第3話 マックス=フォン=ローデンブルク

「マックス待ちなさい!だらしない。服装が乱れてますよ!」


「えー。大丈夫ですよ。お母様」


「何を言っているのです。鏡の前に立ってきちんと直しなさい!」



 僕は、部屋に備え付けられている。金縁の大鏡の前に立つ。すると、やや細身で身長170cm位の年の頃15・16歳位の少年が写る。って、自分か。



 髪は黒髪、瞳は青色、肌は白色そして顔は自分で言うのはあれだけど、結構良いと思う。やや童顔だけど。両耳にはホルス大公家と、ローデンブルク家の紋章を型どった大きめのピアス。そしてモーニングコートを着たはずなのであるが、ひどいものだった、ボタンはずれて、ネクタイは曲がっている。そして、ひどい寝癖。



 いつもは、メイドにやってもらっているのだが、今日はそのメイド達も来賓の準備におわれ忙しそうだったので、自分でやったらこの有り様であった。



「誰かある! マックスの衣装を直して」




 慌てて僕付きのメイドが呼ばれ、素早く直して去っていく。



「まったく、あのままで、お父様の誕生日パーティーに出るつもりだったのですか?笑われますよ。マックスも、少しは外見に気をつかいなさい」


「はい、申し訳ありません。お母様」


「まあまあ、良いじゃないか。せっかくのお義父様の誕生日パーティーの朝に、そんなにガミガミ言うこともあるまい」


近づいてきたお父様が助け船を出す。


「まあ! ガミガミってなんて事を言うのですか! あなたも、あなたです! 叱るときはしっかりと言って頂かないと、マックスが良い大人になりませんよ!」


「ハハハ。すまん、すまん」


 と言いながら、どこかに去っていく。逃げたな。



 僕の名は、マックス=フォン=ローデンブルク。そして、怒っていたのは、母親のマルガリータ=フォン=ローデンブルク。そして、インディリア=フォルスト=ホルス大公の長女。貴族のお嬢様っぽくなく、うるさい。もとい、気が強く活発だそうだ。剣の腕もお父様や、叔父上様より上だそうだ。


「なぜ、マルガリータは男に生まれなかったのだ」


 が、お祖父様の口癖にしばらくなっていた。騎士としての才能もあり、数年前に死んだ剣聖の前の剣聖で、帝国の剣術指南をしていた剣聖に、高位の騎士の資格を貰ったそうだ。



 父親はミュラーズ=フォン=ローデンブルク公爵、現帝国宰相だ。母親の尻に敷かれているがホルス大公家の恩恵だけでのしあがったわけでなく、文官として極めて優秀で、それをお祖父様が認めて長女と結婚させて宰相に押し上げたそうだ。




「では、お祖父様にご挨拶に行きますよ。あなたも、隠れてないで行きますよ!」


「はい、お母様」





 僕達は、部屋を出て廊下を進む、しかしこの廊下長いよな。ここは、ホルス大公領の大公屋敷だ。赤い絨毯の上を延々歩く、そして、一際立派な扉の前で立ち止まる。



 扉には、四つの彫り物がしてある、右上側には、獅子。左上には、龍。そして、その下には、帝国の紋である。王冠の下に剣が交差した紋章。そして、その隣には、王冠の前に大剣の描かれたホルス大公家の紋章があり、扉全体が金に塗られている。



 立ち止まると内側から自然に扉が開く。そして、



「帝国宰相ミュラーズ=フォン=ローデンブルク様、マルガリータ=フォン=ローデンブルク様、マックス=フォン=ローデンブルク様。御来室です」



 お祖父様のお付きの執事が扉を開け、中に通される。中には、複数のお付きの人、護衛の騎士がいる。そして、一つ部屋を通り抜け奥の部屋に入る。



「おお、待っていたぞ、マックス。今日は何が欲しい」


「あなた。挨拶してからですよ。マックス達が挨拶できないでしょ」


「マックス達って、私娘なんですけど」


「おお、すまん、すまん。では、どうぞ」



 お父様が、右手を左胸に手を当て頭を下げる。

 お母様は、優雅にスカートをつまみ、少し膝をおり、頭を下げる。僕もお父様の真似をして、頭を下げる。と、


「お義父様、70歳の誕生日おめでとうございます」


「お父様、誕生日おめでとうございます」


「お祖父様、誕生日おめでとうございます」


「うむ、婿殿も、マルガリータも、マックスもありがとう。わしは、幸せだ」



 インディリア=フォルスト=ホルス大公、身長は180cmを越え、70歳に見えない真っ黒の髪がオールバックに整えられている。体格はいかにも武人という感じで、縦にも横にも大きい。そして、目付き鋭いはずが、嬉しさで、満面の笑顔に垂れ下がってちょっと気持ち悪い。昔は、口髭、顎髭をはやしていたそうだが、似合わないからやめなさいと、言われてやめたそうだ。



 そして、隣には、いかにも人の良さそうなご婦人。お祖母様のリーンデリア=フォルスト=ホルスだ。帝国の皇族に連なる人で、本当のお嬢様だ。確か、先代皇帝の妹だったと思う。髪は白くなっていて、手にも顔にもやや皺が刻まれている。確かお祖父様よりは、少し年上だ。



 ホルス大公家は、お祖父様が一代で築き上げた家だ。流れの傭兵だったお祖父様が、帝国に雇われ。当時、今は、従属国の東方十ヵ国、南方五ヵ国、北方八ヵ国、西方十二ヵ国に押され、衰退気味だった帝国を建て直し。



 さらに、帝国の妹君を嫁に迎え大将軍になると、文字通り東奔西走して、次々に従属国にして、元の版図以上の大帝国に育て上げ、大公に就任し、ついたあだ名が雷帝。お祖父様は、そう思ってはいないようだが、皇帝は御飾り、真の皇帝はお祖父様と周りは考えているようだ。



 そして、いつの間にか親戚の増えたホルス大公家。お祖父様の兄弟や、親戚一同がいつの間にか帝国に移住してきて、でかい顔をしている。まあ、自分には、関係ないけど。僕は、あくまでも、マックス=フォン=ローデンブルクなのだから。




 とりとめのない雑談が続く、本当に仲が良い親子だな。特にお母様とお祖父様の話がつきない。と、突然お母様の話が止まる。



「そろそろ、ヴィシュタリア達が来る時間ですね」


「そうだな。そろそろだな」


「では、私達部屋に戻っておりますね。後程パーティーで」


「おいおい、せっかくだから挨拶だけでもしておけば良いだろう。弟だろう」


「ヴィシュタリアに挨拶するのは、やぶさかではないですけど。あの女狐には、会いたくないですから」


「女狐って、お母様」


「ふん、女狐は、女狐です」



 お母様が女狐と呼んでいるのは、叔母様の事だ。弟であり、現帝国大将軍である、ヴィシュタリア=フォルスト=ホルスの妻だ。どうもお母様とは、相性が合わないらしい。まあ、僕もあまり好きではないけど。



「仕方がないやつだ。まあ良い。では、後でな。マックスは、頼みたいことあるから、後でな」



「はい、お祖父様」




 僕達は、部屋を離れ廊下を進む。振り替えると、女狐一向が到着したようで、人影が見える。まあ、僕達は、洋服に皺をつけないように休憩だ。パーティーまでは、後3時間はある。




 時間になり、お父様とお母様は、賓客の出迎えもあり、先に出た。そして、僕は一人部屋を出て廊下を進む。いけない。ピアスを外さないと。






 インディリア様とリーンデリア様と並ぶ。インディリア様が、私に声をかける。


「頼むぞ、マキシ」


「はい」


 抑揚のない声が響く。





「シルキリア帝国ホルス大公家御頭主にして、元帝国大将軍及び、帝国筆頭騎士。インディリア=フォルスト=ホルス大公御入室!」



 部屋に入ると、私達三人以外は全員頭を下げている。いよいよお祖父様の誕生日パーティーが始まった。

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