縦に5列並んでいる。僕は見回して窓際の空いている席に向かう。一番窓際の前から4列目に座る。窓から外を眺めると、遠くに城壁が見え、その向こうにのどかな風景が広がっている。気持ちの良い席だ。寝そうだ。
ぼーっとしているとなにやら少し騒がしい。廊下側前方に固まって座っている女の子達がチラチラ見ながら、こそこそ話している。そして、窓際一番前に座っている男子が、隣に座っている男子に話しかけている。話しかけられた方は何か迷惑そうだ。ちょっと人の良さそうなお坊ちゃんという感じだ。背はやや低め少しぽっちゃりしている。
「ドラグ=ジュニア=アルジュヴァリエ君だよね?。お父さんの本読んだよ。君と同じクラスに慣れて光栄だよ」
「そ、そ、そうなんだ。ありがとう。でも、僕は落ちこぼれだって、言われているから……」
そう言いながら、荷物をまとめて、席を移動してくる。一列後ろも空いていたが、隣の子に見つめられると、僕の隣に来て座る。興味なく、ぼーっと見ていたので、おそらく僕の彼を見つめる目は、腐った魚のようだったであろう。
「えっと、隣良い?」
「うん、どうぞ」
「ありがとう。僕の名は、ドラグ=ジュニア=アルジュヴァリエだよ。君は?」
「僕の名は、マクシミリアン=フォン=ローデンブルクだよ。マックスとでも呼んで」
「よろしくマックス。じゃあ僕は、ドラグジュニアとか、ジュニアって呼ばれているから、そう呼んで」
「ドラグジュニアって、そう言えば、お父さん有名なの?」
「シルバーナイトドラグって本知ってる?」
「ああ、あの本か。最近ヒットしている。小説だよね?」
「小説じゃなくて、自伝なんだけどね」
「ああ、ごめん、ごめん。知らなかった」
シルバーナイトドラグ。ごく普通の家庭に生まれた男の子が、騎士としての素質を見せ、剣聖の下、三剣まで成り上がり、冒険者として、傭兵として活躍する話だ。
そして、一番の見せ場は竜退治だ。魔神の国の方から魔物化した竜が騎士の国の方に入り込み暴れ、それをシルバーナイトが退治する。面白い小説だと思っていたが、実在の人の話だったか。
「うーん、僕はお父さんのこと、良く知らないから、ドラグって呼んで良い?」
「えっと、うん、もちろんだよ。ありがとう」
そんなことを話していると、後ろから、ポンポンと肩を叩かれた。えっと、気配は近づいて来ているのわかっていたけど。誰だ。振り向くと、かなり痩せてほっそりとした。だけど比較的背の高い少年が立っていた。
「あの、もしもし、ここ座っても良いかな?」
かなり、おっとりとちょっと奇妙なイントネーションで話す。
「ああ、誰も座っていないと思うから大丈夫だと思うよ」
「そうですか。では、ここに座ります。ああ僕は、ピノワール=フォン=クックパルトです。よろしくお願い出来るかな?」
「ああ、よろしく。僕は、マクシミリアン=フォン=ローデンシア」
「僕の名は、ドラグ=ジュニア=アルジュヴァリエだよ。よろしく」
「よろしく。ええと、なんて呼べば良いのかな?」
「そうだね。僕はマックスとでも呼んで」
「僕は、マックスが僕のことドラグって呼ぶそうだから、それで」
「マックスとドラグですね。ええと、僕は、ピノとでも呼んでくれて良いかな?」
「よろしく、ピノ」
そんなことを話していると、ホームルーム直前に、廊下を駆ける凄まじい音がしてくる。そして、扉が勢い良く開き、背が高く筋肉質の少年?が入ってくる。黒々とした髪に、黒いくりっとした目が印象的だ。
「まだ、先生来てない。よっしゃ。セーフ」
彼は、部屋を見回す。そして、唯一空いていた。ドラグの後ろの席に座る。
「やっども。俺ジョレンテっす。よろしく」
僕達が振り替えっていたので、僕達見回しつつ挨拶してきた。
「あっ、どうもピノです」
「僕の名はマックス、どうぞよろしく」
「僕はドラグ。よろしく」
挨拶が済んだタイミングで、担任のアランチェス先生が入ってくる。銀髪の髪に、やや赤銅色の肌。やや背が高く無駄な贅肉のない、均整の取れた肉体に反して、気だるそうな、目が印象的だ。
「ええと。ホームルームを始めます」
出席を確認して、今日の予定を確認する。そして、クラスの全員の簡単な自己紹介があり、終了。
そして、授業が始まった。午前中は、休憩しつつ4時間座学。座学は、数学、言語学、政治学、地理、歴史、物理学、化学、生物学、経済学、騎士道学等である。
午後は、実技や、体力作り等だ。まあ最初のうちは、体力作りがメインのようだ。徐々に、剣術、槍術、サバイバル術等も加わり、後半になると、馬術も加わって本格的になっていくそうだ。
午前中の座学が終わって、昼休みに入る。すると、ジョレンテが
「近くに座ったのも、何かの縁だし、一緒に食べにいこうぜ」
と、言ってきた。断る理由もないし向かう事とする。
食堂は、校舎の3階にある。1・2学年が座れるように240席がある。4人で座れる席を見つけ座る。料理は全員一緒なのが残念だが、しょうがない。ただ、量は調整出来るそうで、食堂のおばちゃん。に言うと調整してくれるそうだ。
今日のメニューは、カレーライス。それにサラダがついている。ただのカレーではないようで、牛すじが煮込まれ、スパイスの香りがかなりたっている。大盛で頼むと、ピノ以外大盛にしたようだ。そして、座って食べながら他愛もない話を始める。
「俺も、マックスとかピノとか、そういうので、呼んでよ」
「何が良いだろ? うーん」
「ジョリー?」
「いや、ジョットとかジョイとか?」
「おっ、ジョイがいい。俺はジョイ、ジョイって呼んでくれ」
「わかった。よろしくジョイ」
そして、なんとなくそれぞれの話になった。ジョイは、帝国出身、帝都の北にある比較的大きな街の、商人の家に産まれたが、騎士の才能を持つことが分かると、本家の大商人が養子にして、寄付で入学したそうだ。
ドラグは、魔神との国境沿いに、かつて竜に襲われ、シルバーナイトに助けられた国、シャミール王国の首都に住んでいるそうだ。遠く、大陸横断軌道列車を乗り継いできたそうだ。
ピノは、帝国の従属国の南方五ヶ国のうちの一つ、煌越国の貴族家の出身だそうだ。
「ここじゃないと、友達にはなれないような身分差だけど。大丈夫?」
「何が?」
「マックスは、僕の親のこともだけど、全く気にしないね」
どうやら、帝国宰相の息子よりも、シルバーナイトの息子の方が、皆の関心も、本人のプレッシャーも上らしい。大変だな。
「シルバーナイトは、面白い話だけど、会ったことないしね」
「まあ、そうか」
どうやら、無事友達が出来たようだ。なんとなく、心が暖かい。身分関係なく、一生の友達になって欲しい。
誰かが、教室の窓側後ろの席をとって、いつの間にか、僕達の定位置になった。僕達は、「チーム後ろの方」と、名乗って行動を共にしていくこととなった。
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