第6話 芽生え?

 僕は馬を走らせる。隣には、僕の養育係兼護衛騎士レオポルド=フォン=シュミット男爵。レオポルドは、帝国貴族シュミット家の三男だったが、その剣の腕を見こまれお祖父様から僕の養育係兼護衛騎士に任命された男である。マキシも一目置いているのか、比較的ちゃんと言うことを聞いている。礼儀正しく口うるさいのが玉に瑕だが。



 他には、大公家の剣術指南役エピジュメル、槍術の指南役パウロス。そして外交官のポルビッチ=フォルスト=ホルス。ポルビッチは、ホルス大公家の遠縁の親戚だが、その社交性と実直な性格が認められお祖父様が、ホルス大公家の外交騎士として使っている人物だ。



 そして、僕の遊び相手兼護衛で同年代のランドールと僕つきの魔術師ハインリヒ。2人とも元帝国貴族の庶子から選ばれた。選ばれた理由は才能である。ただ、最近はマキシと自分の力の差に圧倒され、ランドールがハインリヒを誘って魔導騎士の研究をしているようで、ちょっと怖い。そのうち、人体改造していくのではないかな? やめて欲しい。



 さらには、大公家の魔術師パナジウム=フォン=キューリーと大公家侍医のDr.メックス女史。2人ともに、高位の魔術師だ。



 僕を入れて騎士6名、魔術師3名。そして、私兵10000。トゥルク神聖国は、兵力50000、騎士も100人はいるだろう。攻め落とす訳じゃないから、十分な戦力だろう。それにこちらの騎士は全員剣術指南役クラスで、魔術師も高位の魔術師ばかりだ。





「若、しかしどうされるおつもりですか?

トゥルクの処分を任されておりますが」


「うーん、まだ考え中。レオポルドは、何か意見ある?」


「そうですな。攻めるわけではありませんけど、国王は良いとして、将軍達や騎士達が素直に我々を招き入れるかどうか。それに、剣聖が死んだとはいえ。あそこには、例の三姉妹がおりますし」


「ああ、花の三姉妹か。まあ噂だけだとお近づきになりたくないかな」



 花の三姉妹は、現トゥルク神聖国国王の娘達だ。元々トゥルク直系なのは、現国王の奥様で、国王は婿入りしたのだ。女王は、巫女で魔術師としても有能であったが、病で数年前に亡くなった。その後、国王が継いだが自分は娘に継ぐまでの中継ぎだと公言していた。



 そして、国王の娘達のうち、上2人は高位の騎士、特に上の姉は先代剣聖により、三剣に選ばれている。そして、次女は天剣だ。末の妹は巫女で高位の魔術師、そして3人ともとても美人だと。ただし、一番上のお姉さんでも僕より2、3歳上なだけなので、下の妹達を美人と呼んで良いのだろうか? 言うなれば美少女?



 と、いけない。なぜか下らない方に考えが進んでいた。




 僕は、レオポルドに声をかける。



「いったん兵を休めよう。そして、すまないけど、ポルビッチを呼んできてくれないか」



「はっ、畏まりました」



 そして、レオポルドは右手を上げて兵に指示を出す。



「止まれ! いったん休息とする! 野営始めろ!」



 兵士達が野営準備を始める中、レオポルドはポルビッチを呼びに馬を走らせる。そして、すぐに戻ってきた。僕は馬を降り、用意された椅子に腰かけつつ、話をする。



「悪いけど、先に行ってトゥルクの現状見てきて。そして、出来れば国王本人に会えたら会ってきて」


「畏まりました。では」


「あっ、ちょっと待った。一応何かあるといけないから、パウロスとDr.メックス女史を連れてって」


「はっ、畏まりました。では、2人に声をかけ、準備致します」


「うん、よろしく」



 パウロスは槍術指南役だし、Dr.メックス女史も高位の魔術師。そして、ポルビッチ自身も高位の騎士だ。3人で行けば襲われても、逃げ出すくらいわけはないだろう。




 翌朝、再び兵を東へと走らせる。極めて急ぐ必要はないが、叔父様や、他の誰かが手を出す前に片をつけないといけないから、バランスが難しい。






 トゥルク神聖国まで、後1日位の距離になった時、ポルビッチ達が現れた。少し早いが、野営の準備をして話を聞く。




「ポルビッチご苦労様。で、どうだった」


「はい、国王であるトゥルク13世とも会うことが出来ました。とても、穏やかに迎えて下さりました。そして、マックス様ともお会いし、全て処分は受け入れるとのことでした」


「そうか、良かった」


「ただ、将軍達や、騎士達、兵士達は殺気だっておりまして、戦闘の準備をしておりました」


「まあ、そうなるよね。うーん。ありがとう。ゆっくり休んで」


「はっ、失礼致します」




 ポルビッチが、去っていった。僕は、レオポルドの方を向き、



「うん、到着したら、軍は郊外に待機させて国王には、僕が直接会いに行くよ。メンバーは、もしもの時兵を率いるから。レオポルドは残って」


「いえ、わたくしは、若の護衛です。ついていきます。兵を率いるならエピジュメルや、パウロスに任せて下さい」


「わかった。じゃ、僕とレオポルドとパナで行こう」


「はっ、畏まりました」






 青々とした草原、そして大きな大河の向こうに帝都程ではないが、大きな街と城が見えてきた。現在のトゥルク神聖国王都、ホウリンである。シルキリア帝国に元々の王都レイリンを落とされて移転した王都である。




 郊外に兵を駐屯させると、兵士30名程とポルビッチ、パウロス、Dr.メックス女史を残して、街を目指す。そして、街中に入ると、エピジュメルや、ランドール、ハインリヒと10名程の兵士が消える。




 そして、城門前にたどり着くとゆっくり城門が開いた。




「わたくし、トゥルク神聖国宰相イドリスと申します。マックス=フォン=ローデンブルク様でしょうか? 国王陛下がお会いになられます。ご同道していただいて良いでしょうか?」



「はい、案内よろしくお願いいたします」





 兵を残して、僕達3人は案内されて城内を歩く、シルキリア帝国の帝都の宮殿と違い、贅沢で華美でなく、綺麗で趣がある。大公宮殿は成金趣味的な所があるが、それはしょうがない。



 殺気だつ、まさしくその通りの雰囲気だ。表にこそ出てこないが、扉の閉じられた部屋部屋から殺気が漏れ出してくるようだ。そして、警護の騎士や兵士は完全武装だ。





 廊下を歩いていると、文字通り3人の少女が立ちふさがった。レオポルドと、パナが一歩前に出る。これが花の三姉妹か。



「ローズ様、お通しください。国王陛下のご命令です!」



 イドリスが姉妹達に声をかける。



「命令でも、お父様を殺そうという人達を通すわけには行きません!」


 レオポルドが、僕を後ろ手で庇いつつ、反論する。


「我々は、トゥルク国王を殺しに来たわけでは、ありません。そうですな、マックス様。…マックス様?」



 僕は、あれっ? どうしたんだ? なんか心臓がドキドキする。そして、身体が熱い。病気か? 普段頭で、考えて一生懸命作っている、マックスとしての感情とは、別の何かが勝手に起きているようだ。なんだ? これは。




 僕は、レオポルドを押し退け、ふらふらと前に向かい三姉妹の前に立ち、声をかける。何やってんだ?



「素敵です。お名前は?」


「えっ、あっはい。私ですか? えーと、マックス=フォン=ローデンブルク様。お初にお目にかかります。私、トゥルク神聖国国王の次女、リリアです」




 周囲は、呆然として、ただ見つめている。何してんだ。このバカ殿はって感じであろうか?。



「あの、お父様を殺さないでください」


「僕としては、全力を尽くします。もちろん、お命をとろうとは思っていません。ですが、お父様のお気持ちは、ご存知ですよね?」


「はい、わかっています。マックス様、よろしくお願いいたします」




「はあー。何2人でやってんだか。何かわからないけど、リリアがそういうなら、任せてみますか。マックス様よろしくお願いいたします」



 ローズさんが言うと後ろでリコリスさん?ちゃん?が頷く。そして、リリアさんが僕の手を取り、僕の目を見つめる。



「よろしくお願いいたします。マックス様」

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