第4話 マキシ=フォルスト=ホルス

「シルキリア帝国ホルス大公家御頭主にして、元帝国大将軍及び、帝国筆頭騎士。インディリア=フォルスト=ホルス大公御入室!」



 全員が頭を下げ、大広間の前方の扉が開く。そして、お祖父様、お祖母様、そして顔に白い仮面を着け、手には漆黒の神剣を持った男が続く。



 僕は、お父様、お母様と共に最前列に陣取る。大広間上座に当たる一段高くなった席にお祖父様、お祖母様が着席すると、皆が頭を上げる。そして、お祖父様の挨拶が始まる。



「遠くから来られた方もいるだろう。わざわざわしの誕生日に駆けつけてくれた事嬉しく思う。存分に楽しんでいってくれ!」


「はっ! ありがたき幸せ!」



 全員が声を合わせ返礼する。そして、叔父様が進み出る。すると、扉が開き執事、メイドが入ってきて全員に飲み物を配る。



 僕にも、スパークリングのジュースが渡される。それをお母様に渡して、スパークリングワインを受け取る。お母様は、お酒が飲めないのだ。お母様は、複雑な顔をして、お父様は笑っている。





「お父様誕生日おめでとうございます。来賓の皆様も、存分に楽しんでいって下さい。では、乾杯!」



「ホルス大公様、誕生日おめでとうございます。乾杯!」



 再び大広間に声が響き渡る、パーティーが始まった。




「おお、マックス様、私の事を覚えておりますかな? ホルス大公家の遠い縁戚にあたる………」


 何人目であろうか、もう数えるのも馬鹿らしくなった。無難な感じで挨拶し、無難な感じで会話する。そして、最後には皆が


「お祖父様によろしくお伝えください」


 と。僕は伝言係りではないし、伝えるいわれもない。



 僕は、ふらふらと移動して執事や、メイドが持っている料理をとって、食べながら歩きまわる。お母様に見つかったら行儀が悪いと、怒られそうだが、話かけられるのは、面倒くさい。



 と、誰だか知らないが、大広間の外で、話している話が耳に入ってきた。そっと覗くと、どうやら、パーティーのために臨時で雇われた執事と、来賓の一人だろうか。


「壇上にいる黒い剣を持っているのが、マキシ=フォルスト=ホルスか?」


「ああ、そうだ。奴以外に大広間内部で剣を持っている者はいない。予定通りだ」


 良くわからないけど、何となく物騒な感じがする。まあ、聞きたくて聞いたわけじゃないから、大丈夫だよね。すると、後方から声が聞こえた。


「ん? 聞かれていたか?」


「いや、大丈夫だ。あいつは、騎士の才能なしの方のやつだ。名は、確かマックス=フォン=ローデンブルク」


「そうか。本当に紛らわしいな」



 良かった。大丈夫みたいだ。話聞いただけで殺されたら嫌だからな。僕は、また、ふらふらと前方に移動した。




 しばらくたって、再び叔父が前に進み出る。



「歓談中のところ、失礼致します。これより本日のメインディッシュとなる。ローストビーフを目の前で切り分け致します。こちらの牛肉は、遠く北方のキリル地方より取り寄せました。キリル短角牛です。先ほど味見しましたが、とても美味しいですよ。お楽しみください」




 と言うと、後方の扉が開き、大柄な男性二人で大きな皿の乗った2本の棒を持ち運んで来る。大きな皿の上には、湯気の立つ肉の塊。それが、3台。そして、その横には、大きな包丁を持った4人の執事とメイド。



 肉の行列は上座に向かい、そして、お祖父様の前に並ぶ。そして、


「ガシャン」



 凄まじい音がして、皿が割れ、肉が転がり落ちる。運んでいた棒は槍となり、大きな包丁からは、剣が出てきて、運んでいた6人の男と、4人の執事とメイドが、槍と剣を構える。


「我ら、東方10剣士、国賊インディリア=フォルスト=ホルスに天誅を加える」




 牛肉もったいない。そして、名乗らずに斬りかかっていれば良いのに、なぜわざわざ名乗ったのだろうか?。



 僕は、音もなく、東方10剣士と、お祖父様の間に立つ。扉が開き、賓客達が逃げ出す。そして、僕と、お祖父様、お祖母様、お父様、お母様だけになった。なぜか、叔母様と従兄弟達も居なくなったが。



「邪魔だ!」


 三人がこちらに向かってきて、残りがお祖父様の方に向かう。さて、どうしよう。



「マキシ様!」



 お祖父様の横に立っていた白い仮面を着け、漆黒の神剣を持った男が叫び、凄い勢いで漆黒の神剣を投げてきた。



 僕は、飛んできた漆黒の神剣の柄を掴み、空中でそのまま鞘を抜き目の前に迫った三人を一刀両断する。血飛沫が上がる。


 そして、お祖父様の方に向かった人間を追い抜き剣聖の時と同じく、多重分身攻撃を加える。その数16体。



「なっ、これは剣聖ランベルク様の奥義!」



 慌てて防ごうとするが、4人を4方向から貫く。



 さて、残り3人。3人だったら、剣を持たないお祖父様でも何とかなるかなと思って、残したのだけれど、お祖父様の方に向かわず、こちらに向かって来る。


 後方では、剣振るっただけなので、生きていたのか、2人が、よろよろと立ち上がってくるのも見える。


「いくら強いと言っても、早いだけだ、多重分身攻撃をさせるな! 奴の移動範囲を狭めろ。そして、三方から攻撃するぞ。良いな!」


「はい!」



 目の前の3人が真ん中の剣を持った男の指示で構える。真ん中の男が1番強いかな。僕は、突きを放つ為だけに集中し、足を前後に広げやや腰を落とし、両手で柄を持ちつつ切っ先を前方のまま、右腰辺りに構える。そして、全力で踏み込む。


「なっ! 消えっ」



 僕は前方の男に全力で突きを放つ、下腹部辺りに剣が刺さり、後方に血飛沫が飛ぶ。3人からは、消えたように見えただろう。


 僕は、そのまま剣を上方に振り上げる。男が二つに別れ倒れる。さて、後はと。振り向くと、残りの二人は恐怖に震えていた。これは、勝負ついたかな。



 僕は、槍を持った男性の方にゆっくり向かう。男は覚悟を決めたのか。こちらに向かってきた。数合打ち合うが、慣れた得物ではないようで、勝負にならなかった。隙を見て、槍を斬ると、男を斬り捨てる。そして、振り替える。



 すると、残った剣を持つメイドは、自分の喉に剣を当てていた。


「無念!」


 そして、よろよろ立ち上がっていた2人もお互いを突き刺し絶命した。ああ、生きて捕らえるつもりだったのに、お祖父様に怒られるかな?。



 僕は、血のついた剣を、執事が持ってきた、布で拭くと、剣を鞘に収めた。そして、お祖父様の方に向かう。



「部屋を綺麗に掃除しろ。そして、死体を片付けろ、丁重にな」



 お祖父様が指示を出す。そして、僕が、お祖父様の前に立つと、お父様、お母様、叔父様、そして、いつの間にか、叔父の子供2人も集まってきた。


「マキシご苦労だった」


「いえ、これくらいの敵でしたら、何ともありません」




 東方10剣士も弱いわけではないのだが、この屋敷全体に魔法封じの仕掛けがしてあり、騎士として本当の力が発揮できなかったのであろう。




 叔父様が、前に出てお祖父様に直訴する。


「東方10剣士だと、すぐに、帝国軍を東方十ヵ国に派遣して、殲滅しましょう」


「ヴィシュタリアよ。良いのだ。犯人はわかっている。トゥルク神聖国、国王のトゥルク13世だ」


「は? なぜ分かるのですか?」


「本人が言っている。手紙を送ってきて、その手紙に書いてあるのだ。もし、このパーティーで、何かあった場合、すべては私の責任だとな」


「しかし!」


「マックス、お前がトゥルクに行って、処理してくれ」


「はい? マックスがですか? マキシではなく」


 僕は聞き返す。


「そうだ。マックス=フォン=ローデンブルク、トゥルク神聖国に私兵を連れて向かい、後片付けをしてきてくれ。処分は、全て任せる」




 僕は、両耳のピアスを着けつつ、膝をつく。


「はい、わかりました。では、行ってきます。」


「マックス気をつけて行くのですよ。」


「大丈夫ですよ。」

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