第12話 どんなじゃなくて、誰か

「結構楽しかったですねぇ」


「俺はどちらかといえば疲れたな……」


ベッドの上に寝転がったまま、大きくため息を吐くと、蒼衣がくすくすと笑う。


「こんなに可愛い女の子から、何回も告白されたんですから、仕方ありませんね」


「……」


いや、そこではないんだが……。


まあいいか、とは思いつつ、一応は違うぞ、と視線を向けてみる。だが、蒼衣は素知らぬ顔でベッドから立ち上がった。


「ちょっと遅くなりましたけど、お昼ご飯にしましょうか。何か食べたいもの、ありますか?」


「……いや、特にはないな。冷蔵庫の中身は?」


「今はちゃんとありますし、結構なんでも作れちゃうんですよね。うーん……」


頬に指を当て、考える蒼衣。どうやら、今日は冷蔵庫の中身から逆算してメニューを編み出すのは難しいらしい。


となれば、自力で考えるしかないのだが。


……俺が思いつく昼飯って、限られてるんだよなあ。


昼食からあまり手間をかけさせるのも悪い。簡単なもので、となってくると、時折、ひとりで俺が作るものくらいしか思いつかない。


うどん、オムライス、卵かけご飯、インスタントラーメン、くらいだろうか。


まず、後ろのふたつは論外だ。


これ、俺でも味変わらないからな。蒼衣に作ってもらうには、もったいないにもほどがある。


そうなると、必然的にうどんかオムライスの2択だが──


「オムライスだな、オムライス」


気分はうどんよりオムライス。自分ではできないレベルの、ふわとろが食いたい。


「オムっちゃいますか」


「オムってくれ」


「味はどうします?」


「シェフのおまかせで」


「りょーかいです。じゃあ、ちょっと待っててくださいね」


そう言って、ウィンクとともに、軽く敬礼をした彼女は、とてて、と台所へと向かう。


その背中を眺めながら、俺は小さくため息をひとつ。


……なんというか、精神を削られる告白が多かったな……。


そのせいか、やけに疲労感が強い。次はもう無いと思いたい。


まあ、可愛かったり、柔らかかったりと、良いことも多かったのだが。


演技ですらこの疲労感なのだから、終盤の告白ラッシュを受けるラブコメ主人公は、どういうメンタルをしているのだろうか。ただ連続で告白されるだけでなく、その大半を断っているというのだから、恐ろしい。鋼すぎる……。


ラブコメ作品の主人公へと、畏怖にも似た尊敬をしていると、台所へ向かったはずの蒼衣がぴょこん、と顔を出す。


「あ、そうです。一応言っておきますけど、わたし以外にあんな告白されても、受けちゃダメですからね? ちゃんと断ってくださいよ?」


「当たり前だろ」


指で小さくバツを作りながら、そう言ってまた台所に帰っていく蒼衣。


まったく、何を心配しているのだろう。


どの告白も、蒼衣だからここまで効果があったのだ。シチュエーションも重要だが、一番大切なのは、誰からの告白か、だ。


たとえ、どんなにいいシチュエーションでの告白であっても、蒼衣でなければ意味がない。そこのところがわかっていないなら──


「これは減点だな」


苦笑しつつ、台所へと視線を向けて、呟いた。

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