第15話 スペードのクイーン

2、3度軽くカードの束を切り、扇状に広げる。


「好きなカード、1枚選んでくれ」


「ええと、じゃあ……これで」


そう言って、蒼衣がおそるおそる引いたのは、中央あたりのカードだ。


「ん、じゃあカードの柄と、番号を俺に見えないように見て、覚えてくれ」


そう言って、俺は山札を左手から右手へと持ち変える。


「……はい、おっけーです。覚えました」


丁寧にカードを確認した蒼衣は、それを見えないように胸の前で持っていた。


さて、当然俺はこのカードの中身を知らない。知りようもない。


もちろん、手の中にある山札のカードも知らないし、順番さえもわからない。


そんなカードの束を、また扇状に広げる。


「じゃあ、そのカードをこの中に戻してくれ。どこでもいいぞ」


「ほ、本当にいいんですか? ……じゃあ、ここで」


「よし、じゃあシャッフルするぞ」


そう宣言して、俺はよく見えるように、あえて蒼衣に差し出すようにして山札を切る。


3、4、5……このくらいでいいだろう。


とん、と音を鳴らして、トランプを机へと当て、角を揃える。


これで、準備は完了だ。


「それでは、あなたが選んだのは──」


山札の上、その1枚目をめくる。


それは、スペードの7だ。


それを見た蒼衣が、少し眉をひそめる。


それも当然だ。


なぜなら──


「──これ、ではありませんね?」


「違いますね……」


一瞬、マジックに失敗したと思ったのだろう。だが、どうにも俺の言い方に引っ掛かりを覚えたらしい。


「あなたが選んだカードは、この山札、それも上から3枚目にあります。では、まず1枚目。違いますね?」


俺がめくったのは、ハートの4。こくり、と頷いた蒼衣を確認して、次のカードをめくる。今度はクローバーの9。


視線を向けると、首を横に振っている。


「では、3枚目。これがあなたの選んだカードです。それは──」


無駄に芝居がかった演技をしながら、俺はゆっくりとそれをめくる。


「──スペードのクイーン、ですね?」


「せ、正解です……! すごいです!」


おぉー! と声を上げながら、カードを確認する蒼衣。ひっくりかえしたりしているが、当然、普通のカードだ。


「と、まあこんな感じのマジックができるのが、このトランプだ」


「どういう仕組みなんですか!? 見た目は普通のトランプと同じですし、他のカードとも同じですし……。というか、毎回引かれるカードだって違いますよね……。どうやって……?」


くるくるとカードを回して見ているが、それでは気がつけない。


「じゃあ、種明かしといこうか」


そう言って、俺はにやり、と笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る