第14話 昼下がり、運ゲーにて

昼下がりに、テーブルを挟んで対面する大学生がふたり。中央には乱雑に置かれたカードがある。


「……」


「……」


「こっちか」


「さあ、どうでしょう?」


「……こっちだな」


「どうでしょうねぇ?」


にまにまと笑う蒼衣の前で、2枚のカードがぴこぴこ揺れる。


その片方──左側のカードに手を伸ばしながら、彼女の表情や仕草を観察し、今度はもう片方のカードへと手を動かす。


「こっち──と見せかけてこっちだ!」


「残念っ! そっちがジョーカーですー!」


「ぐぅ……っ!」


してやったり、と笑う蒼衣の手元には、当たりのカード──マークはわからないが5──がある。


そして、俺の手元にはクローバーの5と、今しがた引いてしまったジョーカー。


この道化のカードが最後に残ったほうの負け。まあ、つまりは、ババ抜きをしている。


「ふっふっふ……。先輩、ほら、早くしてください」


「いやちょっと待て。シャッフルする」


蒼衣から見えないよう、背中に隠して何度も入れ替える。さて、俺もどちらがジョーカーかはもはやわからない。


「よし、こい!」


ばしっ、と音を立てて、俺は両手のカードを机へと叩きつける。


蒼衣は俺の小さな反応ですら、見逃すことなく気づくだろう。なので、ノールック戦法だ。これなら俺は一切反応することはないので、完全な2分の1、運ゲーである。


「むむ、そうきましたか。そうきますよね。うーん……じゃあ、こっちで!」


数秒悩んだのち、彼女が選んだのは、俺から見て右側のカード。


「ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサーです」


「よし、じゃあいくぞ。オープン!」


ばしっ、とまたも音を立て、カードをひっくり返す。


そこに描かれていたのは、ふてぶてしい顔の道化──ではなく、クローバーの5。


つまり──


「はい、わたしの勝ちです!」


「シンプルに運で負けた……ッ!」


いえーい、と机の真ん中、捨て札の束へと蒼衣が手持ちのカードをぽい、と投げる。その上に、俺は左手側のカードを裏返し、放り投げた。このジョーカーのイラスト、嘲笑っているようでムカつくな……。いや、ジョーカーってほぼこういう柄か。


「次は何します? もう一戦やりますか? それとも、違うのにします?」


「せっかくだし、別のにするか。大富豪とか」


「あれ、ローカルルールが多すぎて面倒くさくありません……?」


「それもそうだな……」


やれ、このカードにはこの効果があるとか、ないとか、縛りがどうとかなんとかかんとか。そのあたりのルールを詰めるところからはじまるのが大富豪だ。ちなみに、大貧民という呼び方もあるらしい。もはや、基本ルール以外はほぼ統一感がないイメージだ。


さくっと遊ぶには、少し面倒が過ぎる。


「神経衰弱とかにしとくか」


「いいですね、あれ得意ですよ、わたし」


ふふん、と自慢げに笑う蒼衣。しかし、その直後に疑問符が浮かび、首がこてん、と傾けられる。


「あれ? ……先輩、このトランプ、ずいぶんとサイズがバラバラですね。サイズ、というか、まっすぐ切れてないんですかね。安物にしても、質が悪過ぎませんか?」


「あー、それ、本当は普通のトランプじゃなくて、マジック用だからな」


「マジック用、ですか?」


「おう。タネも仕掛けもある、マジック用のトランプだ」


そう言って、俺は蒼衣の手からトランプを拝借。カードの上下をひっくり返し、山札を整える。


「ほら、これで綺麗になる」


「あ、ほんとです。これ、どういうことなんですか?」


つい、と山の端を細い指でなぞり、まっすぐなことを確認している蒼衣。どうやら、興味があるらしい。


ふむ、せっかくだ。


「説明も兼ねて、見せてやろう」


「わ、いいんですか? 楽しみです!」


目を輝かせる蒼衣を見ながら、咳払いをひとつ。


「こちらにありますは、タネも仕掛けもありません、普通のトランプです──」


「さっきどっちもあるって言ってませんでしたか!?」

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