ぼくとその女の子【2】
同じ学年の他のクラスに特別な子がいる、ということは前から知っていた。まあ、外見はとんでもなく目立つので、知らずに学校生活をおくるというのは不可能なんだけど。
ぼくはクラスメイトに関してあまり関心が無いし、詳しくない。いや、無かったというのが正しいのかな。
本当は、ただ単に怖がりなだけだったんだと思う。人と積極的に関わることはできないくせに、今の状態にも満足してなくて、自分を変えてくれる、背中を押してくれる、高みに引っ張り上げてくれる「何か」を、きっと求めていたんだと思う。
進級し、クラス替えが行われ、ぼくはそんな特別な存在と偶然隣の席になった。間近で見た時の存在感に圧倒され、今まで感じたことのない種類の強い興味を持った。
その子に関しても、少しずつだけれど、知っていった。普段は一人でいることが多く、教室で静かに本を読んでいることが多いこと。学校を休みがちなことと、その理由。そして、実際に話してみた時のその子が、普段の印象とは違って、意外とたくさん喋ってくれて、それも温かい接し方で、そして今まで言ったことと食い違うようだけれど、普通の子でもあるのだということ。
「小倉さんは、今日も休みね。」
隣の席のその子は、学校をよく休む。別に重い病気を持っているとかそういう悲しい理由ではなく、彼女は今、仕事で東京に行っている。
小倉くれはは今順調に知名度を伸ばしている売り出し中の子役である。すでに何本かのドラマや映画に出演していて、銀髪の小学生のインパクトと、子供とは思えない高い演技力は瞬く間に日本中を駆け巡っている。
もしかしてあの本って…。ぼくはこの前くれはが読んでいた本を思い出す。ベストセラーを何本も出している人気作家の最新刊だった。あの作品もいずれ映像化する可能性も高い。小学生が読むにしては難しい本だし、もしかしたらもうあの作品への出演も決まっているのかもしれない。そもそも今日の仕事自体が、あの作品なのかも。
全部妄想だけれど、あり得ない話では決してないことはわかっているんだ。
芸能活動をしていると知って、ぼくは少なからずショックを受けた。芸能界というのが、ああいった特別な人たちが集まる場所だと改めて思い知らされたからなのか、それともぼくの隣の席の少女が本当に特別な存在で、世の中が放ってはおかない、ぼくとは住む世界の違う人間なんだと外の出来事から客観的に認識できてしまったからなのかはわからない。
それでも。いや、だからこそ。
「おはよう。」
くれはが学校に来て、ぼくの後ろを通り、静かに着席する。ぼくのことなんて気にも留めない。そう思ったとき、不意に横目でこちらを見て小さな声でぼくに告げる。顔全体は見えないけど、微かに微笑んで、少し恥ずかしそうにしている気がする。その一瞬で、ぼくはたまらなく嬉しくなる。チョロい。かっこ悪い。ダサい。完全にこの子に翻弄されている。
この子はすぐにぼく達を置いて高く高く昇っていくのだろう。今だけはまだ、どういうわけか身近な存在でいてくれようとしている。それがいつまで続くのかはわからない。
だったら。
ぼくも何かしらの特別な存在になりたいと、また強く、思ったんだ。
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