第7話 覚悟

 僕達は、トゥルク神聖国の玉座の間に入る。三姉妹も後ろについてきた。リリアさんの方を振り返る。ニコッと微笑むリリアさん…ちゃん、可愛い。



 前を見ると怪訝な顔をした。トゥルク13世の顔が目に入った。おっといけない。



 僕達は、跪くと、頭を下げる。



「インディリア=フォルスト=ホルス大公名代、マックス=フォン=ローデンブルクです。トゥルク神聖国国王トゥルク13世陛下お初にお目にかかります」



 すると、トゥルク13世は、玉座から立ち上がり、段を降りると、僕達の前で膝をおり、頭を下げた。



「わたくしトゥルク神聖国国王トゥルク13世です。この度は、わざわざありがとうございます。わたくしの罪は大公閣下にお手紙差し上げた通りです。いかようにも御処分ください」



「お父様! お父様は悪くない。血気に流行って東方10剣士が勝手にやったことです!」


「黙りなさい、ローズ! 我が国はあくまでも従属国、帝国に逆らう事は許されないのだぞ」



「わかりました。処分の前にお話したいのですが、良いでしょうか?」


「はい、何でしょうか、マックス様」


「先程のローズ様の発言にあった通り、東方10剣士の血気に流行った暴走ということなのでしょうか?」


「正直に話しましょう。実はある程度知っていたのです。そして、それが失敗するだろうことも予想していました」


「では、なぜ止めなかったのですか?」


「申し訳ありません。それは、わたくしの完全な力不足です」


「力不足?」


「はい、いつ暴発するかわからない、若者達の情熱を止める事が出来ませんでした。かといって、騎士を送り込んで捕らえることも出来ず。密告して、未然に防ぐことも可哀想で」


「わかりました。しかし悲しい結末です」


「申し訳ありません。東方10剣士、彼らの名付け親は、先代の剣聖ランベルク様でした。ランベルク様は、地位に関係なく騎士の能力に優れた者、将来性のある者を10名選んで弟子にしたのです。彼らは、とてもランベルク様をしたってました。しかし、ランベルク様は、殺されてしまいました」



 ん? これは、マキシというか、僕のせいか?



「剣聖ランベルク様を失った彼らの剣の修行の情熱は、マキシ憎し、そして、大公憎しとなってしまいました。わたくしも、彼らと話しましたが、トゥルク国王は、腰抜けだと思ったようで、ローズに接触をはかる始末です」


「なるほど、トゥルク神聖国の力を使って戦争までに持っていこうと」


「はい。東方十ヵ国を滅ぼすわけにはいきません。仕方なく、わたくしは、彼らを援助しつつ、大公閣下の情報を流しました」


「それが、誕生日パーティーの情報なのですね。そして、お祖父様にも、事前に手紙を送った」


「はい、それで、大公閣下は、そばにマキシ=フォルスト=ホルスを置いたと」


「狂剣の人形マキシ!」


 心底憎そうにローズさんが吐き捨てる。レオポルドが、剣に手をかけるが、僕は、それを軽く手で制する。



「彼らの、東方10剣士の最期はどのような感じだったのでしょうか?」


「はい、彼らは、メインディッシュの運び係、そして、切り分け係に扮して、お祖父様に近づきました。そして、彼らは槍を加工して、運ぶ用の棒として、巨大包丁に偽装して、その中に剣を隠しておりました。そして、お祖父様の前で名乗りを上げ。斬りかかったのです」


「名乗りを上げたのですか。そうですか」


「はい、そして、斬りかかったのですが、お祖父様と彼らの間にマキシが入り込み、3人を空中で剣を抜いて斬り捨てました。そして、残りを追いかけ追い抜いて、4人を多重分身攻撃で殺しました」


「なっ、ランベルク様の奥義の一つ「陽炎乱舞」を使えるのか!」


 ローズさんが、驚きの声をあげる。なるほどあの技は、「陽炎乱舞」って言うのか、覚えておこう。


「最後に残った3人が、マキシを取り囲んだのですが、正面で指示を出した男を一瞬で貫き、そして、斬り割きました。後は、怯えている槍使いを斬り捨てると、残った1人と、まだ生きていた最初の2人も自害して果てました」


「愚かな、生きていれば望みはあったものを。彼らの最期話して頂き、ありがとうございました。では、わたくしの処分を、お願いいたします」



 気が重い。考えて、考えた結論で。決定したはずなのにおかしい。どうしたんだ?僕は。



 僕は、ゆっくり立ち上がると処分を言い渡す。




「東方10剣士の大公暗殺未遂に関して、トゥルク神聖国以外の東方十ヵ国は不問とする」



 僕は一番言いやすい処分を言って一息つく。そして、



「トゥルク神聖国に対しては、従属国の地位を剥奪し、帝国直轄領とする」


「なっ!」



 ローズさんが、声を出すが、トゥルク13世が、手で制する。ローズさんは、唇を噛み締めて下を向く。僕は、深呼吸をして話を続ける。



「ただし、トゥルク13世の末子、ダンテ=フォン=アルフォルス公爵を代官として、ある程度の自治権を認める」



 誰を継がせるかは、あらかじめ考えていた事だ、三姉妹では、カリスマ性も力もあり過ぎる。唯一騎士の力も、魔術師としての力も持たないダンテに、帝国の爵位を与えて貴族領とする、ギリギリの落としどころであった。そして、



「えーと、トゥルク神聖国王族ローズ、リリア、リコリスは、トゥルクの国外へ退去処分とする。そして、トゥルク13世に関しては、あれっ」



 自覚せずに涙が出てきた。リリアちゃんに会ってから、感情が溢れてコントロールがつかない。




「申し訳ありません。トゥルク13世に関しては、同じくたいきょ」


「いけません! マックス様。ありがたいお言葉ですけど、それでは、彼らにも、帝国の方々にも示しがつきません!」



「しかし」


「マックス様、失礼ながら本当に素晴らしい男性です。しかし、一国を背負ってたたれるのならば、お覚悟をお持ちください。では、わたくしへの処分を」



「わかりました。申し訳ありません。トゥルク13世は自死を命ずる」


「自死ですか。寛大な処分をありがとうございます」



「では、我々は、しばらく席を外します」


「ありがとうございます。イドリス、ダンテを呼んできてくれ」


「くうぅう。はい。畏まりました」


 イドリスさんは、涙を流しながら、部屋を出ていく。そして、ローズさんも、リリアちゃんも、リコリスちゃんも泣き崩れている。嫌われただろうな。それよりも、一国を背負って立つ覚悟か自覚しておこう。



 僕達も、部屋を出る。そして、案内されて応接室に通された。


「マックス様、見事な采配です。そして、リリア様ですか?。大公様に言いますか?」


「余計なことをするな、レオポルド」


「は、失礼しました」


「ふふふ、さっきのマックス様、可愛かったですわ。素敵です。お名前は?って。ふふふ」


「からかうな、パナ」


「申し訳ありませんですわ。ふふふ」





 しばらくして、再度玉座の間に通される。主な家臣や、家族が集まっていた。全員が泣き崩れている。




「お待たせ致しました。最期の別れがゆっくり出来ました。ありがとうございます」


「いえ、良かったです」


「では、見聞よろしくお願いいたします」


「はい、立ち会わせて頂きます」


「では、杯を持て」


「はっ」



 扉が開いてワイングラスを持った家臣が入ってくる。家臣がワイングラスを持つ手が震えている。ワインがこぼれそうだ。それはそうだろう。



 トゥルク13世は杯を受けとる。そして、



「皆、ありがとう。国の事頼む!」



 と言って、一気に杯を仰ぐ。そして、数分後眠るように玉座に沈みこむ。侍医が脈を確認する。



「陛下は、身罷られました」

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